
資源と想いが循環するまちへ。春秋商事に学ぶ、地域共生とリサイクルのかたち
- On 2025年7月16日
サーキュラーエコノミーへの移行が求められる今、企業が排出する廃棄物をいかに資源として循環させるかは、持続可能な社会づくりにおいて重要な鍵となります。しかし、「リサイクル率の向上」という言葉の裏には、品質やコスト、出口の確保といった多くの課題が存在します。
こうした中、横浜市では2024年10月に市内の廃棄物処理業者7社を中心とする「横浜市資源循環推進プラットフォーム」が発足。市内における動脈産業と静脈産業の連携、さらには行政と連携した資源循環施策の推進にも注目が集まっています。
同プラットフォームの幹事会社の一つである株式会社春秋商事(以下、春秋商事)は、同社の都筑リサイクルセンターにおいて受け入れ廃棄物の「100%リサイクル」を実現。固形燃料(RPF)の製造や、独自開発の分離装置を活用し、これらの課題に真正面から取り組んでいます。本記事では、同社代表取締役社長の甲斐陸二郎さん、取締役副社長の濱知二さんへのインタビューを通じて、その取り組みと循環型社会の実現に向けたヒントを探ります。
運搬だけだと「もったいない」。自社でリサイクルを始めた理由
横浜市都筑区に本社を置く、春秋商事。1971年に創業した同社は、市内の事業者から排出される一般廃棄物および産業廃棄物の収集運搬と、産業廃棄物の中間処理を行っており、資源のリサイクルを通して循環型社会の実現を目指しています。

春秋商事代表取締役社長:甲斐陸二郎さん
甲斐さん「もともとは、新横浜駅の近くで収集と運搬をメインに事業を行っていました。一般的に、ごみは収集された後、中間処理場を経て、最終処分場へと運ばれます。しかし、運搬だけを行っていると、売り上げの多くを処分場に支払うこととなります。また、処分場があるからこそ成り立っているのではないかとも感じるようになり、あるときに『このままだと、いつか仕事がなくなってしまうのでは?』と思ったのです。
ただ中間処理をして、次の場所へ持っていくだけだともったいないと感じていたこともあり、自分たちで終わりにできることに取り組みたいなと思いました」
同社は、これまで処理が困難とされていた未分別の廃プラスチック類や紙くず、木くず、繊維くずなどを「RPF(※)」に加工。同施設での生産能力は日量6トンにおよび、製作したRPFは石炭の代替燃料として日本製紙に出荷しています。

※RPF:Refuse Paper & Plastic Fuel の略称。産業系廃棄物のうち、マテリアルリサイクルが困難な廃プラスチック類とその他くずを50対50で混合した、廃棄物を原料とした高カロリー固形燃料
甲斐さん「せっかく再資源化しても、使われないと意味がありません。出口が確保できていれば、ある程度は(リサイクルを)継続していけます。継続的に作り、使われ続けることも大事ですし、適切な値段をつけることも必要です。作るだけの中途半端なリサイクルは続いていかないですね」
効率だけを目的にしない行動が「リサイクル率の向上」につながる
現在は、都筑区と旭区にリサイクルセンターを構えている同社。廃プラスチック類、紙、木、繊維、ゴム、金属、ガラス・コンクリート、陶磁器のリサイクル処理を行っており、都筑区では収集した廃棄物の中間処理を、旭区では収集物の積替・保管を行っています。
甲斐さん「『ごみ』と言われるものにも、さまざまな種類のものがありますよね。どのような資源ごみを収集するかは、契約の段階で把握できるので、あらかじめどちらのセンターに運ぶかを決めています。たとえば、ガラスや金属等、複数の素材が未分別で排出される場合は、再分別の必要があるため旭区のリサイクルセンターに運んでいます」

今回取材を行った、都筑中間処理リサイクルセンター
2009年に開設された都筑中間処理リサイクルセンターでは、受け入れた廃棄物の「100%リサイクル」を実現しています。そのためには、リサイクル原料の品質が極めて重要になります。そこで春秋商事では、業界の常識にとらわれない独自のアプローチを採用しています。その代表例が、廃プラスチックの回収において、パッカー車を使わない収集運搬を行っていることです。
一般的なごみ収集車であるパッカー車は、収集効率を高めるために廃棄物を圧縮しますが、その過程でさまざまな種類の廃棄物が混合・汚損し、リサイクル品質を低下させる原因にもなってしまうのだそう。そのため春秋商事では、非効率的であることは承知の上で、ごみをそのままの状態で回収できるアルミバンやダンプ車を使って収集を行っているといいます。
甲斐さん「どうやったらリサイクルできるプラスチックを増やせるかを考えて動いていたら、今の形になりました。パッカー車は1台でアルミバンの3倍近い量を積むことができるのですが、汚れたものが混ざっていると、すべての回収物が汚れてしまいます。その点、アルミバンであればごみや汚れを混ぜることなく、センターへ運んでから分別ができるのです」

春秋商事のアルミバン(提供:春秋商事)
また、リサイクル率を高めるのにもう一つ欠かせないのが、ごみを排出する事業者の協力だといいます。副社長である濱さんを中心に、従業員の方々が顧客のもとへ直接足を運び、ごみ箱の状況を確認しながら具体的な分別方法を指導することもあるそうです。
濱さん「法律の観点も含めて、なぜ分別が必要なのか、分別されたものが何に生まれ変わるのかを説明するようにしています。そもそも、ごみの分別について教育を受ける機会はほとんどないと思います。しかし、分別するには、誰かが手を動かさないといけない。理由や方法を知ることで行動に移していただけるケースも多いため、リサイクルには皆さんの協力が不可欠であることをお伝えしています」

取締役副社長:濱知二さん
「ないものはつくる」精神で、独自のリサイクル装置を開発。地域との繋がりが新たな循環を生み出す
そんな春秋商事のリサイクルセンターは、意外なほどにコンパクト。約892平米の敷地内に、廃棄物投入場のほか、RPF(固形燃料)製造設備、自社開発のびん・缶・ペットボトルの自動選別ライン、廃発泡スチロールを加熱しインゴットに加工する発泡プラ溶融減容機など、自社開発の装置が並べられています。
甲斐さん「びん・缶・ペットボトルも、以前は手作業で分別していました。ただ、夏は炎天下での作業ですし、本当に大変です。そのような環境で作業を続けるわけにはいかないと思い、機械化をできないかと考えました」
コンベアに投入されたびん・缶・ペットボトル入りの袋は、破袋機にて袋を破かれ、バラバラになった状態で搬送コンベアへ。磁力選別でスチール缶を、風力選別でびん類を選別した後、アルミ選別機に移送し、ペットボトルとアルミ缶の分別が完了する仕組みになっています。
また、都筑リサイクルセンターの近くにある日産スタジアムには、自社開発した芝砂混合廃棄物の分離装置の一号機を納入。芝も砂も一般廃棄物の一種ですが、混入する砂の割合が多く分離が困難なことから、横浜市の工場では焼却することができず、以前はコストをかけて処理していたといいます。
甲斐さん「サッカーの試合で選手がボールを蹴るときに、芝が削れてしまうことがあります。そのままの状態だと捨てるのが大変ですが、砂を分けて芝だけ分離することができれば、可燃ごみとして焼却できます。砂や土は場内で再利用できるとのことだったので、いいじゃないか!と思ったのです。お互いが困っていることを解決しようとした結果、生まれたアイデアですね」

芝砂混合廃棄物を使った分別作業の様子(提供:春秋商事)
事業活動と並行して、春秋商事は地域社会への貢献にも力を注いでいます。市内の子どもたちを対象に開催されているイベント「新横浜公園の生きもの博士になろう!」は、2015年より同社がスポンサーとして協賛しています。鶴見川の多目的遊水地である新横浜公園には多種多様な生きものが生息しており、観察会を通して市民に生きものや自然に親しむ機会を提供しています。
甲斐さんは「実は、『むかし生きもの観察会に行ったことがある』という方から求人に応募をいただいたこともあります。『子どものときから知っています』と言ってくださって、嬉しかったですね。長く続けていると面白いことがあるものだなと思います」と、地域との繋がりが新たな循環を生んでいることを教えてくださいました。
制度も現場も変わる時代。地域の困りごとを解決し、リサイクルへの想いを引き出したい
春秋商事が次の目標として見据えているのは、これまで焼却処理せざるを得なかったプラスチック類の再資源化と、さらなるマテリアルリサイクルの促進です。
甲斐さん「いま焼却されているプラスチックを、何とか救いたいと思っています。汚れたプラスチックを洗浄すれば、今度はその排水をどうするのかという課題が出てきます。二次的な廃棄物をどう扱うかが、次の大きなテーマだと考えています。
マテリアルリサイクルに関しては、お客様は『リサイクルして世の中のためになっています』と言葉で言われるより、そのプロセスを知り、生まれ変わった製品を見て、実際に利用できるほうが喜んでくれます。関わる皆さんの『積極的にやろう!』という想いを引き出すためにも、実現させたいですね」
プラスチック資源循環促進法の制定や、電子マニフェスト(廃棄物処理法に基づく産業廃棄物管理票)使用促進など、法律で定められたルールや時代の変化にも次々と対応する必要があるリサイクル業界。大きなイベントの際は大量の廃棄物が出ることも多く、日産スタジアムでFIFAクラブワールドカップが開催された際は、一晩中電話が鳴り止まないほどの忙しさで「まるでお祭り状態でした」と笑いながら語ってくださいました。
甲斐さん「大変だったけれど、頑張ってやり遂げたときほど面白いですから。ずっと笑顔で思い出せるような気がします。
『制度が変わります』というのは簡単ですが、弊社も1,000社以上のお取引先があって、その中にはご高齢の方や、外国籍の方が経営している小規模の店舗や会社もあります。大変なこともありますが、『地元で困っている人がいたら何とかしよう』という想いで向き合ってきましたので、ごみに関して何か困っている、いい方法を探しているという方がいたらぜひご連絡ください」
取材後記
まるでマイクロブリュワリーならぬ”マイクロリサイクルセンター”とも言えるようなコンパクトな空間に独自のアイデアあふれる装置の数々が並ぶ、春秋商事の都筑リサイクルセンター。終始、朗らかな雰囲気の中で笑いの絶えないインタビューとなり、近隣に住む筆者としては、自分の暮らすまちがこれほど創造性あふれる企業に支えられていることに、思わず胸が熱くなりました。
今回の取材を通して強く感じたのは、「何とかする」という課題解決への真摯な姿勢と、それを支える確かな技術力、そして地域社会への深い愛情です。「100%リサイクル」という高い目標を掲げ、非効率をも受け入れる覚悟。顧客の困難に寄り添い、それをビジネスチャンスに変える発想力。これらは、サーキュラーエコノミーを推進する上で、多くの企業が見習うべき点ではないでしょうか。
春秋商事の取り組みは、廃棄物処理という枠を超え、持続可能な社会システムの構築に向けた、ひとつの具体的な道筋を示しているように感じられます。同社の挑戦は、これからも多くの企業や地域社会に新たな気づきと勇気を与えてくれるに違いありません。
記事の最後で紹介した甲斐さんの言葉の通り、春秋商事では廃棄物処理やリサイクルに関する問い合わせを歓迎しています。横浜市内で、リサイクルの頼れるパートナーをお探しの方は、ぜひ一度コンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。
【参照サイト】株式会社春秋商事
【参照サイト】新横浜公園の生きもの博士になろう!
【参照サイト】横浜市資源循環推進プラットフォーム(YRCプラットフォーム)
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金田 悠

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