地産地消でまちを元気に。SDGs金澤リビングラボの循環型プロジェクト「金澤八味」【#おたがいハマ イベントレポート】
- On 2020年8月7日
新型コロナに向き合う地域密着型たすけあいプラットフォーム#おたがいハマでは、横浜の市民や企業、大学、行政の連携を通じて地域を支える取り組みに力を入れています。
今回は、その活動の一つとして2020年8月3日に行われた、「SDGs横浜金澤リビングラボ オンラインフューチャーセッション ~金澤八味の日に横浜市大SDGsコミュニティとの連携を考える~#おたがいハマ セミナー vol.11のトークイベント」より地域産品「金澤八味」の取り組みをレポートします。
登壇者
・司会進行
ー関口昌幸(横浜市政策局共創推進課)
ー今村美幸(NPOアーバンデザイン研究体理事)
・八景市場における取り組み状況
ー平野健太郎氏(八景市場 フードコミュニケーター)
・地域産品「金澤八味」の取り組み状況
ー堀川壽代氏(合名会社光栄堂薬局代表)
ー池島祥文氏(横浜国立大学)
・コロナ禍における農家の現状と工夫(遊休農地の目指すところ)、おひさましいたけの案内、農家のコロナにおける現状報告、遊休農地の活用の進捗報告
ー永島太一郎氏(永島農園)
・サーキュラーエコノミーの推進における海藻の利活用、海の公園のアマモ・アオサ有効活用について
ー奥井奈都美氏(アマンダリーナ合同会社代表)ほか
・環境教育の観点から学校教育における取り組み
ー桐山智氏(瀬ケ崎小学校教諭)
・横浜市大&同窓会SDGsコミュニティのビジョンと取組紹介
ー金子延康氏(横浜市大同窓会 会長)
ー西尾留美子氏(横浜市大同窓会員)
ー澤井明香氏(横浜市大同窓会員)
多世代交流の場、八景市場
関口さん:まず初めに、金澤八味のプロジェクトの拠点となっている八景市場でフードコミュニケーターを務める平野健太郎さんより、市場の状況をお伝えいただきます。八景市場ではどのようなことが行われているのですか。
平野さん:八景市場は、「多世代交流の場」というコンセプトを持っています。戦後の復興住宅の中心地であった釜利谷の日用品市場が八景市場の前身です。実は、いま八景市場がある場所は、もともと単身者向けのアパートのみを建設する計画でした。しかし、現在の少子化の問題を乗り越えるためには町の人々が集うことのできる場所も必要だということで、市場の設置が決まりました。
釜利谷の日用品市場は、人々が買い物へ来てそこで交流をするというように地域の生活拠点として機能している場でした。八景市場はそれを現代のニーズに合った新しい形として仕立て直すことで、地元の皆さんにつながりを提供しさらに雇用を生み出すことを目指しています。
新型コロナウイルス拡大以前は、八景市場で他世代の交流に関わるイベントが数多く開催されていました。地元の女性を中心に皆さんが思い思いの活動をされていて、これからは高齢者の層を積極的に巻き込んで地元を盛り上げていこうと奮起していた矢先に、新型コロナウイルスに見舞われてしまいました。今は多くの企画がストップしていますが、八景市場はこれからも金沢区民の取り組みの拠点としてがワクワクする楽しい場であり続けたいです。
栽培から収穫、消費まで全てが区民参加型
関口さん:八味販売の会場となった光栄堂薬局代表の堀川壽代さんは、金澤八味という商品名の考案者です。堀川さんも、金澤八味の持つ可能性に大きな期待を抱いているそうですね。
堀川さん:全国的には七味唐辛子が調味料として有名です。しかし今回は、今回は地元金沢区で生産された原材料を使っていることから、金沢八景という地名の「八」にかけて「金澤八味」という名前を考案しました。
この八味には漢方に使われている生薬と同じ生薬が配合されていて、質の高い商品となっています。私の友人の間でもその味が大変好評です。実際にお試しいただいた方々からの嬉しい評価は、子どもが売っているからとかイベントの記念だからという理由だけではなく、一つの商品としてクオリティにこだわった成果であると実感します。来年に控えるオリンピックでも、インバウンド戦略の一つとして地元も盛り上げるきっかけになることを願っています。
関口さん:金澤八味の原料は、金沢区で栽培されているのですね。地産地消を促す素敵な取り組みだと思います。
堀川さん:金沢区産原料の代表は、アマンダリーナファームで栽培される唐辛子です。他には2019年度のシソは瀬ヶ崎小学校。昆布粉は里海イニシアティブから、しいたけ粉は永島農園から、みかんの皮は柴シーサイドファームからそれぞれご提供いただいています。これらの栽培・収穫の体験一つひとつを区民参加型のイベントとして位置付け、今年の2月には出来上がった製品を一般に向けて試作販売しました。
そして今年2020年度は、サカタのタネの協賛での唐辛子を100株寄贈していただきました。現在、そのうち84株をアマンダリーナファームが、16株は瀬ヶ崎小学校の保護者の方々が協力して育てていただいます。それだけではなく、えんちゃん農場からも80株の唐辛子を提供していただきました。そして、そのうち40株を金沢養護学校で、残りの40株は六浦中学校の生徒たちで手分けをして栽培しています。
教育×金澤八味
関口さん:金澤八味のプロジェクト実現に欠かせないのが、横浜市立瀬ヶ崎小学校の生徒の皆さんの取り組みです。同小学校教員、桐山智さんに小学校での児童の皆さんの活動について伺います。
桐山さん:瀬ヶ崎小学校では、2019年度の総合的な学習として学校の裏山を使って学校外とのつながりを活かして活動できることはないかと考えていました。そこで、金沢リビングラボの村山さんに相談をしたところ、八味の活動について教えていただきました。子どもたちも是非やってみたいということで、早速学校の裏山のふもとに畑を開墾し唐辛子とシソを植えて八味の原料作りを手伝い始めました。その後活動をしていくうちに、八味の工場を見てみたい、製品のラベル作りにも挑戦したい、そして販売にも携わってみたい、と子どもたちからも意見が出始め、お手伝いの枠を超えてプロジェクトの様々な面で活動することとなりました。
2020年2月には、金沢八景駅前に店を構える光栄堂薬局の店頭で八味販売を行いました。そこで児童が販売した八味は2時間で350本ほどに達し、子どもたちにとってとても良い経験になりました。子どもたちが貪欲に地域の人々に声をかけ、地域の人々の賛同を得たことが結果を生み出したと思います。
関口さん:これこそまさにオープンイノベーションの成功例ですね。ご尽力いただいている保護者の方々からは、この唐辛子やシソ栽培の活動に対してどのような反響がありましたか。
桐山さん:保護者の中に、地域コーディネーターとして活動されている方がいらっしゃいましたので、その保護者様のお力添えで、多くのご家庭の支援を得ることができました。その証に、昨年度瀬ヶ崎小学校を卒業した子どもたちが、今年は六浦中学校の1年生としてそれぞれの自宅でご家族と協力をして唐辛子の栽培に挑んでいます。
今年は新型コロナウイルスの影響もあり自宅での唐辛子栽培に挑戦しているため、学校でまとめて収穫することができません。今は、収穫した唐辛子をどのように回収するかが課題です。
関口さん:それは面白い取り組みですね。自宅で各々が唐辛子栽培に挑むという協働の形は、今後の市民参加のあり方において新しい標準となっていくのかもしれません。
収穫後の回収については、感染症対策の知識をお持ちの光栄堂薬局様からその知識と場所をお借りし、ソーシャルディスタンスや消毒に配慮しながら皆様が交流できるイベントが開催できることを願っています。
地元特有の環境問題を解決する海藻肥料
関口さん:次に、金澤八味の原料となる唐辛子やシソの栽培に欠かせない肥料作りにご尽力いただいている、アマンダリーナ合同会社代表の奥井奈都美さんよりサーキューラーエコノミーの推進における金沢区海の公園の海藻の利活用についてお話をいただきます。
奥井さん:金澤八味の肥料には、アマモとあおさが含まれています。これは、金沢区海の公園で大量発生している海藻を有効活用する手段としての取り組みです。
関口さん:あおさの大量発生は、昭和30年代に海の公園がオープンした頃から大きな問題となっていましたね。当時から、廃棄されていく大量のあおさを有効活用できないかと度々議論されてきましたが、当時の技術でどのように経済化していくのかという点がネックとなり、長い間焼却処分が続けられてきました。
奥井さん:アマモやあおさは水中のCo2を吸収する上魚の住処となるため、本来ならば海の中の生態系維持に欠かせない存在です。しかし、金沢湾の特徴的な地形ではアマモやあおさが異常繁殖しやすく、それらが人々の海水浴の妨げとなったり、打ち上げられたあおさが異臭をもたらしたり、厄介者扱いされている側面がありました。
ここ10年間、横浜市が税金を投資してきたアマモとあおさの焼却処理量は平均7000t、費用は1300万円にのぼります。そこで、2017年前には有志メンバーと共に海藻肥料の研究会を開き、専門家とともに議論を重ねています。
関口さん:それだけの量のアマモとあおさの処理に、それだけの税金を投資しているとは驚きです。奥井さんたちが活動を開始してから、アマモやあおさはどのようにして肥料として活用されるようになったのですか。
奥井さん:毎年海開きの前に、海水浴の邪魔になるアマモを刈り取る作業を行っています。今年は、コロナの影響で海開きはありませんでしたが例年通り刈り取りを行い、農家の皆さんと分け合って畑にまきました。
このアマモとあおさの利活用はまだ研究段階ですが、これから本格的に海藻の肥料化に向けて動いていこうと取り組んでいます。今年は、横浜市と海の公園の緑の協会、そしてリビングラボサポートオフィスと協定を結んで、協働していきます。他にも我々アマンダリーナとして、横浜産の野菜をプレミアム野菜というような形でブランド化し新たな付加価値をつけて販売するというような活動にも挑戦したいと考えています。地産地消の推進や地域の農業を振興できれば嬉しいです。
行政も地域連携の輪の中に
関口さん:海に面した金沢区ではアマモやあおさの異常繁殖の他に、海岸のゴミ問題にも直面しています。金沢区役所地域振興課の松本さんは、地域との連携で課題に立ち向かっています。
松本さん:私は金沢区役所地域振興課へ赴任する以前は、資源循環局に20年ほど勤務しゴミ問題に取り組んできました。その経験を活かし、現在も資源循環に関わる事業に積極的に取り組んでいます。
近年横浜市では、家庭ゴミと事業ゴミの両方へ同時にアプローチしていますが、金沢区では昨今のプラスチック問題が持ち上がる以前から、地元の方々の地道な地域清掃のおかげで、町をきれいに保ってきました。その一方海のある町ならではの環境問題も抱えています。
先日、横浜市大の釣りサークルの方々から学生にも海の環境維持を手伝えないかと申し入れがあり、ミーティングを開きました。その中で学生から、釣りに使う撒き餌をあおさで作り、それを販売してはどうかという提案を受けました。他にも金沢の美しい景観を守りたいという思いから、清掃活動へも前向きな姿勢を見せてくださっています。
金沢区役所でも地域との連携を進めながら、アマモやあおさの問題にとどまらず海岸全体をきれいにしていくという目標に向けた取り組みを進めています。
地域の資源開発で地元を元気に
関口さん:続いて、横浜市立大学同窓会会長として金沢区でSDGsに取り組まれている金子延康さんにお話を伺います。金子さんはこれまで40年以上にわたって、持続発展可能な都市づくりを研究されています。どのような経緯で横浜での開発に関わることになったのですか?
金子さん:1985年当時、私は国の経済拡張の計画に取り組んでいましたが、その事業に限界を感じていました。そこで、横浜には循環型都市として多くの可能性が眠っていると感じ、開発を始めました。横浜で活動を始めた当初から、「地域を元気にする術は、地域の資源を有効活用することにある」という仮説のもと取り組んできました。横浜で少しづつそれが形になるにつれ、他の地域でも実践してみたいと考えるようになり今は愛知県でも活動を始めました。今後も横浜で持続発展可能な都市づくりが実現していけば、他の大都市にもその取り組みが広がっていくと期待して活動しています。
また、特に金沢区は戦後から地元の人々が協働で町づくりを行ってきた歴史があり、研究の拠点となる大学があることも大きな強みです。それらを活かし、人々のつながりの輪を軸とした町づくりが有効だと考えています。
37000人の力を結集したい
関口さん:金子さんが会長を務める横浜市立大学同窓会では、地域に根ざした活動を軸に積極的にSDGsへの取り組みを進めていますね。
金子さん:横浜市立大学同窓会では、都市の持続発展における3つのインフラを生態系にたとえています。免疫系は、地域コミュニティや芸術文化創造。神経系は、情報通信技術。血管系は、電気・水道・ガスといったインフラ。つまり都市が健康でいるためには、身体と同じようにこれらの三要素が互いに支え合い組織を維持していく必要があることを示しています。
横浜の現状では、特に「免疫系」の部分で強化が必要だと考えています。かつては、行政が地域のコミュニティ形成にまで投資をすることが難しい現状がありましたが、最近ではそれに係る事業も行政の取り組むべき政策として認められてきました。我々同窓会も、行政をあげて地域を盛り上げようというこの流れを汲むべく、他機関との連携を強化しています。
関口さん:コロナ禍という厳しい状況ですが、横浜市立大学同窓会として目指す姿はありますか。
2028年に迎えるの横浜市大100周年を一つのゴールとして、社会に貢献できる同窓会の姿を実現しようと活動しています。新型コロナウイルスの影響が出始めてからは、SDGsへの取り組みに目的を絞り、2週間に1度のオンライン会議でお互いに意見を出し合っています。
横浜市大の同窓会には、現在約37000人が加入しています。同じ大学を卒業し、その後様々な経験を通して様々な能力を培い、そして金沢の地にも思い入れがあるという人がこれだけたくさんいるということです。テクノロジーの発達のおかげで、今はオンラインで短時間でも離れていても共に活動することができます。横浜市やリビングラボがそれぞれ把握している課題に具体的な取り組むため、同窓会のみなさんの持つ知識や技術、そして地球環境に貢献したいという思いをどのようにして結集できるかを模索しているところです。
横浜市立大学同窓会員より
関口さん:本日ご登壇いただいている横浜市立大学同窓会の方々からもコメントをいただきたいと思います。
西尾留美子さん:地域の人々と共に行動することと、地域の魅力を生かすことが今後の目標だと思っています。個人としては、私自身のユニセフでの支援活動の経験から、同窓会を通して社会に貢献できることがあるのではないかと考えています。まずは目の前にある活動に力を入れていき、取り組みを継続する中で新たな支援の機会が巡ってくると期待して行動を続けていきます。
澤井明香さん:2007年に医学研究科を卒業し、現在は大学で栄養学を指導しています。あおさの肥料化の取り組みから、食の分野でもあおさを有効活用する新たな道があるのではないかと考えるヒントを得ました。最近は新型コロナウイルスに負けない身体作りのため、免疫力を高めることに注目が集まっています。あおさは、食用として消化器の免疫力向上が期待できる優秀な食品となり得ます。今後、大量発生するあおさを食用として活かす方法を研究していきたいです。
堀川さん(合名会社光栄堂薬局代表):私も同じ人々の健康づくりに携わる者として、免疫強化の必要性を感じています。光栄堂でも「自分の体は自分で守ろう」と呼びかけています。健康的な食事を通してコロナウイルスにも負けない体づくりが、まさに今求められています。
関口さん:リビングラボの良さは、様々な機関の連携により同じ専門分野でありながら異なる立場で活躍している人々の出会いが生まれるところです。また、専門家の声は、区民からの信頼を得ることにもつながりますね。
ワクワクを共有する体験を#おたがいハマで
関口さん:最後に、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事を務める杉浦裕樹さんから今後の#おたがいハマの活動についてお話いただきます。
杉浦さん:5月1日、横浜コミュニティデザインラボは横浜市と協定を結びました。#おたがいハマでは、これまでにも数多くのトークイベントを開催し、行政職員、学校職員、医療従事者、一般企業など本当にたくさんの方々に新型コロナウイルスを乗り切るためのアイデアをいただいています。今後、それらを活かした地域独自の取り組みが生み出されていくことを楽しみにしています。
人は、価値のある取り組みが進んでいくそのプロセスに関わること自体に、ワクワクや喜びを感じるのだと思います。そのような喜びの感情をみなさんと一緒に味わう「体験」を増やしていきたいという思いで、#おたがいハマは今後も活動を継続していきます。
編集後記
横浜市金沢区は、面積約30km2人口約20万人の行政区です。その中で、原料の栽培から販売、消費までの全てが行われる循環型の仕組みはまさに地産地消とオープンイノベーションの理想の姿です。そして、コロナ禍での厳しい状況にも関わらず、勢いを削ぐことなく地元の皆さんが一致団結し前へ進んでいく姿に金沢区の皆さんの助け合いの心を垣間見ました。
金澤八味の将来に期待がかかります。
【YouTube動画】8/3 SDGs横浜金澤リビングラボ オンラインフューチャーセッション ~金澤八味の日に横浜市大SDGsコミュニティとの連携を考える~ #おたがいハマ セミナー vol.11
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