学生と企業の連携にはどんな意味があるのか。「Polytope Project IWASAKI」の養蜂活動に学ぶ
- On 2023年11月29日
生き方やキャリアが多様化する昨今。学生が将来の進路を決めるうえで、在学中に企業や社会人と交流するニーズが高まっています。また、企業にとっても、めまぐるしく変化する社会の需要を柔軟な視点から捉えながら研究や開発に参画するためのアプローチとして、学生とのつながりがひとつの価値となっています。
そこで今回Circular Yokohamaでは、横浜を拠点とする学民連携の事例として、「Polytope Project IWASAKI(ポリトープ プロジェクト イワサキ)」が進める養蜂の取り組みを取材しました。
同プロジェクトは、株式会社A.G.A.(以下、A.G.A.)と学校法人岩崎学園(以下、岩崎学園)が共同で2021年8月に立ち上げた、教育プログラムです。
ミツバチを媒介とする学生と企業の連携。何をきっかけとし、何を生み出しているのか。そしていま、学生は何を見て、何を感じているのでしょうか。
本取り組みに関わる岩崎学園情報科学専門学校情報セキュリティ学科の3名の学生にお話を伺い、活動の進捗やそこから得られる学びについて深掘りします。
「Polytope Project IWASAKI」とは
Polytope Projectとは、若者が主体となって地域の事業者とともに地域の名物や特産品を生み出す事業を創出し、それによって地域に多様なつながりを生み出し、新しいコミュニティや新しい価値を生み出すことを目指す取り組みです。
「Polytope Project IWASAKI」では、横浜の新しい名物を生み出すことを目的に、横浜市を中心とした小学生と岩崎学園の学生が、地元企業と連携して商品開発などを行ってきました。
初年度にはトライアルとして2021年8月から2022年2月までの約半年をかけ、横浜の市の花である「バラ」に焦点を当て、「バラを使ったお菓子を作る」をテーマに活動しました。
若者たちはこの活動を通して、地元横浜に対する理解を深めると同時に、新しいことを生み出す発想力や学校や家庭とは違う環境で自分の力で最後までやり切る力を伸ばしていきます。
連携する地元企業も、事業活動を通じて若い世代と関わり新しい視点や価値観に触れ、地域の価値を高めることに貢献することができます。
学民連携の橋渡しとなる養蜂のはじまり
花粉を集めて蜜を作るために、巣箱を拠点に様々な場所を行ったり来たりするミツバチ。その様子はまるで、「地域の様々な場所へ出向き、あらゆる人々とのつながりを構築しながら岩崎学園にその学びを集めていく」というプロジェクトの目指す姿のよう。
Polytope Project IWASAKI(以下、Polytope Project)での養蜂の活動は、そんなひらめきが全てのはじまり。
2022年9月、Polytope Projectの目指す価値創出に加え、横浜駅すぐに敷地を構える岩崎学園情報セキュリティ大学院大学屋上の緑化スペースの有効活用を実現すべく、ゼロから養蜂を始めることとなりました。
岡村さん「学校の情報ポータルサイトでPolytope Project参加者募集の情報を見つけました。私は、多種多様な人々と関わるのが好きなので、このプロジェクトに参加すれば、他の学生や地域企業の人たちと関われるかもしれない、という予感に突き動かされました。きっと、この先の人生で養蜂に関わることができるチャンスはそう多くないと思います。まだ知らない世界に触れてみるためにも、参加を決めました」
渡辺さんも森さんも、情報ポータルサイトでたまたま見かけた「養蜂」の2文字に惹かれたそう。現在は、そうして集まった岩崎学園の学生に加え、県内の小学生や高校生も合わせた約20名が本プロジェクトに登録しています。
大都市・横浜の中心部に、ミツバチを迎えるために
早速立ち上がった養蜂のプロジェクトですが、参加学生はもちろん、活動を伴走するA.G.A.のスタッフも、全員がミツバチの飼育や養蜂の初心者。全てをゼロから学ぶ必要がありました。
渡辺さん「『養蜂』と聞いて、ハチのお世話をすることを楽しみにしていたのですが、行ってみるとそこにハチは一匹もいませんでした。ミツバチを迎え入れるための調査と勉強からスタートすると知った時は驚きました」
活動拠点となる大学院は、国内有数のターミナル駅である横浜駅のすぐ近く。果たしてそこに、ミツバチが花粉を集めるための蜜源植物はあるのか。必要な道具には何があって、それはどこで手に入るのか。ハチの生態からお世話の方法まで、学ぶことは山のようにありました。
事前学習では、横浜で養蜂に取り組む企業や団体の方々にお話を聞きに行ったり、イベントのお手伝いをしたり、養蜂の現場を目で見て体験することで、少しずつ学びを深めていったといいます。
岡村さん「2022年11月開催された『共創博覧会』では、西武造園株式会社の「はち育」のワークショップブースの運営をお手伝いしました。その際に、はち育活動で生まれたハチミツを使ったキャンディーを試食して、そのおいしさに感動しました。自分たちが苦労して作ったハチミツの味は、より一層おいしいだろうな…と想像して、その後の活動へのモチベーションが大きく高まりました。
様々な形での学習に加え、巣箱設置予定の屋上の緑地整備も進め、Polytope Projectでは2023年7月にようやく自分たちが育てるミツバチを迎えることができました。
渡辺さん「初めてミツバチと対面した時の感動は忘れられません。事前準備は長く険しい道のりでしたが、それを乗り越えたからこそ迎え入れることができた。苦労が報われたと思いました」
全ては、正しい知識を「学び、知ること」からはじまる
「都市養蜂」と聞くと気になるのが、その安全性。攻撃性の低いミツバチたちは、日常的に暮らしているだけで刺すことはないと言われています。とはいえ、鋭い針をもつハチに対して、なんとなく「怖い」という感覚を持っている人も多いのではないでしょうか。
その点について学生の皆さんに聞いてみると、「きちんと知識をつければ大丈夫」という頼もしい答えが返ってきました。
岡村さん「ミツバチに触れることへの恐怖心は全くありませんでした。それは、ミツバチを迎える前に、1年以上かけてその生態や接し方について勉強した成果だったと思います」
渡辺さん「よくみてみると、ミツバチはとても愛嬌のある顔をしています。活動を始める前は、私もハチに対して無機質な印象を持っていましたが、『ふさふさ』や『もふもふ』という言葉がピッタリの可愛らしい存在です」
森さん「私は虫が苦手ということもあり、ミツバチの世話をするなかで本当に刺されないのかと、心配に思う部分がありました。しかし実際に近くで接してみると、すぐに恐怖心はなくなりました」
何事もつい先入観に囚われがちになることがありますが、学生の皆さんはこの経験を通して、正しい知識を「学び、知ること」の重要性を体感できたようです。
「学生というだけで応援してもらえるわけではない」自分なりの社会的価値を模索する
ミツバチがもたらす学びは、それだけではありません。Polytope Projectの本来の目的である「多様な人と出会い、多様な価値観に触れること」や「プロジェクトが社会にどんな価値をもたらすのかを考え、体験すること」について、学生の皆さんはどのように感じているのでしょうか。
渡辺さん「印象に残っている出会いは、共創博覧会でお手伝いをした際に、環境課題に取り組むビジネスを展開している企業のCEOに話しかけていただいたことです。我々の活動に興味を持ってくださったことが嬉しく、その場で名刺交換もしました。学生という立場でビジネスパーソンと接することができたのは、このプロジェクトに関わったから得られた経験だと思っています」
岡村さん「岩崎学園が運営する学校は全部で7校あります。この活動にはそれぞれの学校から参加者が集まっているため、同じように社会的活動に興味を持つ学生たちと広く交流できることに大きな価値を感じています」
多方、森さんはプロジェクトを一つのビジネスとして捉えた時の難しさについて次のように話します。
森さん「養蜂を始めてからここまで来ることができたのは、Polytope Projectをサポートしてくださる皆さんのおかげです。今後の活動を持続可能なものとすべく、クラウドファンディングを立ち上げて、これまでの資金回収と今後の資金調達を試みました。しかし、特段戦略を立てずに開始したファンディングでは、立ち上げ資金の3%程度の金額しか集まっていません。自分たちが今取り組もうとしていることを人に知ってもらい、応援してもらうことの難しさに直面しました」
岡村さん「正直なところ、学生というだけで応援してもらえるとは決して思っていません。例えば、社会人同士であれば互いにビジネスの話として同じ目線で交渉できるかもしれませんが、学生と社会人という異なる関係性において、私たち学生が企業に対してどんな価値をもたらすことができるのか、日々悩んでいます。私たちに何か特別に詳しい分野や技術があれば…とは思うものの、それもなかなか見つかりません。『学生』というだけであれば、自分以外の学生もたくさんいます。では、自分を選んでもらえる理由はなんだろう?私は、プロジェクトを通してこの疑問と向き合っています」
自分たちが今取り組んでいることは、社会においてどんな価値を持つのか。社会の循環の輪に組み込まれた時、成り立つものなのか。企業やビジネスパーソンが抱える課題に向き合い解決に取り組む。それを学生のうちから経験できることも、Polytope Projectが提供する特別な学びの一つです。
未来のことはわからないけれど、この経験は必ず前向きな価値をもたらすに違いない
取材の終わりに、Polytope Projectを通じて見据える将来について、皆さんに伺ってみました。
森さん「私はただ、新しいことに挑戦するのが楽しくて、その楽しさを重要視して生きています。このプロジェクトで得られる学びや将来との関連については、決して打算的な道筋を立てているわけではありません。それでも、この活動を通じて『何かひとつ成功体験を得たい』という強い想いを持っています。私の場合、それはきっとクラウドファンディングの成功になるのだと感じているので、目的や目標をメンバーのみんなと話し合って、良い方向へ導いていきたいです」
岡村さん「学問としての専攻はITやセキュリティですが、自分はエンジニアには向いていないような気がしています。プロジェクトで取り組んでいる養蜂も、直接の将来の職業になるかはわかりません。何かに挑戦することで多方面に知見を広げていき、そうやってひとつひとつ自分の関心や向き不向きと向き合っていく姿勢を大事にしたいと思っています。何事も知らないままにするより、少しでも触れてみれば、その知識が別のどこかで役に立つことがあると信じています」
渡辺さん「興味があることにはとりあえず手を出してみる、という自分の性格のおかげで、これまで多種多様なことに関わってくることができました。しかし、様々なことを知れば知るほど、自分の興味も多様であることに気がつき、これから将来を決めるうえで何を選び取っていくか、悩みが増えているのも事実です。けれども、ふとした時に『自分には養蜂の活動がある!』と思い出す時があって、それが今の自分の人生に自信を与えてくれています。この活動で得た知識や技術、誇りを活かせる未来に向けて、前向きに進んでいきたいです」
取材後記
インタビューのなかで、学生の皆さんは「学生というだけで応援してもらえるとは思わない」という正直な課題感を打ち明けてくれました。多方、プロジェクトを推進するA.G.A.の担当者からは「学生という立場が持つアドバンテージにも気がついてもらいたい」という声が。
学生の皆さんは「学生という立場で社会人と接することや、『学生だから』特別な経験ができるかもしれない、という周囲のアドバイスの意味にまだピンと来ていない」と話していたものの、その眼差しは確かに、いまは想像もしていない成果が未来で訪れるかもしれない、というワクワクを映し出しているように見えました。
不安と同時に希望も抱える学生たちと交流してみたいという社会人、企業の皆さまは、ぜひ岩崎学園の「Polytope Project IWASAKI」に参画してみてはいかがでしょうか。
【関連記事】花とハチミツで、地域の自然も経済も豊かに。横浜・瀬谷で養蜂に挑む「セヤミツラボ」
【参照サイト】株式会社A.G.A.ホームページ
【参照サイト】学校法人 岩崎学園ホームページ
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