サーキュラーエコノミーに特化した創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」説明会開催レポート
- On 2024年9月28日
Circular Yokohamaを運営するハーチ株式会社(以下「ハーチ」)は、“Publishing a Better Future”(よりよい未来を、みんなに届ける)をコンセプトにWebメディア運営・サステナビリティ支援事業を手がけています。
この度ハーチでは、同社と東京都との協働により実施されるサーキュラーエコノミー領域に特化した企業の創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」の参加希望者向けプログラム説明会を、9月19日に開催しました。
当日は現地・オンライン合わせて約80名の参加者が集まり、サーキュラースタートアップに関わるゲストスピーカー3名、CIRCULAR STARTUP TOKYO第一期生2名が登壇し、それぞれの取り組みや今後の展開に向けた課題、プログラムへの期待などについて発表やパネルディスカッションが行われました。
本記事では、東京都 環境局 資源循環推進部 計画課課長代理 資源ロス対策担当・岩崎貴信氏、東京都 環境局 気候変動対策部 気候変動対策専門課長・千葉稔子氏、アーキタイプベンチャーズ パートナー・北原宏和氏による3つの異なる観点からのゲストトークと、CIRCULAR STARTUP TOKYO第一期生2名と主催者であるハーチ株式会社代表取締役・加藤佑のパネルディスカッションの様子についてレポートします。
サーキュラースタートアップの創出を目指して
はじめに主催者であるハーチ株式会社代表取締役・加藤佑は、「第一期は、50チームの素晴らしい方々にご応募いただいて、その中から16チームを採択させていただきました。そんなみなさまと一緒に4か月間走らせていただいて、さまざまな点を改善し、今回はさらにパワーアップした第二期になっています。また今回は、東京から新しい事例を作っていくことはもちろん、東京のローカルの事例を解決することにも、より真剣に取り組んでいければと思っています」と開幕の挨拶を述べました。
政策面からのゲストトーク①「日本のサーキュラーエコノミー政策とスタートアップへの期待〜プラスチックの持続可能な利用に向けて〜」
東京都 環境局 資源循環推進部・岩崎氏からは、プラスチックの持続可能な利用に向けて、プラスチックを取り巻く世界の潮流と、現在の東京都の課題を行政目線で率直にお話いただきました。
「現在私たちは地球規模の3つの環境危機に直面しており、プラスチックはそれを象徴する課題です。プラスチックは生産や焼却において多くのCO2を排出します。環境に流出したプラスチックを動物が食べたり絡まったりすることにより生物多様性の喪失にも影響を与え、環境汚染の原因となっています。
現在、国連を中心にプラスチック汚染対策国際条約策定の議論が進められています。日本では、サーキュラーエコノミーが国家戦略に位置付けられました。このなかでもプラスチックは優先的に取り組むべき素材です。経済産業省はメーカーに対する再生材の利用義務を拡充する予定ですし、環境省はリサイクルの高度化に関する制度を整えているところです」
「東京都は、2050年ゼロエミッションを掲げて取り組んでいます。2050年のCO2実質排出ゼロは目標やゴールではなく、制約条件だと考えています。脱炭素のプラスチック資源循環の世界では、化石燃料を採掘してプラスチックを作ったり、使い終わったプラスチックを焼却処理したりすることはできません。そのため、プラスチックの生産・消費においてCO2を外に出さない『カーボン・クローズド・サイクル』を実現する必要があります。そこで必要となるのが、プラスチックの使用量を圧倒的に減らすリユースと水平リサイクル技術です」
東京は、オフィスビル・商業施設の街なので、オフィス・商業施設で使用されるプラスチックに対するソリューションが極めて重要です。オフィススペースや飲食店で、リユース容器によるドリンクやお弁当の提供などのサービスが少しずつ生まれつつあります。しかしリニアエコノミー型の安くて便利な使い捨てプラスチックを前提とする現行のシステムに比べて、リユースのサービスは手間がかかり、輸送・洗浄などのコストもかかります。
オフィスプラは、現在ほとんどが熱回収、いわゆる焼却処理されていますが、マテリアルリサイクルに切り替えていく必要があります。技術的には可能ですが、リサイクルルートが整っていないこと、処理費用の増加などが課題です。
「リユースや水平リサイクルの社会実装や普及拡大を進めていく上での課題はたくさんあります。オフィスでのリユース導入や廃プラの処理を熱回収からマテリアルリサイクルに切り替えることについて、「良いこと・望ましいこと」とわかっていても、義務もインセンティブもない中で進めていくことは非常に困難です。政策決定や行政評価を行うためのデータも不足しています。また、取組の必要性や重要性などについて、私たちの情報発信が足りていません。都民に対して、また都内の事業者の皆様に対して幅広く情報発信し、認知度や利用率を高めていくことが必要です。
こうしたことを行っていくためには、行政の力だけでは足りません。これまでもスタートアップをはじめとした多くの皆さまと連携して取り組んできました。東京が抱える課題解決のため、これからもスタートアップの皆さまと連携させていただけることを期待しています。」
政策面からのゲストトーク②「日本のサーキュラーエコノミー政策とスタートアップへの期待〜エネルギー分野における行政課題とサーキュラーエコノミーとの交わり〜」
東京都・環境局 気候変動対策部の千葉氏からは、エネルギー分野における行政課題について、またエネルギー分野とサーキュラーエコノミーの交わりへの期待についてお話いただきました。
「気候変動について考えるとき、避けては通れないのがエネルギー問題です。そして、都市から排出されるCO2は世界のCO2排出の7割を占めると言われています。こうした背景から、東京都は『2030年カーボンハーフ(2000年比で東京都内の温室効果ガス排出量を半減)』を目標に掲げています。今年の夏もとても暑かったように、気候の変化は私たちの身近になってきていますし、東京は世界有数の大都市として大量の資源・エネルギーを消費している責任があります。また、化石燃料に依存した現在のシステムはエネルギーの安全保障の観点からも非常に脆弱であるため、脱炭素化の取組を進めていくことがエネルギー安全保障の確保にもつながると考えています。」
「東京都が掲げる2つの柱が、“第一の燃料”とも言われる「省エネ」の最大化と「再生可能エネルギーの利用拡大」です。東京で消費されるエネルギーの半分が電力ですが、CO2排出量に換算すると、電力のCO2排出係数の大きさに起因し、電力由来のCO2排出量は全体の7割を占めています。脱炭素に向けてはあらゆる取組の強化が必要ですが、特に電力の効率的な利用と再生可能エネルギーへの転換を図っていくことが必要です。そのための施策とサーキュラーエコノミー施策との交差を期待しています。」と話しました。
「エネルギー消費量について、2000年と比較し唯一増加しているのが「家庭部門」と言われる私たちが住まう住宅に起因するエネルギー消費量です。都内の世帯数が伸びている影響もありますので、一世帯あたりのエネルギー消費量の更なる効率的利用を進めていく必要があります。そのために必要なのが、住宅の断熱化や使用するエアコン・給湯器の高効率化、などです。」
「行政もこれまで継続的に補助金のご用意等の支援策を講じてきていますが、取り組んでいただける人をいまより大幅に増やしていく必要があります。特に、「意欲はあるけれどもこれまで取り組めていなかった方々」の背中を押すような取組へと大きく深化させていきたい。高効率なエアコンの再利用や簡易な断熱材の開発、多様な主体が連携した普及拡大策など、新たなサービスや技術、それらがビジネスとして社会実装されていくための仕組みの開発が、皆様の取り組もうとされているサーキュラーエコノミーという文脈から生まれてくると大変有難いなと思っています」
投資家からのゲストトーク「サーキュラースタートアップの最前線と、循環型ビジネスの成功に必要なこと」
アーキタイプベンチャーズの北原氏からは、「サーキュラーエコノミーは、今スタートアップが取り組むべき課題なのか?」というテーマで、ベンチャーキャピタルの目線から、サーキュラースタートアップを取り巻くグローバルな社会状況や、サーキュラースタートアップの成功に必要な条件についてお話いただきました。
「10年といった短期間で大きな成長を目指すスタートアップが成功するためには、『テクノロジー(技術)』『ソサエティ(社会)』『カスタマー(顧客)』、この3つのタイミングが合う必要があります。
その3つの観点で見てみると、グローバルではサーキュラーエコノミーのスタートアップがすでに4,000社近く生まれていて、その中で資源循環の情報をまとめるデジタル・プロダクト・パスポートが活用されるなど、さまざまなテクノロジーが生まれ、広がってきています。
また、社会も変わってきています。より広く構造的な概念で、さまざまなものの流れをスムーズにしていくといった文脈のひとつとしてサーキュラーエコノミーや資源循環が捉えられるようになってきているのです。またそうした中で、デジタル・プロダクト・パスポートに情報をまとめるための標準化や要素の整理なども進んできています。ここ半年間でも、具体的な制度化がどんどんと進んでいると感じています。
消費者はというと、正直なところ日本でサーキュラーエコノミーが社会に実装できるまでに認知されているかどうかでいうとまだまだかなという感じもしています。一方で、スタートアップにとってはこうしたタイミングはむしろチャンスとも言えます」
グローバルのスタートアップ資金の流れを見てみても、サーキュラーエコノミーの分野は気候テックなどと共に着実に伸びていると北原氏は話します。そんな中、循環型のビジネスを成功させるためには以下の5つの観点が大事だと最後に強調しました。
「1つ目は、サーキュラーエコノミーを単体で捉えるのではなく、ネットゼロなど、周辺のテーマと掛け合わせながらやっていくこと。サーキュラーエコノミー単体で見てしまうと、概念が狭まってしまい、個別の最適化になってしまうことがあるためです。もっと広く、サステナビリティといった概念まで広げて捉える必要があります。
2つ目は、既存のプレイヤーとうまく連携しながら市場に入っていくこと。サーキュラー分野の社会実装は難しいものです。だからこそ、良いプロダクトやサービスを作ったうえで、それがどう市場にデリバリーされていくかまでを考えて設計しなければなりません。
3つ目は、システムを包括的に捉えること。システムチェンジを伴うサステナビリティやサーキュラーエコノミーといった分野では、周辺環境が整っているIT系とは違い、個別の部分のみへのアプローチではいつまで経っても経済性がついてこなかったり、うまくシステムに当てはまらなかったりします。ですから、最初から全体としてどういう設計にするべきなのか、どこから入ればビジネスが成功するのか、システム全体が自社のプロダクトやサービスによってどう置き換わていくのかなどを検討する必要があるのです。
それゆえに必要なのが、4つ目のマルチプロダクト戦略です。基本的にリソースがないスタートアップはひとつのプロダクト開発から始めることが多いと思いますが、先ほども話した通り、システム全体を変えるためには、最初からいくつかのプロダクトを開発する必要があります。これはもちろん大変なことですが、そうしなければサーキュラー分野のビジネスはなかなか成長しにくいからです。
そして5つ目は、やはりスケールを目指すこと。これは個人的見解ではありますが、サステナビリティ領域の人たちと話をしていると、『社会にとって何かいいことをしたい』という気持ちがどうしても強く、それ自体は良いことなのですが、経済性が後回しになっていることが多いように感じています。しかし、経済的に成立しなければ、システムはいつまで経っても変わりません。半径数キロメートルで良いコミュニティを作るような取り組みも大事ですし、そうした活動との連携も重要ですが、あくまでスタートアップという観点から捉えると、やはりしっかりとシステムを変革できるビジネスを作り、日本、そして世界にも輸出していって欲しいと思っています」
CIRCULAR STARTUP TOKYO 第一期生とのクロストークセッション
続くパネルディスカッションでは、CIRCULAR STARTUP TOKYO一期生であるPHI株式会社代表取締役・繁田知延氏と、株式会社ナオセル代表取締役・岸悟志氏を招き、ハーチ株式会社代表取締役・加藤佑をモデレーターとしてパネルディスカッションを行いました。
Q.どういった理由でCIRCULAR STARTUP TOKYOへの応募を決められたのでしょうか?
繁田氏「かねてより所属する企業で教育事業を行う中で、社会にもっとインパクトを残したいと考え、公立学校への教育プログラムの導入を検討していました。大手企業の看板があると逆にやりにくくなってしまうことにモヤモヤしていた時にちょうどCIRCULAR STARTUP TOKYOに出会ったので、自分で新しい会社を創業する道を選ぼうと応募を決めました」
岸氏「私は、応募する前にすでにスマートフォンの回収事業を行っていて、壊れているスマートフォンをお客様から引き取る時、これまでは宅配で受け取っていたのですが、回収スポットの設置を始めたいと考えていました。そんな時にCIRCULAR STARTUP TOKYOを知り、実証実験の機会を得るのに最適ではないかと考え、すぐに応募を決めました」
Q.実際に参加してみて、いかがでしたか?
繁田氏「講義は想定していたよりもレベルが高くて、正直ついていくのが精一杯でした。逆に言えば、そのくらいレベルの高い話が聞けたということです。また、実際に事業を行われている方の失敗談からも多くのことを学ばせていただきました。メンタリングも非常に良かったです。聞きたい内容を伝えるとすぐにメンターにつないでいただけたり、メンターの方のご紹介でJ-Startup WESTのSupporters認定を得られたりしたこともありました」
岸氏「プログラム期間は、本当にあっという間でしたが、それだけ充実していたということだと思います。講義では自分の事業に活かせるさまざまな話が聞けましたし、参加者同士や講義の際にメンターと雑談するだけでも思いがけない出会いがあったり突破口を見つけることができたりしました。反省点としては、1か月間で3か所の実証実験を行えたものの、一箇所をじっくりやればよかったという思いもありますが、当初の目的を果たすことができたので良かったと感じています」
繁田氏「もっとできれば良かったなと感じるのは、参加者同士で新しい取り組みを生み出すこと。実は今それを取り返すため、第一期で一緒だった方とアパレルの新規事業やプロダクトを作っているところです」
Q.最後に、二期生に向けたメッセージをお願いいたします。
繁田氏「私は最初応募を迷っていたのですが、今は参加できて本当に良かったなと思っています。期間中に100人近くの方とコミュニケーションさせていただいて、予想もしなかったさまざまなことが起こり、違う世界が見えるようになりました。みなさんも、迷っているのであれば応募してみることをおすすめします」
岸氏「CIRCULAR STARTUP TOKYOは、とても魅力的なプログラムだと思います。何より、事務局もメンターの方々も、みなさんすごく協力的。ぜひ参加して、良いつながりをたくさん作っていって欲しいと思います」
モデレーターの加藤は、「メンターや事務局に自分から声をかけに行った人がどんどんと壁を突破していき、短期間での成果につながっていたと思います。メンターやその後ろにあるコミュニティも利用していく気概で挑んでいただけるととても良いのではないかと思います」とディスカッションを締めくくりました。
CIRCULAR STARTUP TOKYOのプログラムについて
プログラム概要
- プログラム名:CIRCULAR STARTUP TOKYO(サーキュラースタートアップ東京)
- 期間:2024年11月14日(木)~2025年2月28日(金)
- 内容:
- インキュベーション(キックオフ・インキュベーション講義 8回)
- メンタリング(専属メンタリング・スペシャリストメンタリング)
- Demo Day(中間・最終)
- 募集人数:
- 参加コースA:スケールアップ&資金調達・IPO準備コース 3組
- 参加コースB:社会インパクト創出&事業基盤構築コース 6組計9組(18名・1組につき最大2名まで)
- 参加資格:
- サーキュラーエコノミー分野において東京都内での創業を検討している方
- 原則、全プログラムに参加可能であること
- 団体で参加の場合は1団体あたり2名まで参加可能
- 募集締切:2024年10月2日(水)12:00まで
- 審査方法:書類選考・面接
- 運営企業:ハーチ株式会社
対象参加者
- サーキュラーエコノミー分野(モノづくり・ファッション・食・建築・包装・デジタル など)で創業を検討している個人
- 研究内容をもとに事業化をしたいと考えている大学生・大学院生の方
- サーキュラーエコノミー分野の新規事業を検討中の大企業に所属する社内起業家(イントラプレナー)
- サーキュラーエコノミー分野の新会社設立を検討中の中小企業経営者
- サーキュラーエコノミー分野で起業し、資金調達を前提に本格的に事業拡大を目指したいスタートアップ経営者
参加者特典
- プログラム参加期間中はCircular Economy Hub・コミュニティ会員特典(月額2,980円相当)を付与
- プロトタイプ作成・実証実験支援として、1チームにつき最大20万円まで費用補助(要申請)
- 事業の課題やフェーズに合わせて国内外のサーキュラーエコノミー投資家、大企業、研究者、専門家に最速マッチング
- PoCフィールドの紹介、実証実験に協力可能な小売・商業施設・サーキュラースタートアップ誘致に積極的な自治体などを紹介
- サーキュラーエコノミーに関わる助成金・補助金に関する情報をタイムリーに提供。
応募期限・個別相談
応募前の個別相談も可能です。また、共に東京から日本・世界のサーキュラーエコノミー加速に向けたエコシステム構築に参画したいという企業・団体からのプログラムパートナーの募集も受け付けています。
応募方法
CIRCULAR STARTUP TOKYO応募フォームよりお申し込みください。みなさまのご応募を心よりお待ちしております。
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Circular Yokohama Editorial Team
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