株式会社竹中工務店は、横浜市中区の歴史的建造物を活用した文化交流拠点「BankPark YOKOHAMA」にて毎月、サステナビリティをテーマにしたトークイベントシリーズ「Collab Meeting」を開催しています。2026年8月20日(木)には第5回目となるイベントが開催されました。
今回のテーマは「民間企業が考える都市と資源循環」。2026年9月3日(木)4日(金)に横浜で初開催される「アジア太平洋循環型都市フォーラム(APCCフォーラム)」内のビジネスセクターセッションを先取りする形で、総合建設会社である竹中工務店、資源循環のデータインフラ「pool」を運営するレコテック、食品加工機械や紙容器充填包装システムを手がける日本テトラパックの3社が登壇しました。
異なる領域で資源循環に取り組む3社が、都市を舞台に、資源を「捨てずに循環させる」ために何が必要なのか、企業と自治体の連携にはどんな可能性があるのかを議論。本記事では、APCCフォーラムの開催に先駆けて行われた本イベントの様子をレポートします。
「アジア太平洋」と「都市」から、循環経済の未来を考える
まずはじめに、横浜市政策経営・国際戦略局グローバル都市戦略担当課長の谷澤寿和さんがAPCCフォーラムの開催背景について紹介しました。

今回のAPCCにおいて、谷澤さんがキーワードとして挙げたのは二つ。一つ目は、「アジア太平洋」です。
サーキュラーエコノミーというと、欧州の取り組みが先行しているイメージがあります。しかし、世界人口の約6割を抱え、製造業のサプライチェーンも集中するアジア太平洋地域で循環経済を進めることは、世界全体の環境負荷を考えても大きな意味を持ちます。
そして、もう一つのキーワードが「都市」です。
「国がルールをつくり、企業が技術やサービスを生み出し、消費者がそれを選択する。そうしたさまざまな要素が実際に展開される場所が都市です」
自治体には、廃棄物の回収やリサイクルだけでなく、こうした循環の仕組みが実装される都市環境をつくる役割があります。だからこそAPCCフォーラムでは、都市という単位からサーキュラーエコノミーを捉え直すといいます。
特に谷澤さんが「世界的に見てもユニーク」と話すのが、都市レベルでのサーキュラーエコノミーの取り組みを横断的に捉えようとしている点です。
「国レベルでサーキュラーエコノミーを分析するレポートに触れる機会はありますが、都市レベルでどのように取り組んでいるのか、どんな課題があるのかをまとめたレポートはあまり見かけません」

今回、横浜市が中心となって立ち上げた「アジア循環型都市宣言(ACCD)」には、アジア7カ国・26都市が参加。APCCフォーラムのクロージングセッションでは、参加都市がどのような取り組みを行い、どんな課題を抱えているのかをICLEI日本(持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会)が分析した結果も発表される予定です。
アジア太平洋の都市を舞台に、それぞれの都市がどのように循環経済を実践しているのか。その現在地と課題を共有しながら、これからの循環型都市の姿を考える――。それこそが今回のAPCCフォーラムを開催する目的だといいます。
企業は、都市とどう連携して循環を実装するのか
続いて、9月4日のビジネスセクターセッション「循環経済に向けた産業変革と都市の役割~循環経済を推進する企業は都市に何を求めるか~」に登壇する3社から、それぞれの取り組みが紹介されました。

日本テトラパックの大森さんは、紙容器だけではなく食品加工機械まで提供する「トータルシステムサプライヤー」としての事業を紹介。そのうえで、2050年までのバリューチェーン全体でのネットゼロを目標に、容器の素材転換やリサイクルの推進に取り組んでいると説明しました。
サトウキビ由来素材への切り替えによるCO₂削減や、回収拠点の整備、消費者への啓発など、幅広い取り組みを紹介しながら、大森さんは「容器をつくるだけでなく、飲み終わった後まで含めて考えることが重要」と、資源循環に向けた取り組みへの意気込みを語りました。

続いて事業を紹介したのは、レコテックの大村さん。資源循環をデザインするスタートアップとして、アジアの廃棄物問題にデジタルインフラの構築という形でアプローチしています。
「大消費地を大供給地へ」というコンセプトを掲げる同社。社会情勢や法規制の変化などを背景に、廃棄物は「処理するもの」から「調達する資源」へと変わりつつある一方、分別のインセンティブや回収の非効率性が課題だと指摘します。廃棄物の量や種類をデータで可視化し、排出者・回収事業者・資源の利用者をつなぐサービス「pool」は、横浜市の公共施設などにも導入され、回収ルートの効率化にもつながっているといいます。
さらに大村さんは、「現状どのぐらいの量のごみがあるのか、どの程度減ったのかをデータで把握することが重要」と指摘します。都市に眠る廃棄物を「地上の油田」と捉え、ごみの一次データを取得する仕組みをアジア全体で整備することを提案しました。どこに、どんな資源が、どれだけあるのかをデータで把握できれば、資源を集めて価値を生み出すことができます。それによって、これまで処理費用をかけて埋め立てていたものを資源として利益に変え、公衆衛生の改善だけでなく、民間投資を呼び込むことにもつながると語りました。

最後にマイクを手に取ったのは、竹中工務店の福井さん。同社は建築・まちづくりの分野で「サーキュラーデザインビルド」を掲げ、設計から施工、解体・廃棄まで建物のライフサイクル全体を捉えた取り組みを進めています。
建設業では大量の資源を消費する一方、解体時には大量の廃棄物が発生します。同社では最終処分量を2050年までにゼロにすることを目標に、建材のリユースやマテリアルリサイクルなどに取り組んでいます。また、建築デザイナー向けのサンプルマーケットプレイス「Material Bank」の運営会社と協力し、建材の循環性を比較・検索できる機能を開発。設計段階から「循環」を組み込む仕組みづくりも進めているそうです。
さらに福井さんが注目しているのが、今回のAPCCのキーワードにもなっている「アジア」です。これまで欧州を中心にサーキュラーエコノミーを学んできた同社ですが、今年はインドネシアやシンガポールを訪問。「欧州型のルールをそのまま取り入れるのではなく、日本やアジアならではの資源や文化を生かした循環のあり方を考えたい」という問題意識から、森林資源の活用や、伊勢神宮の式年遷宮に見られるような、ものが形を変えながら循環する日本の文化に可能性を見出していると話しました。
企業は自治体に何を期待する?循環経済を進めるための課題
続いては、3社が揃ってのパネルセッションです。ファシリテーターを務めるアーティクル株式会社の加藤から、「企業と自治体が連携してサーキュラーエコノミーを実装していく上で、自治体に期待することは?」という問いが投げかけられました。

大村さんは、資源循環の大きな課題として「ごみの回収ロジスティクス」を挙げました。リサイクル材は新品の素材よりも高くなりやすく、企業が循環資源を調達する際の経済合理性が課題になるため、「たとえばリサイクル資源を調達するための補助金が出ると、循環が進むのではないか」と提案。さらに、自治体が保有する公共施設などを起点に民間企業を巻き込み、自治体が旗振りしながら地域内にある資源の密度と回収効率を高めていくことの重要性を指摘しました。
福井さんは、全国の自治体で仕事をするゼネコンの立場から「地域性」が重要だと語りました。全国一律の法律や制度が必ずしも地域の実情に合っていないことを課題として挙げ、「ある程度、その地域の状況に応じた法律の運用をしていく必要がある」と話します。特に有価物の取引や動静脈連携においては、物流や許認可に関する課題があるほか、新しい取り組みの場合は先行事例がないため、関係者の理解を得るまでに時間を要することが多いと言います。
また、横浜のような大都市だけでなく、地方や中山間地域にも目を向ける必要性を指摘。「建物の維持保全やコミュニティの維持など、ソフト面の取り組みも必要だと思います。サーキュラーなまちづくりをして、さらには経済合理性まで合わせていく。そういったチャレンジが必要だと思います」と、地域ごとの資源や課題に合わせた循環のあり方を提案しました。

大森さんは、テトラパックが取り組む紙容器のリサイクルを例に、「いかに効率的に回収するか」は業界共通の課題だと説明します。紙容器は軽く、少量ずつ分散して排出されるため、回収事業者にとって効率が上がりにくいのだそうです。その点、日本ではスーパーなどにおける店頭回収が重要な役割を担っているといいます。
「消費者がスーパーの店頭まで行く。つまり、一次回収はもう消費者がやってくれているんですね」
こうした小売事業者による回収を、大森さんは「社会インフラ」と位置づけます。人手不足や高齢化などによって、スーパーがこれまでと同じように回収を続けることが難しくなれば、自治体がその役割をすべて担うことも容易ではありません。「自治体が今あるシステムを認識して、何かしらのサポートが小売事業者に行くようにできれば」と話し、既存の民間による回収システムを社会インフラとして捉え、自治体や国が支援する必要性を訴えました。
さらに、自治体による市民への啓発にも期待を寄せます。「消費者がごみなのか、資源物なのかを判断するのに一番頼りにしているのが自治体のガイドライン」と語り、自治体が発信する情報は消費者から高い信頼を得ているからこそ、自治体が市民に分別回収の啓発を行うことで、より循環を広げられるのではないかと話しました。

こうした企業側からの意見を受け、谷澤さんは、APCCフォーラムでビジネスセクターセッションを設ける意図について、「まさにこういう議論を期待していた」とコメント。「横浜市だけではなく、他の自治体やアジアの自治体の人にもこういった声を聞いてもらいたい」と話しました。
また、APCCフォーラムでは、企業と横浜市職員が交流する機会も設けられていることにも言及。企業からの提案を単発の事業や実証実験にとどめるのではなく、自治体との継続的な対話を通じて政策や仕組みの改善につなげるとともに、横浜での議論を他の自治体やアジアの都市へ広げていく考えを示しました。
編集後記
今回の議論を聞いていて印象的だったのは、異業種である3社から共通する課題がいくつも挙がったことでした。「どう回収するか」「どう資源として価値を持たせるか」「制度をどう変えていくか」。それぞれの現場で向き合っている課題を掘り下げていくと、企業だけでは解決できない領域が見えてきます。一方で、自治体だけですべてを担うのも難しいもの。だからこそ、企業が持つ技術やノウハウと、自治体が持つ公共空間や制度、市民との接点をどう組み合わせていくかが重要なのだと感じました。
特に印象に残ったのは、3社から出た「自治体に期待すること」が、単に「規制を変えてほしい」「補助金がほしい」という話だけではなかったことです。つまり、企業が自治体に求めているのは、何かをしてもらうことだけではなく、地域の中で資源循環が起こりやすい環境を一緒につくることなのかもしれません。
今回のイベントは、企業と自治体がそれぞれの立場から資源循環について考え、率直に意見を交わす場となりました。こうした対話が個別の実証実験や取り組みを超えて、都市そのものの仕組みを変えていくきっかけになることが期待されます。
9月に開催されるAPCCフォーラムでは、今回の議論をさらにアジア太平洋地域へと広げ、さまざまな都市が抱える課題や、それぞれの地域ならではの循環のあり方が共有されます。横浜から始まるこの対話が、どんな循環型都市の未来につながっていくのか。現地での議論にも注目したいと思います。
APCCフォーラム 開催概要
テーマ:アジア太平洋地域における循環型都市移行への道筋~都市の結束と具体行動をGREEN×EXPO 2027とその先へ~
開催日程:
- 2026年9月2日(水)海外招へい都市向け視察ツアー(海外の都市等からの会議参加者が対象)
- 9月3日(木)オープニングセッション、プレナリーセッション、ゼロウェイスト都市に向けた実践セッション 等
- 9月4日(金)ビジネスセクター・セッション、ファイナンス・セッション、都市間連携セッション、ユースセッション、アジア循環型都市宣言制度(ACCD)セッション 等
会場:パシフィコ横浜ノース
主催:横浜市
共同主催:イクレイ日本
形式:対面(一部セッションは後日アーカイブ動画を配信)
言語:英語(日英同時通訳、日本語のみのセッションあり)
参加費:無料
参加登録:ウェブサイトより申し込み(事前登録制)
公式サイト:https://apcc.city.yokohama.lg.jp/
【参照サイト】アジア太平洋循環型都市フォーラム2026 | APCC-Forum 2026
【関連記事】【8/20】BankPark YOKOHAMAにてトークイベント「民間企業が考える都市と資源循環」開催
【関連記事】地域の「らしさ」が出る、循環型都市への道筋を。横浜開催「アジア太平洋循環型都市フォーラム」担当者が描く、都市をめぐる対話と共創
【関連記事】持続可能な未来を担うサーキュラーシティをどうつくるか。循環は「待たずに動く」都市からはじまる【ASCC2025レポート】
