廃棄物から価値を生む。リサイクルで横浜の資源循環を支える「グーン」
- On 2020年10月7日
循環型経済の実現には、いわゆる静脈産業と呼ばれる廃棄物処理企業の存在が必要不可欠です。サーキュラーエコノミーへの移行が進むなかで、静脈産業を担う会社への注目が高まっています。
そして、横浜でその役割を担っている企業の一つが、株式会社グーン(以下、グーン)です。
グーンでは、木材とプラスチックを中心に廃棄物を回収し、資源としてリサイクルする事業を行っています。グーンの事業はそれ自体が環境改善につながっているため社会貢献性が高いうえ、廃棄物問題がより深刻な東南アジアにおいても自社工場を展開するなど広く活動しています。また、オフィスにもアップサイクルデザインを取り入れており、先進的な取り組みを多く手がける、SDGsやCSR活動に積極的な企業です。
今回は、そのグーンより経営企画管理本部 経営企画グループ 副本部長 菊池秀男(きくち・ひでお)さん、ブルーエコノミー研究所 所長 池田桂太朗(いけだ・けいたろう)さん、同じくブルーエコノミー研究所 主任 北井俊樹(きたい・としき)さんに、創業の経緯や事業内容、CSR活動、コロナ禍における廃棄物の現状などについて詳しくお話をお伺いしました。
グーンとリサイクルの出会い
株式会社グーンの創設者であり代表の藤枝慎治(ふじえだ・しんじ)さんは、かつてプロ野球選手としてヤクルトスワローズや横浜ベイスターズで約10年間プレーしていました。その後プロ野球を引退した藤枝さんは株式会社萬世に就職し、建築物の解体工事から出る木材やプラスチックを扱うリサイクル部門を立ち上げました。
1990年から2000年代は、横浜でもG30プラン(旧横浜市一般廃棄物処理基本計画)が始まるなど社会的にリサイクルへの関心が高まった時期です。藤枝さんは2001年、横浜市の焼却炉で焼却処理されていた廃木材のリサイクル先として、株式会社萬世からその子会社の萬世リサイクルシステムズを立ち上げます。これが、現在の株式会社グーンの前身です。
そして2007年には萬世リサイクルシステムズとして独立を果たし、さらに2017年5月、新しくフィリピンに工場を設けることをきっかけに社名を改め現在のグーンが誕生しました。
事業の柱は木材とプラスチックのリサイクル
皆さんは、廃プラスチックのリサイクルには大きく分けて3つの種類があることをご存知ですか。
- マテリアルリサイクル
廃棄物を再利用しやすいよう加工・処理し、新しいプラスチック製品に生まれ変わらせること。例えば公園の遊具やベンチ、建築資材などに活用されている。 - ケミカルリサイクル
プラスチックを化学反応によって処理し、化学原料として再利用すること。取り出した合成ガスに含まれるアンモニアから、虫刺されの薬などが作られる。 - サーマルリサイクル
廃棄物を焼却するときに発生する熱をエネルギーとして再利用すること。取り出した熱エネルギーは、火力発電や温水プールのボイラーなどで利用される。
グーンは、このうちサーマルリサイクルを主として取り扱っており、事業の柱は次の2つです。
ひとつめは、廃木材のリサイクルです。住宅を解体する時に発生する使用済みの木材や物流用のパレット、建築現場の型枠材、住宅の庭に植えられていた木などを引き取り、選別したものを小さな木のチップにします。そして、パーティクルボードの原料や製紙材料、バイオマス発電の燃料として使用できる形にします。グーンの設備では、1日に最大369トンの木くずを処理することができます。
ふたつめは、プラスチックのリサイクルです。回収した産業用廃プラスチックをグーンの工場で破砕選別・圧縮して、フラフという燃料を製造しています。フラフとは、プラスチックを5センチメートル角に粉々に砕いたもののことで、これを集めて1メートル四方のスクエア状にしてストレッチフィルムで巻き、ベール梱包したものを運搬します。製造過程で熱を加えないため環境負荷がより低い燃料で、石炭や石油の代替燃料として用いられており、日本国内では製紙会社で使用するボイラー燃料として活用されています。グーンの設備では、1日最大144トンの廃プラスチックを処理することが可能で、製造されたフラフ燃料は石炭や石油由来の燃料よりも少し安い価格で提供されています。
池田さん「グーンでは、主に一都三県から使用済み原料の搬入を受け、処理後に再利用可能となった原料は、川崎市や静岡県へのトラック輸送のほか、三重へ船舶輸送も行なうなどしてモーダルシフトを推進しています。フラフ燃料の使用によって、燃焼させた時のCO2排出量を抑えられる上、一次エネルギーの使用量も削減できるというところに共感してくださる企業団体の方々にご購入いただいています。」
技術とネットワークを活かして世界でも環境問題に貢献
グーンでは、海外でもリサイクル事業を行っています。2012年、当時の萬世リサイクルシステムズは、横浜市の「Y-PORT事業」のビジネスマッチングを契機にフィリピンの廃棄物処理の状況について調査をはじめました。
フィリピンは、セブ島に位置する「スモーキー・マウンテン」をはじめとするゴミ処理の深刻な問題を抱えています。フィリピンでは可燃物と不燃物の分別が進んでおらず、廃棄物は埋め立ても焼却もされぬままただひたすら集積所に積み上げられていき、やがてゴミ山と化しました。そして放棄された廃棄物が自然発火し大気を汚染したり、川まで流れ出て河川を止めたり、さらにはそれが海まで達し海洋汚染を引き起こしたりしています。
そこで、萬世リサイクルシステムズは2013年から2014年の間に、スモーキー・マウンテンやセブ市内の廃棄物をフラフ燃料にリサイクルする実証実験を行いました。そしてその後、グーンへと社名を変えるきっかけとなったフラフ燃料の製造工場をセブ島内に建設しました。現在セブ島の工場では、日本からの駐在員1名を除いて、工場長や営業、作業員など従業員はすべて現地フィリピンの方々を雇用しています。
横浜市のY-PORT事業は、横浜市内の事業者とアジアを中心とした新興国とを結びつけるビジネスマッチングの事業です。急速な都市化で、未発達な都市インフラが生活環境や自然環境を悪化させている地域を、横浜市内の資源や技術を活用して救済することが目的です。グーンでは、このビジネスマッチングを活かしフィリピンの他にもインドやタイ、ベトナムでも調査を行ってきました。
池田さん「最近では、フィリピンのマニラで家具や衣類のアップサイクルを行っている企業からタイアップの相談を受けています。アップサイクルに取り組んでいても、止むを得ず廃棄物が出てしまいます。今は、その廃棄物をグーンの技術とネットワークで有効活用する方法を思索しています。」
「全額寄付」プライドを持って臨む社会貢献
グーンの代表 藤枝さんが理事長を務めるNPO法人Reライフスタイルでは、ペットボトルキャップの回収を行い、それを売却した収益の全額を、ユニセフを通じて世界の子どもたちのワクチン代金として寄付しています。寄付金額は2020年7月までに4700万円に達し、20円でポリオワクチン一人分と換算すると、214万人分のワクチンを供給したことになります。
菊池さん「ペットボトルキャップを回収する利点は、そのリサイクルのしやすさにあります。プラスチックと一口に言ってもその種類は多種多様で、様々な種類のプラスチックをかき集めても効率的なマテリアルリサイクルはできません。一方、ペットボトルキャップの多くは同じ素材のプラスチックからできているため、単一材料として有効的なマテリアルリサイクルが可能です。」
さらにグーンでは、中華人民共和国・蒙古自治区にある「グローバルの森」で植林活動をしており「GUUNの森」と名付けて、毎月23本の新しいカラマツの木を植えています。
菊池さん「この活動は『グローバルの森&カーボンオフセット 〜小さな努力で未来を創ろう〜』という環境保全プロジェクトです。CO2排出量の削減や、土地の砂漠化・黄砂の防止に貢献しながら、植林を通して現地の雇用を創出しています。2009年に活動を開始し、すでに3000本以上のカラマツの移植を終えました。」
また、毎年開催されている横浜開港祭では、ボランティアブースを出店してペットボトルキャップの回収や市民への廃棄物リサイクルの啓発に力を入れているほか、月一度の地域清掃活動や道路沿いの植栽を通した環境保全活動にも取り組んでいます。
港町ならではの躍動感を活かした大パノラマに出会えるオフィス
グーンでは、オフィスのデザインに廃材を活用したアップサイクルアートを採用しています。
池田さん「横浜市中区に2016年にできたみなとオフィスのコンセプトは『モノ(物)とコト(事)のアップサイクル』です。オフィスは、似て非works株式会社の全面監修によって完成しました。我々グーンの本業は、機械的にモノを再生することですが、オフィスには私たち働く者の想いも取り入れたいということで、アップサイクルデザインを施しました。」
大きな水平連続窓から横浜の港を一望できる開放的なミーティングスペースでは、社内での会議や研修に加え、ヨガ教室やアップサイクルの視点を取り入れたワークショップを開催するなど、スペースを有効活用する取り組みを進めてきました。
コロナ禍で高まるSDGsへの関心と責任
コロナ禍で家庭から排出される一般廃棄物が増えている一方で、企業から出る産業廃棄物は減っています。グーンでも新型コロナウイルスの影響を受け、事業に変化が見られるそうです。
グーンでは建築に伴って発生する廃木材を取り扱うことが多いため、コロナ禍で住宅着工件数が減ったことが原料の搬入量に大きく影響します。また住宅建設においては、長期的に見ても人口の減少の煽りを受けて着工件数が減っていくことが予想されており、まさにリサイクル事業は転換期を迎えています。
一方、処理後のリサイクル資源の需要を見ても、グーンの主な取引先である製紙会社が厳しい現状に置かれているといいます。昨今の働き方の多様化に新型コロナウイルスが追い討ちをかけるように、企業のテレワーク化やオフィスのペーパーレス化が急速に進み、紙自体の需要が下がっています。
そこで、グーンではコロナ禍で需要が高まる屋内の除菌・殺菌を行うサービス「エアリアルコート」に力を入れています。この事業は、業務において廃棄物からの感染リスクがある廃棄物業者を守りたいとの思いから始まりました。オフィスや車以外にも、学校、住宅などあらゆる室内を光触媒と酸化銀でコーティングすることで有害物質やウイルス、カビ、細菌を除菌・抗菌・消臭するサービスです。
北井さん「新型コロナウイルスの影響で、これまで取り組んできた廃棄物処理の事業にはマイナスの変化もありました。しかしエアリアルコートの事業に取り組むことで、時代の流れによって変化する人々の需要に対応し、いま必要とされているサービスを提供したいのです。」
コロナ禍で転換期を迎える社会で、企業のSDGsやCSRへの関心は高まる一方です。今後は資源をどのように循環させ、有効利用できるのかという点にさらなる注目が集まっていくと予想されます。
菊池さん「神奈川県でも『かながわのSDGsへの取り組み』としてSDGsを推進する動きがあり、グーンもパートナーとしてその活動に加わっています。グーンの取り組んでいるリサイクル事業は、まさにSDGsの理念と合致しています。我々の使命は、誰かが不要だと感じる廃棄物を回収して、それを必要としている人たちに届けることです。」
池田さん「今後は、グローカル視点を積極的に取り入れていきたいと考えています。私たちのリサイクル事業は生活に必要不可欠である一方、廃棄物処理と言うと人々から敬遠されがちです。それでも、『グーンならば近くに居ても良い、居て欲しい』と言っていただけるような存在を目指して、社会インフラの一部としての自負を持って取り組んで参ります。」
編集後記
コロナ禍で人々の需要が変化するに伴い、インフラの一部であるリサイクル事業にも変革が求められています。そんななかグーンでは、グーンの持つネットワークを積極的に活かして事業を推し進めていきたいといいます。アップサイクルやサーキュラーエコノミーに取り組んでいても、どこかで漏れ出てしまうエネルギーや廃棄物があります。そんな時、グーンのリサイクル事業が最後の出口となって私たちの暮らしと地球環境を救ってくれるのではないでしょうか。
【参照サイト】株式会社GUUN 公式サイト
【参照サイト】公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会ホームページ
【参照サイト】Kids環境ECOワード公式ホームページ
【参照記事】横浜市ホームページ「Y-PORT事業とは」
室井梨那(Rina Muroi)
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