
オリジナルドキュメンタリー「リペアカフェ」上映会 in 横浜・大川印刷【イベントレポート】
- On 2024年12月25日
2024年10月29日、大川印刷 with GREEN PRINTINGにて、オリジナルドキュメンタリー映画「リペアカフェ」の上映会を開催しました。本イベントはCircular Yokohamaが開催するサーキュラーエコノミー推進月間「Circular October」の一環として企画され、同フィルム初の一般向け上映会となりました。
当日は平日夜にも関わらず、サステナビリティに関心のある多様なバックグラウンドをもつ18名が集まり、リペア文化や資源循環への理解を深める貴重な時間となりました。本記事では、イベントの様子や参加者の声、作品が導くリペア文化のこれからについてご紹介します。
映画「リペアカフェ」とは
本作品は、ハーチ株式会社が運営するメディア「IDEAS FOR GOOD」の映像制作を担当するクリエイティブチームによる初のドキュメンタリーフィルムです。リペアカフェとは、お店では修理を受け付けてくれないような壊れた家電や服、自転車など、あらゆるものを地域のボランティアが無料で直してくれる、オランダ発祥の取り組み。2009年にオランダの首都アムステルダムで生まれ、2024年現在ではオランダ国内に500箇所以上、世界中では3500箇所以上に広がっています。チームを統括するオランダ在住のクリエイティブディレクター瀬沢正人はアムステルダムの複数のリペアカフェで6ヶ月間にわたる取材・撮影期間を敢行。その後、さらに6カ月をかけて編集や試写を重ね、作品を完成させました。
この作品は、オランダにおけるリペアカフェの現場を取材したノンフィクションです。壊れた家電や衣類を持ち寄った市民が、ボランティアと協力して修理を試みる様子が描かれています。ただの修理行為を超えた「人と人とのつながり」を生み出すリペアカフェの文化を学ぶことができます。
環境配慮型スタジオ「with GREEN PRINTING」
今回の会場となったのは、大川印刷が運営するスタジオ「with GREEN PRINTING」。このスタジオは、イベントの配信にかかる電力をすべてオフセットによって賄っている環境配慮型の施設で、Circular Yokohamaでもこれまでに多くのイベントを実施してきました。今回は、会場をお借りするだけではなく大川印刷の今井俊志さんにクロストークにもご参加いただき、より良い未来をつくるためにできることを一緒に考える機会となりました。
モノ以上のモノを直す「リペアカフェ」の文化
当日のプログラムは、映画上映、参加者による感想共有と交流、ディレクターズトーク、そしてクロストークの4部構成。
前半の映画上映では、参加者それぞれが真剣に画面を見つめます。映像の終わりには涙を流す参加者もおり、リペアカフェの人間らしい心温まるコミュニティの姿に、様々な想いを抱いていたようです。

上映の様子
「トレンドに逆行する」リペアカフェのあり方
上映後は、参加者による感想共有と交流の時間を設けました。

参加者による感想共有の様子
映画で描かれるオランダの「リペアカフェ」は、単に壊れたモノを修理する場所ではなく、コミュニティの再生や人間関係の修復を象徴する場でもあります。参加者のなかには「消費主義というトレンドに逆行する場所としてリペアカフェがある」という映像中のセリフに深く共感したという方がいました。
市場に出回っている電化製品には修理可能な設計を施されていないものがある現状に対し、「修理品をリペアカフェに持ち込む人は、修理のプロセスを見ることで、今後は修理可能なモノを選んで買うようになる。リペアする人は、どんな設計であれば修理が可能なのかを考える。それぞれが気付きを経て次の行動がアップデートされると思います。様々な人の学びと成長の場にもなるのだと感じました」という声がありました。
また、自ら壊してしまったモノを持ち込む若者のエピソードに対しては、「サステナビリティや環境問題に興味のなさそうな人でも、自分の大切なモノが直るという経験を通じて考えることがあるはず」という感想があがりました。また、「『壊れてしまう』ことと『壊す』ことは、同じ『壊れた』でも意味が異なるのではないか。リペアカフェがあることで、モノを大切にする意識が高まる一方、意図的に壊す行為が受け入れられるような側面も生まれるのだろうか」といった、モノの扱いや責任についての新たな視点を投げかける方もいました。映画が示す多面的なメッセージを、多くの参加者がそれぞれの立場で受け取っていたことが伺えます。
ディレクターズトーク&クロストーク:制作と上映の裏側を語る
上映後のディレクターズトークでは、オランダに移り住んで現地取材を行ったディレクターの瀬沢と制作を日本から支えたクリエイティブアドバイザーの廣瀬が、オランダでの実体験や作品制作のプロセスについて語りました。参加者からは「取材の許可を得るまでにどんな苦労があったのか」や、「修理が失敗した場合、リペアカフェの雰囲気はどうだったのか」など具体的な質問が飛び交い、ざっくばらんな対話が行われました。

瀬沢正人(IDEAS FOR GOOD クリエイティブディレクター)
続くクロストークでは、瀬沢に加え、大川印刷の今井さん、Circular Yokohamaの室井と丸山が登壇し、オランダのリペアカフェと横浜のコミュニティに関する話題を展開しました。
今井さんは、大川印刷のスタジオに使われている木材やじゅうたんの一部がアップサイクルやリペアを施した素材であることに言及。例えばトークステージの背景は、もともと家屋に使われていた木を集めて作ったそうです。部材ひとつひとつが家のどの部分を支えていたのかがわかるという、トレーサビリティの高いアップサイクル材であることを紹介すると、参加者の皆さんは興味津々。トークが終わった後に、近づいて触れながらその素材を確かめている方もいました。

左:今井俊志さん(大川印刷)
Circular Yokohamaは、我々の目指す「循環するコミュニティ」の概念を共有しました。
オランダでは、「リペアカフェ」がコミュニティ形成の役割を果たし、人と人とがつながる媒介となっています。Circular Yokohamaでは、「資源の循環」をそれと捉えています。誰かにとって不要なモノでも、それがほかの誰かにとって必要なモノであるかもしれないこと、資源の譲渡や交換が起こるとき、そこにコミュニティが生まれ人同士がつながっていくこと、を事例を交えて紹介しました。

左から:室井梨那、丸山桃加(Circular Yokohama)
横浜に広めたい「リペア」の文化
終了後、参加者からは「映画で見たようなリペアの文化を横浜にも広げてみたい」という声が多く聞こえました。他にも次のような感想があがりました。
「使い捨ての道具や安い洋服が簡単に手に入る生活環境で、どうしてもそちらを選んでしまいがちです。しかし、やっぱり売る側も買う側も修理が可能で、想いのこもったモノを大切に感謝して使うことが、地球にも人にも優しく幸せな選択だということを再認識できました。これから、モノの扱い方や買い物の仕方が大きく変わりそうです」
「サービスを求める人がいて、それに対してサービスを提供する、という授受関係ではなく、リペアというミッションを通じて瞬時にひとつのチームになっているところに価値があると感じました。そして、修理が完了した時の人々の笑顔はとても印象的です」
「日本で暮らす人、皆に観てもらいたいです。モノの大切さを教わって育ってきたけれど、実際にはそうではない世の中。人と人とがつながる姿を目で見て、幼いころに学んだことの重要性を改めて心で感じることができたらより良い未来になるのではと思います」
参加者それぞれが自分の暮らし方を振り返ったり、未来に向けた理想を膨らませたりと、多様な視点をもって「モノ以上のモノを直す」ことの意味を考える時間となりました。

上映会終了後、参加者の皆さまとともに
開催後記
この度の上映会では、カフェ運営やアパレル店舗、地域活動の拠点づくりに携わっているという方が多く参加されていることが印象的でした。それぞれが持つ「スペース」について語り合い、自分たちの場でも「リペアカフェ」の上映や関連イベントを開催したいという前向きな意見も交わされていました。
日常生活の中では、自分が関わるスペースやコミュニティを「自分のモノ」として捉えることは少ないかもしれません。しかし、今回の上映会を通じて、多くの方が「自分も行動を起こせる場がある」と気づき、スペースとコミュニティをより身近に感じるきっかけとなったようです。こうした気づきが広がることで、「リペアカフェ」のようにモノや人とのつながりを修復しあう社会の実現に近づけていくことができると感じられた上映会でした。
筆者自身も、Circular Yokohamaが拠点とする「qlaytion gallery」の運営を通じて、自分に何ができるのかを考えるきっかけとなりました。リペアの技術はなくても、誰もができる小さな一歩があります。その一環として企画したのが、「洋服交換会」です。このイベントは、市民の皆さんにとって、資源の地域循環に参加する最初のきっかけとなることを目指しています。
リペアカフェで「モノ以上のモノを直す」彼らの姿は、現代の都市生活に対して多くの示唆を与えるはずです。この上映会をきっかけに、リペアの文化が横浜から全国へ広がり、人々の暮らしに新たな豊かさをもたらすことを願っています。
※本作品の今後の上映スケジュールは、「IDEAS FOR GOOD『リペアカフェ』公式ページ」をご確認ください。また、自主上映会の開催にご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
【関連記事】オリジナルドキュメンタリー「リペアカフェ」初の一般上映会を横浜にて開催します
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【参照記事】IDEAS FOR GOOD「リペアカフェ」公式ページ
Photo by Masaki Hirose

室井梨那(Rina Muroi)

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