
リサイクルをミラクルに。J&T環境に学ぶプラスチック循環の最前線
- On 2025年7月2日
2025年4月、横浜市では一般ごみの分別ルールが変更されました。これまで主に可燃ごみとして扱われていた容器・包装以外のプラスチック製品(おもちゃ、バケツ、文房具など)も、「プラスチック資源」として分別収集の対象となりました。これにより、廃棄物収集現場へのプラスチックごみ(資源)の搬入量の増加が見込まれています。これは、資源の循環と有効活用の観点からは大きな前進ですが、収集現場にとっては新たな挑戦のはじまりでもあります。
そこで今回Circular Yokohamaでは、横浜市鶴見区に本社をおくJ&T環境株式会社(以下、J&T環境)を訪問。事業開発本部マーケット戦略部長の三村さん、管理本部の鈴木さん、プラスチックリサイクル本部の遠藤さん、小林さんに、プラスチックの循環に焦点を当てて、お話を伺いました。
同社の横浜プラスチックリサイクル工場は、横浜市内で発生するプラスチックの約半分を処理する重要な拠点です。廃棄物を単なる「ごみ」ではなく、未来を紡ぐ「資源」へと転換させるリサイクル現場の最前線と、私たちが目指すべき循環型社会へのヒントを探ります。

左から:遠藤さん、小林さん、三村さん、鈴木さん
横浜の日常を支える、J&T環境のプラスチックリサイクル
J&T環境は、神奈川県横浜市と川崎市に本社を置き、北海道から沖縄まで全国に営業所を構えています。さらに、海外ではベトナムとマレーシアにも拠点を持っており、グローバルな資源循環ネットワークを構築している企業です。
その事業内容は多岐にわたり、ペットボトルや容器包装といったプラスチックの再資源化や食品残渣のリサイクル、医療系廃棄物や太陽光パネルといった一般的にはリサイクルが難しいとされる資源まで、さまざまな廃棄物を資源に生まれ変わらせています。
中でも横浜プラスチックリサイクル工場は、2005年の稼働以来、横浜市のプラスチックリサイクルを支えてきた重要拠点。横浜市18区のうち、9区(鶴見区、神奈川区、西区、南区、保土ケ谷区、港北区、都筑区、青葉区、緑区)から排出されるプラスチック資源を受け入れており、その回収範囲は市内人口の約57%をカバーしています。
J&T環境で1日に処理されるプラスチックの量は、およそ100トン。プラスチックは軽いため、例えば45リットルのごみ袋(約2キログラムと仮定)に換算すると年間およそ1500万袋にもおよび、これは横浜スタジアム約3杯分に相当する量です。
同工場では、回収したプラスチックを破袋・選別した後、圧縮梱包して塊(ベール)にするまでの中間処理を行っています。横浜市が収集を行わない日曜日と年末年始を除き、原則毎日稼働しており、年末年始の繁忙期には24時間体制で処理を行っている、私たちの生活インフラです。

J&T環境 横浜プラスチックリサイクル工場

圧縮梱包されたプラスチック(ベール)
すべての資源に、新たなチャンスを。「ミラクルリサイクル。」に宿る可能性
J&T環境が掲げるタグライン(ブランドメッセージ)は、「ミラクルリサイクル。」
廃棄物処理に携わる大企業として、いわゆる「重厚長大」な企業のイメージを持たれがちな同社。以前は、会社案内のパンフレットに「廃液処理」や「焼却処理」といった言葉が並び、事業内容が伝わりにくい、市民に身近に感じてもらいづらい、という課題があったといいます。環境問題や資源循環への関心も高まるなか、「もっと伝わりやすく、わかりやすいメッセージを」という意識から、2021年に行った社内公募でこの言葉が生まれたそうです。
鈴木さん「これまでは『適正処理』や『安心安全』が前面に出ていましたが、それだけでなく、もっと夢があって、リサイクルが持つ無限の可能性を社員や社会に広く伝えていきたいと考えました」

鈴木さん(管理本部)
「ミラクルリサイクル。」の実現を目指す同社の象徴的な取り組みの一つが、回収した使用済みペットボトルを原料に戻し、新たなペットボトルに水平リサイクルする「ボトルtoボトル」です。
水平リサイクルとは、使用済みの製品をリサイクルの工程を経て再び同じ製品に生まれ変わらせること。
「ボトルtoボトル」は、水平リサイクルの中でも全国的に特に注目が集まっている取り組みです。横浜市では、みなとみらい21地区でのペットボトルの回収と水平リサイクルが活発化しています。
J&T環境では、みなとみらい21地区での同取り組みに協力するほか、全国からあわせて年間約7万5千トンの使用済みペットボトルを回収し、処理しています。これは日本国内で発生する家庭系・事業系ペットボトルのうち1割強に相当する量で、そのほぼ全てが再び飲料用ペットボトルへと水平リサイクルされているといいます。
三村さん「ペットボトルはポリエチレンテレフタレート(PET)という単一樹脂でできています。自治体によっては非常にきれいな状態で分別収集されるため、質の高いリサイクルが可能なのです」
さらに、同社の水平リサイクルの中でユニークな取り組みの一つが、ブルーシートのリサイクルです。広島県にある同社の福山工場が、国産のブルーシートメーカーと連携。建設現場などで使用された同メーカー製のブルーシートを工務店などから回収し、洗浄・再生して新たなブルーシートの原料にしています。
日本に流通しているブルーシートの約7割は輸入品と言われていますが、こうした国産品に着目した取り組みは、より環境負荷が少ない地産地消型の資源循環を模索する上で重要な試みです。

三村さん(事業開発本部マーケット戦略部長)
市民と現場をつなぐ、見えない連鎖
暮らしの中でごみを捨てるときに、「これはどっちの分別に入れるべき?」「どこまできれいに洗ったらプラごみとしてみなされるの?」など、捨て方に迷ったことがある人は少なくないでしょう。
私たちの身の回りには、数え切れないほどの素材とそれによって生まれた製品が存在しています。加えて、分別方法が自治体によって異なるため、正しい捨て方について一概にルール化できないのがむずかしいところ。
市民がうまく分別できなかった資源がリサイクル工場に届くと、それらは「不適物」や「禁忌品」と呼ばれ、本来混入してはならない異物として扱われます。
- 不適物(ふてきぶつ):決められた分別とは異なるごみのこと。例えば、プラスチック資源に混入している紙や金属、ペットボトルなど。
- 禁忌品(きんきひん):不適物の中でも、発火・爆発、感染、あるいはけがなどの危険を伴うもの。ライターや電池、スプレー缶、注射器や刃物、割れたガラスなど。
これらは、質の高い資源循環の実現を目指すリサイクル工場が、日々直面する課題の一つです。

実際に回収された不適物・禁忌品の例

不適物として回収された金属類
J&T環境の場合、特に深刻な影響をもたらした不適物に、2023年に回収された長さ約6メートルにおよぶパラシュートのようなものがあるそうです。
回収後、工場のラインでベルトコンベアに絡みついてしまい、コンベアが外れるという事故が発生。真夜中の緊急事態を受けてかけつけた作業員の方々によって、3時間後に何とか復旧しました。しかし、その間に製造できるはずだったベール約90個分が生産できなくなるという事態を招いたといいます。
なぜ、ひとつの工場で起きたトラブルが、これほど大きく受け止められるのでしょうか?
それは、リサイクルの工程がひとつの流れとしてつながっており、工場内のひとつの機械が止まるだけで、その後に続く全体のラインや物流にも影響を及ぼすからです。
この一連のプロセスには、回収から再資源化に至るまで多くの関係者が関わり、日々綿密な連携のもとに動いています。たとえ短時間でも工場内で作業が滞れば、その影響は出荷先や再製品化の現場、さらには家庭からのごみ収集のスケジュールや社会インフラの運用にまで波及しかねません。
そのため、ひとつのトラブルも重大なこととして扱われ、全体でのリスク管理や対応が求められるのです。

プラスチック資源の受け入れの様子
質の高い資源循環。カギとなるのは、市民・行政・事業者の連携
そのような現場の状況がある一方、横浜市の分別ルールでは、プラスチック資源は「50cm以内」と定められています。しかし、「袋に入れば重いものでもいいのか」「畳んで小さくなる場合はどうか」といった解釈の曖昧さが残されていることも事実です。
実際、不適物の中には、ボウリングの玉や大きな灯油ポリタンク、液体の入った保冷剤など、悪意によらない異物も多数見受けられるといいます。

遠藤さん(プラスチックリサイクル本部)
また、ルールを守って分別していても、回収からリサイクルまでのプロセスで問題が起こることもあるそうです。例えば、プラスチック製で50センチメートル未満のビーズクッションは、分別ルール上はプラスチック資源として扱われます。しかし、多くのごみに紛れていると、回収や圧縮の際に破損して中身が飛び散りやすく、機械の故障や作業員のけがを引き起こすリスクがあります。
遠藤さん「こうしたケースでは、市民の皆さんがごみを出す際に、例えば『中身はビーズクッションです』と袋にメモを貼ってくだされば、収集運搬の段階で別に扱うといった工夫が可能です。行政のルールと現場の実情、そして市民の皆さんの協力。この三者のコミュニケーションで解決できることはまだまだたくさんあります」
資源の循環は、市民一人ひとりの日々の行動から始まるということがよくわかります。
製品プラスチックの分別ルールの変更による、希望と懸念とは
横浜市では2013年に始まったごみの分別収集と削減運動「G30(ジーサンジュウ)」が大きな成果を上げ、早期からリサイクルへの意識が高い地域とされてきました。その後、横浜市一般廃棄物処理基本計画としての「G30」は、「3R夢(スリム)プラン」へと引き継がれ、2023年からは「ヨコハマプラ5.3(ごみ)計画」へと形を変えています。
現行の基本計画においてプラスチックごみ削減が重点化される中、横浜市は2025年4月に、一般廃棄物における製品プラスチックの分別ルールを変更しました。
これにより、「プラマーク」が付いているものだけでなく、これまで燃やすごみとして扱われていた「プラスチックのみでできている製品(製品プラスチック)」も、プラスチック資源として回収の対象になりました。つまり、J&T環境のようなリサイクル施設では、新たに製品プラスチックの受け入れが始まったのです。
分別ルールの変更から約2カ月。現場では、どのような変化が起きているのでしょうか。
小林さん「製品プラスチックの受け入れ開始後、不適物の割合は約8%(2025年4月単月のデータ)でした。ルール変更前の平均は約8.5%でしたので、わずかに減少しています。これまで異物として扱われていた製品プラスチックが分別対象に加わったことも影響しており、分別ルールの浸透度を一概に評価するのは難しいですが、現場では大きな混乱なく対応できています」

小林さん(プラスチックリサイクル本部)
とはいえ、今後を見据えると、分別の難しさに注意が必要だといいます。
三村さん「例えばハンディファンは、プラスチックのみでできている『製品プラスチック』のようにも見えるのですが、実際中身にはリチウムイオン電池が内蔵されていますので分別が必要です。電池が入ったまま回収してしまうと、リサイクルの過程で損傷し大規模な火災につながる危険性があります。そのため、こうした中身の見えづらい製品が引き起こす禁忌品混入のリスクを減らす工夫も求められていると考えています」

選別用のベルトコンベアを流れる、回収されたプラスチック資源
川上と川下がつながり、紐解く。製品設計への問い
一方、J&T環境では「これまで埋もれていた良質な単一素材のプラスチックが集まる可能性もあり、それらを高付加価値なリサイクル原料として再生できるチャンスも秘めている」と、分別ルールの変更に期待を寄せています。
同社は、プラスチック以外にも多様な資源のリサイクルに取り組んでおり、グループ全体の技術的な蓄積が強みです。例えば、製鉄事業のプロセスで培われたプラスチック利用によるCO2削減技術やケミカルリサイクルの知見、グループ会社が持つごみ焼却施設や下水処理といったインフラ事業のノウハウなどです。これらが融合することで、社会が必要とする様々なリサイクル技術へのアクセスを容易にしています。
三村さん「『こんなものをリサイクルできますか』と相談を受けると、社内で『それは昔挑戦して、当時はうまくいかなかった技術だね』、『こんなところが改善できればリサイクルできるかも』といった情報が共有されることもあります」
「具体的には、プラスチックを油に戻す『油化』。この技術は何十年も前から存在しましたが、当時は生成される油の質が悪く、石油精製会社に持ち込んでも、『需要がないから』と断られていました。しかし現在では、持続可能な航空燃料(SAF)の原料などとして注目され、大手企業も本格的に研究開発に乗り出しています。このように、過去の技術が時代のニーズと結びついて再評価されるというケースもあります」
このような変化に対応できるのは、長年の蓄積と多岐にわたる知見をもつJ&T環境だからこそ。日々同社に寄せられるご相談内容にも変化がある、と三村さんは続けます。
三村さん「以前は、『廃棄物をどう処理できるか』といった処分に関するご相談が主でした。しかし近年、サーキュラーエコノミーへの移行が注目を浴びるようになり、製品の企画開発や設計を担当するメーカーの調達部門や研究開発部門の方々から、廃棄物の出にくい製品設計やリサイクルしやすい素材のあり方についてご相談を受ける機会が増えています。これは非常に大きな変化です」
J&T環境では、メーカーや技術者との対話も大切にしています。実際にリサイクル工場に足を運んでもらい、製品がどのように処理されているのか、そして何がリサイクルの妨げになっているのかを自らの目で見てもらうことも多いといいます。

工場見学の様子
三村さん「例えば、お惣菜のパックに貼られる値引きシールは紙製で、しかもはがれにくく作られているため、リサイクルの現場では分離が難しいのです。こうした一見当たり前のようなことでも、実際に現場を見て担当者同士が議論することで、製品設計の重要性が理解され、リサイクルへの意識が高まっていると感じます」
製品設計が変われば、日々の生活における「正しい分別」も促進されるはずです。前述のハンディファンのような製品でも、廃棄時に分解しやすいデザインを採用したり、中身が見えやすい素材を使ったり、分別と再資源化を促すさまざまな工夫ができるかもしれません。
動脈産業と静脈産業がつながることで、資源循環のさらなる加速が期待されます。
進化する資源循環とJ&T環境のこれから
急速に変化する時代の中で、J&T環境は未来への投資を続けています。
脱炭素化に向けては、2027年度のCO2削減貢献量を2023年度比で約1.5倍の159万t-CO2とする目標を掲げ、そのうち水平リサイクルと地産地消型リサイクルで合計27万t-CO2の削減を目指しています。
また、パートナー企業と共同で開発を進める「C-PhoeniX Process®」では、これまでリサイクルが困難だった廃プラスチックを高温で炭素と水素に分解し、その合成ガスからバイオエタノールなどの化学原料に再生するケミカルリサイクルの実証も進んでいるといいます。「これが実用化すれば、プラスチックリサイクルのブレイクスルーになる可能性がある」と、期待を込めます。
三村さん「専門家だけで考えると視野が狭くなりがちです。様々なバックグラウンドを持つ方々とそれぞれの視点でアイデアを出し合うことで、資源のカスケード利用(資源を段階的に最大限活用すること)を実現し、市民の皆さまの暮らしを支えてまいります」
編集後記
横浜という大都市の日常を支える、リサイクル工場。そこで目の当たりにしたのは、効率的なリサイクルを可能にする機械の迫力と、ひとつひとつの資源と丁寧に向き合う人々の温かみでした。
特に印象的だったのは、製品メーカーの設計担当者と直接対話し、リサイクルの現場を見てもらうというアプローチです。「川下」の課題を「川上」にフィードバックし、根本的な解決を目指す。これこそが、サーキュラーエコノミーの本質であり、多くの企業が学ぶべき視点ではないでしょうか。
そして、J&T環境の皆さんが語る言葉の端々から垣間見えたのは、社会インフラを担う責任と、資源循環への熱意でした。「ミラクルリサイクル。」というミッションの通り、J&T環境の取り組みは循環型社会実現への確かな道筋を示しています。
本記事が、行政のルールと現場の実情、そして市民の協力という三者のコミュニケーションを強化し、みんなで”ミラクルな”循環型社会を築いていくきっかけのひとつとなれば幸いです。
【関連記事】廃棄物から価値を生む。リサイクルで横浜の資源循環を支える「グーン」
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【参照サイト】J&T環境株式会社
【参照記事】ヨコハマ プラ5.3(ごみ)計画(横浜市一般廃棄物処理基本計画)
【参照記事】【2025年4月から】プラスチック資源の詳しい出し方|横浜市

室井梨那(Rina Muroi)

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