ジュースパックから生まれるアップサイクルバッグ。フィリピンの社会課題にアプローチする「Coco&K.」の想い
- On 2021年8月16日
サーキュラーエコノミーの主要なアプローチのひとつとされる「アップサイクル」。アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずの廃棄物にデザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせて、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせることを意味します。
横浜市鶴見区にあるココロインターナショナルでは、2002年よりフィリピンの環境問題に取り組むNGO「Kilus Foundation」と総代理店契約を結び、Kilus Foundationで作られる製品を扱う日本で唯一のブランド「Coco&K.」として商品のデザインと販売を行っています。
バッグが製造されているのは、フィリピンのマニラ首都圏に属するパシグ市。聞けば、このバッグの製造が始まる前は、街の中心を流れるパシグ川には工場排水や生活排水が垂れ流され、川岸には住宅不足と貧困のため人々が小屋を建てて暮らし、ごみも大量に投棄されていたのだそう。かつて「青い水」と呼ばれていた川は汚染が進み、生物の生存が不可能なレベルまで落ちていたといいます。
そんな街の清掃美化と人々の収益源をつくることを目的に生まれたのが、フルーツジュースのアルミパックを素材にした「かわいくってエコ!」なアップサイクルバッグ。ジュースパックの回収、洗浄、乾燥、縫製などをすべて手作業で行い、フィリピンの環境、雇用、教育問題の改善に貢献しています。どのようなきっかけでこのバッグと出会い、また、どのような想いを持ってフィリピンと日本をつなぐ事業を行っているのか、代表の井上伸子さんにお話を伺いました。
「街の美化」と「雇用の創出」の両方を叶える手段がアップサイクルだった
──Coco&K.のバッグが生まれたきっかけを教えてください。
今から20年ほど前に、たまたまフィリピンに行く機会があり、そのときに子どもたちが路上生活をしているのを見てすごくショックを受けたんです。その翌日、現地で開催されている展示会に行ったところ、女性たちが手づくりしたというバッグに出会い、一目惚れしました。
「かわいい!」と思って話を聞いてみると、本来は廃棄されるジュースパックで作られていること、バッグづくりがフィリピンの女性たちの仕事になるということがわかりました。初めはボランティア団体だったKilus Foundationが「ごみを減らして、自分たちの街を綺麗にしよう」という目的で清掃活動を行っていたのですが、街を綺麗にするだけではなく、貧しい人々の収入源になるものはないか?と考えたときに、ごみの中で一番大量にあったのがアルミのジュースパックだったのだそうです。「女性の収入源をつくり、まわりの女性たちを助けたい」という思いと「フィリピンで一番緑あふれる街にしたい」という両方の目標を達成できるよう、Kilus Foundationの代表を務めるエディサさんがアイデアを出し、飲み終えたジュースのアルミパックを集め、洗い、縫い合わせてバッグやサンダルを作り始めたと聞いています。そうして、Coco&K. の原点となるバッグが誕生しました。
──運命的な出会いですね。当時は、雑貨に関わるお仕事をされていたのですか?
それが、全然していませんでした。アパレル業界で働いていたので、バッグやデザインを見ることは好きでしたが、普通のOLでした。発展途上国にも興味はあって、ごみ山やストリートチルドレンについて耳にしてはいたのですが、20年前にフィリピンを訪れた頃、私にも同じ年頃の子供がいたので、子供たちが自分が作ったであろうお菓子や雑貨を手渡しで売りに来るのを目の当たりにするとすごくショックでしたね。
偶然ですが、私が訪れた時が彼女たちにとっても初めての展示会だったそうです。「母親である私たちが仕事をして、子供を学校に行かせるんだ」という思いに感銘を受け、日本に広めたいと思ったのがきっかけで、地元である横浜でこの事業を始めました。運命だったと思います。
実は、感動のあまりその場ですぐ200個注文をしてしまいました(笑)。最初目にしたときに、日本のソニープラザ(現:PLAZA)に置きたい!と思ったんです。ご縁があってソニープラザで取り扱っていただいたところ、すごく人気が出て。「次は日本の大手百貨店に並べたい」という目標を立て、フィリピンと何回もやりとりをしながら、パイピングをつけるなど百貨店レベルの品質になるように努力しました。色々と苦労はありましたが、努力の甲斐あって10年ほど前から百貨店でもお取り扱いいただいています。
──ここ、横浜での事業がフィリピンの雇用につながっているのですね。
このバッグは、ヨーロッパをはじめ10ヶ国以上で販売されています。始めた当時はまだメンバーも少なく、代表のエディサさんと5,6人の女性たちでバッグを作っていたのですが、ボランティア団体からNPOを経てNGOとなり、現在は300人もの組織になっています。工場も大きくなり、フィリピンの大統領から賞状をもらうほどの立派な団体になりました。
事業を行う上では、バッグをつくるフィリピンの女性たちに適正な賃金が支払われるように考慮したフェアな価格での取引を大事にしています。高いマージンを取られたり、安く販売されてしまうと「収入源をつくる」という目的に沿わなくなってしまうからです。買い叩かれてしまうことのないよう、日本で販売できるのはCoco&K.だけという契約を交わして、オリジナルのデザインを作って販売しています。横浜ではスタッフと一緒にお店を開けながら、販売をしたり、デザインをしたりしていますね。
──300人もの雇用が生まれていると思うと、地域に与える影響はとても大きそうです。
若い方からおばあちゃんまで、幅広い年代の女性が働いています。力仕事や運転など、男性のメンバーも数人いますが、ほとんどが女性です。20年前は今のようにアップサイクルやフェアトレードという言葉も一般的ではなく、フィリピンでは子供のいる女性の仕事は本当に限られていたので、大きな変化だったと思います。
Kilus Foundationを始めた社長の名前にちなんで、街の通りが「サンティエゴ・ストリート」と名付けられるくらい、街に住む皆が社長のことを大好きなんです。そういう街がもっともっとたくさんできるといいなと思います。
──2021年現在はコロナ禍のため渡航も難しいと思いますが、以前は現地によく足を運ばれていたのでしょうか。
以前は年に1回ほど渡航して、新作の打ち合わせなどを行っていました。ただ、初めの頃は年に何度もフィリピンに渡航して、品質改善のためのやりとりを行っていましたね。「リサイクル」というイメージだと、現地では「捨てられていたものを使うから、綺麗ではなくて当然」という意識が少なからずあったのですが、私たちは高い品質の商品をつくって届けたいという思いがあり、何度も伝えに行きました。
最初はインターネットもなかったのでメールもできず、通訳の方のFAXを通じてやりとりを重ねていて、500個注文しても400個は注文通りであとの100個は違うものが入っている、ということもありました。理由を聞いてみると、数をきちんと数えられない人がいたり、台風でバッグの製作が間に合わなかったりといった背景があり、お願いした通りに商品が届くようになるまで苦労もありましたね。
工場では50〜60人が働いていて、あとの方は自宅でバッグを製作しています。メッシュのバッグはジュースパックのミスプリントを切った棒状のものを素材にしていて、200本でバッグ1個といったように数が決まっているんです。必要な量を渡し、完成したバッグを持ってきて、お金やお米と交換する仕組みをとっています。今は新型コロナウイルスの影響もあって、Kilus Foundationから車を出して各自の家をまわる形でやりとりをしています。
──バッグの素材となるジュースパックはどのように集められているのでしょうか?
最初はメンバーが手作業で集めていたのですが、今は学校や教会、集会所などにリサイクルボックスを設置して、そこからトラックで運んでいます。このジュースは学校の給食でも出されているのです。牛乳は保冷が必要ですが、フィリピンでは冷蔵庫がない場所も多く、ジュースなら冷蔵庫に入れる必要がないため重宝されています。街の子供たちもパッケージを丸ごとリサイクルできるよう、ストローで表面に穴を開けずに、底に穴を開けて飲んでいます。街をあげての活動なので、家でジュースパックを洗うお手伝いをしている子もいますし、工場の近くの子は集めたジュースパックを持って行くとお小遣いがもらえるといった体験を通して、自然と「飲んだあとのジュースパックが使われる」ことを知り、行動してくれています。
マニラの街の周辺の方の多くは、このアップサイクルの取り組みについて知っていて、私がフィリピンに行く時もこのバッグを持っているとすごく喜ばれますね。
「かわいい」という感動から、作られた背景を知って欲しい
──商品は、どのような方が購入されるのでしょうか。
やはり最初は「かわいい」というところから、興味を持っていただいています。背景を説明すると驚く方もいらっしゃいますが、多くの方は共感してくださいますね。「そんなにいいことをやっているなら、もっと大々的に書いたらいいのに」と言われたこともあるのですが、フェアトレードだから、発展途上国で作っているから買って欲しいわけではなくて、私が最初このバッグに出会って感動したときのように「わぁ、かわいい!」と感じてほしいのです。その後に背景を知っていただいて、より好きになってもらうほうがいいなと思っています。
購入したあとにリピートしてくださる方も多いですね。持っていたら友人に素敵ね、と褒められてプレゼントしたという方もいますし、「どこで買ったんですか?」と知らない人に話しかけられたという方もいらっしゃいます。あとは買ったご本人が「これを持っていると元気になるんです」と言ってくださることも多いです。現在100種類以上のデザインがあるのですが、大好きな色でいろいろな型のものを揃えたい、気に入った型のバッグがあると全色集めたくなってしまう、と言って部屋いっぱいに集めてくれる方もいるほど。それだけこのバッグに素晴らしい魅力があると感じています。
──事業をされていて、一番嬉しかったことは何でしょうか。
フィリピンの工場に行くと、働いている方々がいつも笑顔で迎えてくれます。皆楽しそうにこのバッグを作っているのです。生活のため、安い賃金で働かざるを得ないという話もよく聞くので、楽しく仕事をしていること、街の子供たちがみんな学校に行けるようになったことが一番嬉しいです。フィリピンでは、街にある商店は防犯のために鉄格子で覆われていることが多いのですが、パシグ市はではそういった鉄格子もなくオープンになっています。誰も商品を盗む人がいないし、皆が笑顔で働いている、それが幸せですね。一本裏通りに入ると本当に危ない、治安のよくない街もたくさんあるのですが、お花も植えられていて街全体がとても綺麗です。
フィリピンの女性たちは学校に行っていない人も多く、子供も学校に行かせる必要はない、働かせてしまおうと考える人も多かったのですが、Kilus Foundationのエディサさんが「未来のために教育を受けることが必要だから、子供たちを学校に行かせよう」と切々と説いて、指導して収入になる仕事をつくり今に至っているので、そこが素晴らしいなと思います。
──今後展開していきたいことや、目標があれば教えてください。
以前、知的障害のある画家さんの作品に一目惚れして、その絵をプリントしたバッグをつくったことがあるのですが、どんなものでもプリントできるので今後はそういったコラボレーションにも取り組んでみたいと思っています。
今年で20年ほどになりますが、まだ関東圏内にしか広められていないので、Coco&K.の商品を手に取れる場所を全国につくりたいです。そして、ずっと続けていくことですね。Kilus Foundationも後継者が決まっていない等課題はあるのですが、一つずつ解決して、この取り組みを持続させていきたいと思います。
編集後記
ごみのないきれいな街、廃棄を減らし資源を利活用する暮らしは、現代において多くの人が理想とする姿ではないでしょうか。「環境にいい」ことが頭では理解できても、地域住民に浸透・定着せず苦戦する自治体や企業も多いであろう中、街をあげて子供から大人まで誰もが協力し好循環を作り上げているというアップサイクルバッグの取り組みにたいへん良い刺激をいただきました。
なかでも「この後はバッグの素材として使われるから、自分が飲むときは綺麗に扱おう」と行動する街の人々の姿勢が心に残りました。製造に関わる300人がアップサイクルの取り組みを行い、その子供たちにも浸透している様子は、見聞きすることで自然と学びになり、自分ごととして捉えることで行動変容につながっているのではないかと思います。
最近ではアパレル業界における強制労働問題等がニュースで取り上げられることも一般的になりましたが、「どこか遠い、自分とは関係のない国で起こっていること」として関連を断ち切るのではなく、「すべて自分の選択した行動がつながっている」と考えて購買行動や生活習慣を見直すこと、想像力を高めることが、循環型社会の実現に向けて個人ができる一手であると感じさせてくれたインタビューでした。Coco&K.の商品は横浜本店のほか、Circular Yokohamaで以前ご紹介したhaishopなど全国に複数の取扱店舗があります。アップサイクルやフェアトレードの取り組みにご興味のある方は、ぜひ訪れてみてください。
【参照サイト】Coco&K.
金田 悠
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