横浜赤レンガ倉庫100年の歴史を未来へつなぐ。「笑う、サステナブル」が叶える地域活性の形
- On 2023年11月17日
横浜市の観光名所として多くの人に親しまれているみなとみらい地区。その中でも、歴史ある風貌でみなとみらいのシンボルとも言える建造物の一つが横浜赤レンガ倉庫(以下、赤レンガ倉庫)です。
赤レンガ倉庫は明治末期から大正初期に国の保税倉庫として建設され、関東大震災や第二次世界大戦などを乗り越えた後、1989年に倉庫としての用途は廃止しました。その後、1992年には横浜市が国から赤レンガ倉庫の土地と建物を取得し、2002年に文化・商業施設として再建しました。現在は「港の賑わいと文化を創造する空間」の事業コンセプトのもと運営されており、横浜らしい文化を創出する、市民が憩い、賑わう空間として多くの人に親しまれています。
そして開業後初のリニューアルオープンを昨年、2022年12月に果たしました。
今回は、この赤レンガ倉庫の運営・イベント企画などの事業を受け持つ株式会社横浜赤レンガの経営企画部の渡邊陽子さん、木村理紗さんに、赤レンガ倉庫の未来と、リニューアルオープンに制定したサステナビリティ指針についてお話を伺いました。
地域活性化とは?横浜赤レンガが考える「港」としての役割
──横浜赤レンガではどのようなお仕事をされていますか?
渡邊さん:株式会社横浜赤レンガでは、三つの部署の力を合わせて赤レンガ倉庫の運営・イベント企画などの事業を行っています。一つ目が、商業施設の管理を行う営業部、二つ目が、主催イベントを運営するイベント事業部、そして我々の所属する経営企画部です。我々二人で経営企画部の広報を担当し、ホームページの運営やプレスリリースなどでの情報発信を担当しています。
──2022年12月のリニューアル時には、どのような想いを込めてオープンしたのでしょうか?
渡邊さん:今回のコンセプトである「BRAND NEW “GATE”」には3つの“GATE(ゲート)”の意味を込めました。
- 横浜と世界を繋ぐ“GATE”
- 日常と非日常を繋ぐ“GATE”
- 過去と未来を繋ぐ“GATE”
例えば、フードコートでは世界各国の料理を集めたり、横浜ゆかりの企業や老舗の企業に限らず新規の店舗が登場したり、横浜にいながら世界中を旅している気分を味わえることをイメージしました。また、100年以上の歴史を持つ館の魅力を伝えるために、赤レンガ倉庫の歴史を振り返るコーナーを新設しました。
もともと、横浜赤レンガ倉庫がある地区は「港」です。港には既に“GATE”という意味が含まれています。歴史ある建造物を介して多方面との繋がりを構築する。そういった想いを込めて、新しいコンセプトを制定しました。
──交流の場を設けることで、地域の活性化にも繋がりますね。
渡邊さん:はい。この横浜赤レンガ倉庫は、みなとみらい21地区や中華街、山下公園などみなとみらい周辺の地区を結ぶ中間地点に位置しています。そのため、快適な憩いの場や交流の場を提供して地域活性化につなげることができます。
例えば、開催するイベントは「オクトーバーフェスト」や「クリスマスマーケット」のように季節に合わせた様々なイベントを用意し、老若男女問わずいつでも楽しんでいただけるよう企画しています。ほかにも、外部の持ち込み企画を開催してさまざまな方にお越しいただいています。
また、赤レンガ倉庫の周辺施設であるMARINE & WALK YOKOHAMA、横浜ハンマーヘッド、DREAM DOOR YOKOHAMA HAMMERHEADを合わせた4施設で協力し、地域全体を盛り上げることを目指して、定期的に『BAY WALK MARKET』を開催しています。「地域全体で来場者に楽しんでもらいたい」と周辺の商業施設の方とも頻繁に話をしています。
リニューアルで新たに制定した指針「笑う、サステナブル」
──リニューアルを機に、「笑う、サステナブル」という指針を制定されましたが、「笑う」にはどのような想いがありますか?
渡邊さん:未来に向けたSDGsの活動を強化していく中で、自分たちらしい施策を行いたいと考えました。我々は主にイベントの運営や、赤レンガ倉庫内のショッピング体験の提供をしています。それらにおいて、来場者に自然とサステナビリティの推進に取り組んでもらうことが大切だと考えました。「楽しんでいただけで、気がついたらサステナブルなことを実践していた」。そのような体験を提供したいと考えています。
例えば、10月中旬まで開催していた『横浜オクトーバーフェスト 2023』では脱プラスチックを目指し、飲食で使用する容器・カトラリー類を、脱プラスチックの取り組みにより非プラスチック製品で提供しました。また、飲食店舗で排出される廃食用油を提供し、持続可能な航空燃料(SAF)の製造・利用に役立てる「Fry to Fly Project」にも参画しました。
──1年を経て、効果を感じられる施策はありますか?
渡邊さん:今回のリニューアルを期に、サステナブルな活動を事業にしているテナントも参入しています。その一つが、サステナブルな商品を通じてSDGs や地球環境について学ぶことのできるコンセプトストア『Sustainable Think.(サステナブルシンク)』です。
最近では、横浜赤レンガ倉庫限定のコラボ製品『YOKOHAMA TAG PLATE』が話題となりました。新型コロナウイルス感染症対策のために館内各所で使用していた飛沫防止用アクリルパーテーションをアップサイクルしたオリジナルグッズで、2023年8月から同店にて数量限定で販売しています。実は、この企画は店舗からの提案で実現したのです。かわいいデザインが横浜土産として人気があり、“ワクワクした気持ち”が自然とサステナブルな行動につながっていく「笑う、サステナブル」の好事例になっていると思います。
渡邊さん:他にも、「芸術」の最初のキッカケをつくるお店というコンセプトの一点物のショップ『ものとアート』さんでは、捨てられていくものを芸術で生まれ変わらせるアップサイクル商品も販売しています。
対話でつないでいく、「笑う、サステナブル」
──サステナビリティをさらに推進していくために、どのようなことに取り組んでいますか?
渡邊さん:2023年10月現在、テナント数は66店舗にのぼり、館全体で一体となって進めていくことには課題も多くあります。それでも、ステークホルダーの皆様との対話を大切にしながら施策を進めています。
新規のテナントやイベント開催の取引先の方にもコンセプトを理解していただく必要があるため、マニュアルを作成し丁寧に説明することを心がけています。
テナントの皆様からもいろいろなアイデアを出していただいており、いずれ各店舗のサステナビリティ推進の取り組みも見える化していきたいと思っています。
──今後の展望や目標を教えてください。
渡邊さん:地域のつながりはもちろん、サステナビリティに取り組む企業とのつながりを強化していきたいです。最近では横浜赤レンガ倉庫のイベント等で発生する廃食用油を継続的に SAF に提供するFry to Fly Projectに参画しました。横浜市の脱炭素みなとみらい21への参加はもちろんのこと、周辺の企業との連携も増やしていく予定です。
木村さん:最近では、古い建物の活用事例として海外からの視察も増えています。些細なことも情報発信を続けていきながら、皆さまを繋ぐ「港」として横浜市を盛り上げていきたいです。
編集後記
観光地としてはもちろんのこと、日常のショッピングも楽しめる赤レンガ倉庫。来場者がいつ訪れても楽しんでもらえるよう細部まで工夫が施されていることを知りました。建造物として過去の歴史を残している館には風情があり、その中に新たなコンセプトを加え、過去と未来を繋げている様子を伺うことができました。
先月開催の「横浜オクトーバーフェスト 2023」のオープン初日に足を運んだところ、平日にも関わらず多くの人が来場し、食欲の秋を感じる熱気に満ちあふれていました。脱プラスチックの取り組みやデポジット式ビールグラスの使用により、飲食を伴うイベントにも関わらずゴミの量は少なく、笑顔の中にサステナブルな活動が溶け込んでいました。
歴史的建造物を活用し、国内外から多くの観光客が訪れる横浜赤レンガ倉庫。
世界をつなぐ「ハブ」として、地域を繋いでいく「港」として、横浜市を活性化させ続ける魅力は、今後も笑顔とともに増していくことでしょう。
【参照ページ】横浜赤レンガ倉庫公式サイト
【参照ページ】笑う、サステナブル
【参照ページ】横浜赤レンガ倉庫「Fry to Fly Project」への参加に関するお知らせ
【参照ページ】横浜赤レンガ倉庫 × 2号館2階「Sustainable Think.」 飛沫防止用パーテーションをアップサイクル『YOKOHAMA TAG PLATE 』 販売決定!
【参照ページ】Sustainable Think.
【参照ページ】リフレクトアート株式会社