横浜市が創造都市政策の一環として展開する「創造界隈拠点」に、都心臨海部以外では初となる拠点が誕生しました。
2026年8月24日、相鉄本線「星川駅」直結の場所にオープンした「Sta.R(ステーション・アール)」です。Creativity(創造)× Circularity(循環)× Culture(文化)をコンセプトとする循環文化創造拠点で、Circular Yokohamaを運営するアーティクル株式会社と合同会社Route Designによる「Creative Circular City Collective」が、横浜市・相模鉄道株式会社との連携のもと運営しています。
9月1日、そのオープンを記念したトークイベント「Creative Circular City – 循環と文化の交差点から、創造都市・横浜の未来を考える -」が開催されました。横浜市 にぎわいスポーツ文化局 局長の足立哲郎氏と、保土ケ谷区長の神部浩氏が挨拶に立ちました。神部氏は、2027年3月に開幕する「GREEN×EXPO 2027」では資源循環も大きなテーマであることに触れ、GREEN×EXPO 2027の前にこの拠点ができた意義を語りました。本記事では、続く拠点の説明とパネルトークの模様をレポートします。

循環文化創造拠点「Sta.R」とは
駅を「通り過ぎる場所」から、「目的地」に
拠点を紹介したのは、アーティクル株式会社 代表取締役の加藤佑です。加藤は、横浜が人口減少の局面に差し掛かっているというニュースに触れ、「時代の転換点に立つこの街・横浜に、新しいシビックプライド(まちへの誇り)のあり方が必要なのではないかと考えていました」と切り出しました。

横浜の誇りといえば、みなとみらいの美しい都市景観です。しかし、臨海部の開発はほぼ終わり、その計画の視野は少しずつ内陸部へと移りつつあります。加藤は、シビックプライドの源泉もこれから変わっていくと考えています。
「内陸部では、外から眺める美しい都市景観だけでなく、日々の暮らしのなかで内側から感じるまちの魅力が、新しいシビックプライドの源泉になるといいなと考えています。これからは、与えられた『みらい』を楽しむだけでなく、自分たちの手で『未来』をつくるという気持ちが求められるはずです。そうなったとき、非日常(ハレ)の場で芸術を楽しむことに加えて、日常(ケ)の暮らしのなかにも芸術を持ち込めるのではないかと考えました」
星川は、脱炭素先行地域のみなとみらいと、GREEN×EXPO 2027の会場である上瀬谷との中間に位置します。加藤は「港の文化と内陸の文化が交わる星川という場所だからこそ、多様なものが生まれ、さまざまな循環が回っていくのではないかと考えました」と振り返ります。この構想を具体化していくなかで、「循環」と創造都市政策を掛け合わせた「循環文化創造拠点」というコンセプトが生まれました。

名称には、星川の「星(スター)」、駅の「ステーション」、そしてRespect、Reuse、Repair、Remake、Recycleなどの様々な循環を象徴する「R」が重ねられています。
「駅は便利な場所ですが、それを『通り過ぎる場所』から『目的地』に変えていきます。これからの駅の価値を再定義しながら、星川のまちの魅力を前面に打ち出し、暗がりのなかだからこそ美しく輝く、星のような場所にしたいと思っています」
削除: もともとは何もないスペースで、日当たりもよくありません。加藤らは、その使いづらさにこそ可能性を感じたといいます。

「一般的には価値がない、使いづらいと思われているものにどのような価値を見出すのかが循環を実現するうえで大事です。その意味で、人気の場所ではなく、あえて日当たりも悪くずっと空きスペースのままだったこの場所の方がコンセプトに合うと思い、『ここだ』と決まりました」
3つの機能と、地域の循環でできた空間

Sta.Rには3つの機能があります。地域から集まった素材に出会える「Material Library(マテリアルライブラリー)」、循環をテーマとする作品の鑑賞・発表ができる「Я gallery(アールギャラリー)」、循環をテーマにしたグッズを販売する「Re:store(リストア)」です。

また、空間そのものも、地域の循環からできています。
▽空間に使われている主な循環素材:
- 回収したペットボトルキャップからつくった天板(相鉄グループ、星天qlay、株式会社湘南貿易との協働)
- 横浜市内から出た廃棄予定の消防ホースを活用したカーテン(株式会社清水商工ほかとの協働)
- ニッコー株式会社から譲り受けたデッドストックのタイル
- クローズした東京の拠点「ELAB」から引き継いだ什器
- 横浜市の小学校の改修で出た体育館の床材
- AGC株式会社から譲り受けた、長野県・諏訪で回収されたリユースガラス
- 回収衣類からつくられた繊維リサイクルボードと、中古CDを活用したサインボード(GREEN FLAGとの協働)
設計は株式会社オンデザインパートナーズ、施工は株式会社フクザワが担当しました。
なかでも象徴的なのが、帷子川の砂からつくったガラスです。もう1つの創造界隈拠点「BankPark YOKOHAMA」でのつながりから「チーム帷子川」が生まれ、メンバーが採りに行った川の砂を原料に、AGC株式会社のメンバーらの協力によりガラスがつくられました。土地によって砂に含まれるミネラルが違うため、ガラスの色も土地ごとに変わるといいます。
「透明なガラスは向こうが見えますが、その土地のストーリーはまったく見えません。色のついたガラスは向こうが見えにくい一方で、その土地のストーリーが見えるのです。このガラスは、ガラスの価値である『見える』を再定義しているのです」

最後に加藤は「Sta.Rは1つの出発点です。ここだけではなく、横浜全体でこういう場所をつくりたいと思っています」と述べ、空き家や団地にも同じような拠点が増えていく展望を示しました。
第1部「Creativity × Circularity 〜Sta.Rはどのように循環を創造できるのか?〜」
▽パネリスト:
園田大介氏(横浜市 にぎわいスポーツ文化局 創造都市推進課 担当係長)
西田司氏(株式会社オンデザインパートナーズ 代表)
津田賀央氏(Route Design合同会社 代表/PILE -A collaborative studio- 運営代表)
▽進行:
永野祐子(アーティクル株式会社 Chief Design Officer)
創造都市政策が郊外へ向かう理由

最初のテーマは「創造都市政策は、なぜ都心臨海部以外へ向かうのか?」。園田氏によると、横浜市の創造都市政策は約20年前、オフィスの空室率が上がり元気を失っていた関内地区で、アートやクリエイティブの力を活かせないかという発想から始まりました。歴史的建築を残し、アーティストやクリエイターに創造的に使ってもらう。そうした場が「創造界隈拠点」です。
臨海部での活動が活発になってきた一方で、人口減少や少子高齢化が進み、このままでは地域の未来が立ち行かなくなるという状況もあります。園田氏は、3年ほど前から郊外への展開を仕掛けてきた背景をこう語りました。
「創造都市政策が20年前から取り組んできた手法は、もしかしたら郊外の地域でも活かせるのではないか、地域の課題解決につながるのではないかと考えていました」
そこで浮かび上がったのが、「星天qlay」2階にある行政用の区画でした。関係部署はどこも気にかけながら、使い方を決めかねていた場所だったといいます。
既存の建物を活かす設計とは
続くテーマは「循環は設計できるのか?」。Sta.Rの設計を担った西田氏は、既存の建物を活かす設計の考え方を紹介しました。古い建物に手を加えるとき、設計者は、どこまで壊し、どこまで壊さないのかを決めなければなりません。西田氏は、壊す範囲だけでなく「どこまで壊さず活かすのか」を考えるこの設計の姿勢について、「いまの日本の感覚よりも、少し先に必要になることだと思います」と語りました。
Sta.Rの設計では、つくれるものも手を入れられる場所も限られていました。そのなかで加藤から、デッドストックのタイルを使う提案があったといいます。西田氏は、使えなかったものを使い、使われていなかった場所を使うという発想の転換が印象に残ったと振り返りました。そして、未完成のまま新しいものが立ち上がる余地を残した、いまの状態そのものを高く評価しました。

Sta.Rのアートディレクションを担当した永野は、Sta.Rが未完成だからこそ、施工に直接関わっていないメンバーが現場に来ると「これって、何かできませんか」とアイデアを出してくれるのがすごくいい、と応じました。この話を受け、「あとはこれからみんなでやっていきます」というくらいのほうが、関わる人たちの自分ごとになっていくのではないか。壇上では、そんな見方も示されました。
永野は、ブリコラージュ(今あるもので何とかする)という考え方に触れ、Sta.Rでは「ごみが出たら、それで何とかしてみよう」という姿勢が生まれていると話しました。西田氏は、「Sta.Rにある材料には、ほかの場所なら材料として扱われないようなものもある。そうしたものを活かす感覚を持つ人が増えるのは、すごくいいことだ」と語りました。
「クリエイティブ・サーキュラー・シティ」へ
園田氏によると、創造都市政策はそもそも、使われなくなった建物を使うところから始まっています。使われていないものや廃棄予定のものを活かそうとするSta.Rの試みは、創造都市の考え方につながるといいます。
「気づけば、『クリエイティブシティ』ではなく『クリエイティブ・サーキュラー・シティ』にしたらいいのではないか、という話をするようになってきています。私たちはいま『創造都市』と言っていますが、そこに『循環』を付け加えてもいいくらいの流れが来ていると、本当に思います」
津田氏が、これまでの創造界隈拠点はアーティストなど作り手側の場だったと指摘すると、園田氏は、これからの拠点はより生活に近い場所で生活文化を刺激するものになり、Sta.Rはその先駆けになるのではないかと応じました。不要になったものを住民が持ち寄ることで、拠点との接点が生まれるという期待です。
永野はその兆しとして、7月の廃消防ホースの防災ワークショップに参加した近隣の女性が、ホースをまとまった量持ち帰ったことを紹介し、近くに住む方が、使い手ではなく作り手として関わってくれたように思う、と話しました。
津田氏は、コワーキングスペース「PILE」の運営経験から、素材の循環の背後にあるテーマは、人と人の関係性だと語ります。出会いから協働が生まれ、地域に広がる。その循環をSta.Rにも期待しているといいます。
10年後に期待するのは「想像もしていないこと」
最後のテーマは「10年後、何が起きていたら『循環が生まれた』と言えるのか」。津田氏は、ここで出会った人たちが10年後にもっと大きなものをつくっていることや、新しい拠点が生まれていることを挙げ、それらが「人のつながりという循環の結果」として起きていてほしいと語りました。園田氏は、役所の立場としてというよりは、あくまで個人的な見解ですがと断ったうえで、次のように思いを語りました。
「いまの時点で私たちが想像できることは、本当に面白いことなのでしょうか。むしろ、思ってもみなかった方向へ転がっていくほうが、実は本当に面白いのかもしれません」
第2部「Creativity × Culture 〜Sta.Rはどのように文化を創造できるのか?〜」
▽パネリスト:
藤枝慶氏(一般社団法人Cultars 共同創業者・代表理事/株式会社万流 代表取締役)
安澤太郎氏(一般社団法人Cultars 共同創業者・理事/こいのぼり株式会社 代表取締役)
加藤佑(アーティクル株式会社 代表取締役)
▽進行:
津田賀央氏(Route Design合同会社 代表/PILE -A collaborative studio- 運営代表)

文化は、日常のなかに現れている
進行の津田氏は、「カルチャー」はさらっと流せてしまう言葉だからこそ、一度立ち止まって考えたいと切り出しました。企業の文化的な営みを評価する仕組みを開発している「Cultars」の藤枝氏は、挨拶、落書き、年賀状など200ほどの事象を並べたスライドを示し、会場に問いかけます。
「このなかで、『文化』はどれでしょうか」
藤枝氏は1つの見方を示しました。文化というと歌舞伎や茶道を挙げる人が多いものの、実際にはもっと広いのではないか。人が意味を与えて型をつくり、繰り返すなかで広まっていくものが文化であり、そう考えればスライドの事象はすべて文化と呼んでいいのではないか、というのが藤枝氏の考えです。文化は特別な人によって成立するものではなく、日常のなかに現れるものではないかと語りました。
文化を育てるのは「試み」と、その応援
では、文化はどう育まれるのか。Cultarsは、意図の有無と、繰り返すか外れるかの2軸で、文化が形成される過程を、仮説として4つに整理しています。茶道の作法のように意図して繰り返す「型」、挨拶や方言のように無意識に繰り返す「習い」、言い間違いのように意図せず外れる「ほころび」、そして意図的に外れてみる「試み」です。新しい祭りやSta.Rのような場をつくることは「試み」にあたります。新しい文化はこの「試み」から始まるのではないかと提示しつつ、それだけでは足りないと藤枝氏は言います。
「大事なのは、試みることだけではありません。試み、つまり逸脱を受け入れ、応援し、肯定することが、とても大事になるのではないかと思います。試みているだけでは、おそらく文化として繰り返されていきません」
例に挙がったのが、米国のエフェクターメーカー、EarthQuaker Devicesです。ある社員が「私はアーティストだから」と、製品の裏蓋に猫の絵を勝手に描いたところ、社長はそれを許して出荷を始め、やがてファンに喜ばれるようになったといいます。藤枝氏は「こうした逸脱を、文化が生まれる瞬間なのではないかと思ったのです」と振り返りました。
文化に対しては、ROI(投資対効果)を問う声も多いといいます。藤枝氏は、それは仕方がないとしつつ、最初の「耕す」部分、つまり土壌や根にあたるところに、自由度や遊び心、逸脱を許す空気を取り入れることが大事だと述べました。安澤氏も、成果ばかりが評価されがちだと指摘し、「成果だけでなく、『耕す』部分を意識したいと思います」と語ります。藤枝氏は、カルチャーの語源に話をつなげました。
「カルチャー(Culture)の語源は『カルチベート(Cultivate)』、つまり『耕す』から来ているはずです。土壌に目を向けずに、何に目を向けるのでしょうか」
「混ぜてもいい社会」をつくる
ディスカッションで津田氏は、先ほどの猫の絵を描いた社員も、同僚がいたから描けたのではないかと述べました。
「誰かと誰かが出会い、刺激し合うことで新たな試みが生まれていると考えると、ここには人と人の交わりが絶対に必要なのではないかと思います」
続いて加藤が紹介したのが、オープン間もないSta.Rでの出来事です。ある日曜日、母親と訪れた小さな子どもが、色別に素材を分けていたMaterial Libraryの展示物に手を入れ、混ぜ始めました。加藤は内心、後で片付けなければいけないな、と頭を悩ませながら見守っていましたが、やがて何をしているのかがわかってきました。
「その子にとっては、料理をつくっていたのです。シャーレはお皿で、木の色の素材がチーズ、パレットの隙間はオーブンだったのです」
5分ほどすると、その子はお皿をスタッフに配り始めました。
「それを見たとき、もしかすると『混ぜればゴミ、分ければ資源』ではないのかもしれないと思いました。子供にとっては、最初からごみも資源も区別はありません。むしろ、いろいろなものを混ぜてもいい社会をつくる、ということが大切なのかもしれません」
子どもの想像のなかで、素材は料理に見立てられていた。加藤は、このような、散らかしているようで何かをつくっているようなあり方こそが、Sta.Rの目指すべき創造的な循環文化なのではないか、と語りました。
藤枝氏はこの話に共感し、ルールで規制したくなる場面でこそ「観察と応援」が大事だと述べました。観察を続ければ、そこで起きていることの大切さが見えてくる。そのうえでルールを変えていけばいい、と考えを示しました。
規制するのではなく、観察し、応援する。藤枝氏のこの考えを受けて、津田氏は「私たちも、このSta.Rでさまざまな試みと逸脱を繰り返していきたいと思います」と第2部を締めくくりました。
編集後記
今回の記念イベントには、行政、建築、コミュニティ運営、文化研究と、立場の異なる実践者が集まりました。
そこで繰り返し語られたのは、価値がないと思われてきたものの見方を変える、ということでした。日当たりの悪い駅の片隅。ほかの場所なら材料として扱われない廃材。向こうが見えにくい、色のついたガラス。そして、子どもが混ぜてしまった素材。どれも、見方を変えることで、拠点になり、什器になり、土地の物語になり、新たな価値になりました。
循環型のまちづくりは、分別や再資源化の仕組みとして語られることが多い分野です。しかし、この日の議論は、その手前にある「ものを見る目」と、試みを面白がって応援する人の存在に目を向けていました。そこから見えてくるのは、循環は、資源や素材の話にとどまらず、人の関係や日常の文化の話でもあるということです。創造都市政策と循環が星川で重なった意味は、そこにあるように思います。
駅の片隅に生まれた未完成の拠点に、地域の人の試みと応援が一つずつ重なっていく。その先に、横浜らしい循環の文化が育っていくのでしょう。

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