好きな街を、もっと好きな街に。市民の「愛着」から始まる循環都市・横浜の現在地【横浜市とサーキュラーエコノミーのあゆみ Vol.4】
- On 2026年3月30日
※本記事は、横浜市国際局が運営する「Green Hub in Asia」に2026年1月に掲載された記事の翻訳・一部編集版です。横浜市職員への取材をもとに、Circular Yokohamaを運営するハーチ株式会社が制作しています。
前編では、『STYLE100』の立ち上げに込められたビジョンと情熱について紐解きました。後編では、『STYLE100』で紹介されている市民の取り組みに焦点を当て、横浜で「官民連携」がどのように形づくられているのかを追っていきます。
乾杯のその先へ。クラフトビールの聖地で始まる循環の物語
ガス灯やジャズ、食パン──日本最大の港を有し、海外の文化の玄関口である横浜は、海外の文化を輸入し、日本の文化と融合し、今では日本で当たり前となった様々な文化を生み出してきました。そんな横浜で生まれた文化のひとつが、ビールです。特にみなとみらいエリアにはブルワリーが集積し、長くビール好きに親しまれてきました。

そんな街のアイデンティティのひとつでもあるビールを起点とした循環の物語が、横浜で始まっています。例えば、創業26年、横浜の代表的ブルワリーである横浜ビールでは、農家の摘果みかんを使ったビールや、横浜名物のシウマイ弁当を作る老舗企業である崎陽軒でフードロスになるお米を使ったビールなど、地域ならではの文脈を乗せながら、循環をつむいでいます。
また、ビールを醸造する際に出るモルト粕は、横浜市を中心に廃棄物の収集運搬・処分、資源化(リサイクル)を手掛ける横浜環境保全株式会社の協力を得て堆肥に。市内外の農家に使用してもらうことで、フードループを実現しています。

横浜ビール本店外観


横浜ビール醸造場
しかし、モルト粕を堆肥にするだけではその処理が追いつかない現状もありました。そこで、モルト粕を紙にアップサイクルすることで新たな価値の創出を試みるのが、株式会社kitafukuです。
同社が作るクラフトビールペーパーはあたたかなビール色が特徴。ビールの飲み比べセットのカップホルダーやファイル、名刺など、多様な用途があります。紙にすることでより様々な使い道を作ることができ、人の目にも触れることで、より高い付加価値を創造できます。市内のブルワリーがこのクラフトビールペーパーをメニュー表に活用するなど、複数のブルワリーが連携して循環を作っています。

クラフトビールペーパーの一部 / 出典:横浜市「地球1個分で暮らそう STYLE100」

横浜ビールで回収したモルト粕

横浜ファンカンパニー株式会社 共同代表 横内勇人さん(Yokouchi Hayato)・工藤葵さん(Kudo Aoi)、株式会社kitafuku 代表取締役 松坂匠記さん(Matsuzaka Shoki)
かつて横浜ビールの広報として働き、現在は市内のビール文化を盛り上げる事業を行う横浜ファンカンパニー株式会社代表の横内さん、共同代表の工藤さん、株式会社kitafuku代表の松坂さんは、これから横浜のビール文化をより一層盛り上げていく中で、循環の観点は欠かせないと語ります。
工藤さん「クラフトビールの街を盛り上げていく中で、社会にとって『飲んで終わり』ではない価値がとても大切だと思っています。だからこそ、今後もブルワリーと連携して循環をさらに盛り上げていけたらと考えています」
横内さん「どんな取り組みも、楽しくないと続かないと思っていて。ビールの取り組みは、循環させて、うまくいったらみんなで乾杯して、と本当に楽しい。これからも楽しみながら循環を作っていきたいですね」
松坂さん「これから横浜がますますクラフトビールの街になっていく中で、クラフトビールを最後の最後まで楽しめる街にしたい。そして、横浜は、外から様々な文化が入ってきた港街。だからこそ今度は、横浜から世界へ、新しい文化を輸出していけるはずです。この『もったいない』を付加価値に変えていく取り組みを、横浜から発信していきたいと思っています」
▶️STYLE100の記事はこちら クラフトビールでフードループを生み出そう

横浜ビール醸造所
都市に残る奇跡の原風景。「寺家」の里山から見えてくる、循環する暮らしと本当の豊かさ
近未来的な都市部が注目されがちな横浜ですが、実は郊外には、日本古来の原風景が色濃く残されています。そのひとつ、青葉区にある「寺家」という地域です。
ここには「谷戸」と呼ばれる独特な谷状の地形があり、その地形を活かした田んぼや森が広がっています。こうした風景は、日本では「里山」と呼ばれています。里山とは、単なる野生の自然ではなく、人が森を手入れし、田畑を耕すことで維持される、人と自然が共生する生態系です。人が適度に関わることで、そこは多くの動植物にとってのかけがえのない住処となってきました。

冬の寺家の様子 / 出典:横浜市「地球1個分で暮らそう STYLE100」
しかし現代では、管理する人々の高齢化や都市開発の波により、こうした里山の維持は難しくなっています。だからこそ、農家の手で守られてきたこの寺家は、都市に残された貴重な場所です。今では里山を愛する市民たちが集まり、この貴重な環境を未来へつなぐために、保全活動に励んでいます。
例えば、山本小百合さんは、子育て中は毎日お子さんと散歩に訪れるほど寺家に魅了され、今では2024年度から始まった「農ある暮らし」をテーマに地産地消や自然・農業・農村文化の体験など、地域資源を活かした寺家エリアの新たな価値創出を目指す「寺家みらいプロジェクト」にも参加するメンバーです。
また、寺家で生まれ育ち、元寺家町内会長で寺家ふるさとの森愛護会の会長でもある金子政夫さんは、長年里山に手を入れ再生する活動を行っています。隣の町田市で里山保全の活動を行う坂本竜一さんは、環境土木の第一人者である高田宏臣さんが寺家で開催する里山再生実践講座で学びを得るため、定期的に寺家に通っているそう。寺家野鳥の会副会長の稲垣真さんは、野鳥観察家として30年近く寺家に通い続け、今では野鳥観察会を通じて生物多様性の大切さを市民に伝える活動も行っています。

(左から)山本小百合さん、坂本竜一さん、坂上浩美さん、金子政夫さん、稲垣真さん
坂上浩美さんは、季節の野菜や食材で食事やスイーツを提供するカフェを併設したギャラリー「JIKE STUDIO(寺家スタジオ)」を運営しています。2024年には、駐車場建設の計画が持ち上がったお店の目の前の柿畑を守るためクラウドファンディングを行い、寺家を愛する人たちから1,700万円を集め、農地の買取に成功しました。その後は、本格的に農家として放作地の再生なども行うなど、寺家を守る中心的な活動を精力的に行う一人です。

寺家スタジオ店内

寺家スタジオのランチ。地産地消の野菜や丁寧に焼き上げる天然酵母のパンが評判
寺家と関わりの深い方々からは、寺家の自然やその美しさへの愛が伝わってきました。
坂上さん「この里山には、心を元気に、豊かにしてくれる力がある。人間の豊かさって何だろうって考えたとき、ここには全てある、と感じたんです。悲しいことや頭にくることがあっても、この自然はそれを全部受け入れてくれて、穏やかな気持ちにリセットさせてくれる。
そして、元気な動植物がいること。鳥の声が聞こえたり、いろんなお花が咲いてたり……。生きている里山があるということが、深みを出して私たちの心を癒してくれていると思います。また、農家さんがいて、本物の農業があることも大切です。農家さんがいなければ、この里山の風景は守られませんから。これらすべてがとてつもない価値であり、魅力であり、宝です」
そんな寺家は、自然の循環を身体で掴み取れるフィールドでもあります。坂上さんは、木が伐採され過ぎて保水力を失ってしまった寺家スタジオの裏山を、先人の知恵を掘り起こし、土中環境から整える高田宏臣さんの知見を借りて再生し始めました。
戦後の経済成長に伴って、急激に変化した産業構造の変化。それでもかつての日本は自然と共存し、循環の中にある暮らしがありました。高田さんの実践講座でこの土地に触れ、向き合う中で、循環を肌で感じたと言います。
坂上さん「山を再生する時に必要だったのが、もみがらで作るくん炭と竹炭、落ち葉、そして藁だったんです。これらは、農業を行っていれば自然と手に入るもの。それを資材として山に投入したら、山が元気になって。裏山の空気が変わりました。それを見て、ああ、自然は全部循環するようにできているんだなって実感したんです」
寺家を愛する気持ちは、そのままこの場所を守り続け未来に残したいという純粋な気持ちにつながっています。
金子さん「観光地にしたいわけでは決してありませんが、たくさんの人に来てもらって、特に子どもたちには、この場所の自然の素晴らしさを身体で体験してもらいたい。その子どもたちに、また次の世代にこの自然をつないでいってもらいたいのです」
坂本さん「まさに最近、子どもの時代の自然教育ってとても大事だなと思っていて。小さい頃に自然に親しんでいると、大人になった時にごみを捨てることや何かが壊れることに対して心を痛め、何か良くないことが起こっているということが直感的にわかるようになるのではないかと思っています」

▶️STYLE100の記事はこちら 未来に“里山”をつなごう
「捨てる」を「作る」へ。循環教育で育む、未来世代の生きる力
循環型都市への移行において欠かせないのが、次世代への教育です。横浜市金沢区にある瀬ケ崎小学校では、環境教育を盛り込んだものづくりを通して子どもたちが生きる力を育む、商品開発の学習プロジェクトを2018年から行っています。
例えば、地域産品を活用した調味料「金澤八味」作り。原材料を学校裏の畑で育てるところから行いました。さらに、コロナ禍では、手洗いの大切さを伝えるため、地域の材料や未利用資源を練り込んだ石けん「黒船石けん」の開発も。
2025年には、全国で米不足に悩まされたことから、お米に変わる主食を作ろうと、捨てられるうどんを再利用した食品「THE 稲庭うどっと」を作りました。地域のイベントや企業へのプレゼンテーションや販売まで、小学生が自分たちで行っています。

瀬ケ崎小学校でこれまで開発してきた商品。一部は現在も地域の拠点で販売されている
プロジェクトを主導するのが、教諭の桐山智先生です。桐山先生はこの取り組みを通して、子どもたちの生活の中に循環の概念が浸透していくと話します。
桐山先生「循環について教えるとすぐに変化が現れて、『これ、まだ使えるんじゃない?』と話し始めたり、今まで簡単に捨ててたものをうまく使って何かを作ったりし始める。目の前にあるものに対して、大人でも気づかない使い方を、子どもたちが見つけてくれるようになるんです。そうしたことが日常の中で当たり前になっていくということが、とても大事だと思っています」

桐山智さん
ものづくりのほかにも、学校裏の森を整備し、自分たちであそび場を作る「アスレの森」プロジェクトも。思い切り遊べる自然のフィールドがすぐそばにあることは、子どもたちをのびのびさせます。瀬ケ崎小学校の子どもたちは、「山を歩くだけでいろんな自然と出会えて楽しい」「落ち葉をふむといい音がする。虫に刺されたって、自然の中であそびたい」と話し、自然のあふれるこの森で生き生きと過ごしているようです。


アスレの森で遊ぶ小学生たち。スライダーで滑り降りられるよう、坂道を整備した
「今までは、物は使ったら捨てるリニアエコノミーだった。でもサーキュラーエコノミーでは、捨ててしまうはずのものを使って何かを作れる。そこが好き」
リニアやサーキュラーといった言葉の意味をしっかりと理解し、自分の言葉で語る子どもたち。彼ら彼女らが大人になった時、身近なものや資源に価値を見出し、次の役割へつないでいく──そんな光景が当たり前になった横浜の姿が想像できました。

瀬ケ崎小学校の小学生たち

アスレの森の遊具で遊ぶ小学生たち。この遊具も小学生が企画して制作している
瀬ケ崎小学校での学びやつながりは、子どもたちが卒業した後の人生にも大きな影響を与えています。池尻愛理さんと池尻音波さんは、2019年に金澤八味作りに参加した瀬ケ崎小学校の卒業生です。「シソ作りから、乾燥させてミキサーで砕くところまで手作業で頑張ったのがいい思い出」。そう語る2人は、今では高校3年生になり、地元企業や桐山先生を巻き込みながら、自ら企画した化粧品作りを進めています。
池尻愛理さん「循環って、すごく日常生活の中に取り入れられるものだと思います。むしろ、すでに日常の中にあるもの──そんな感覚です」
瀬ケ崎小学校で学んだ彼女たちは今、横浜の未来を見据えた未来世代の大人になろうとしています。
池尻音波さん「子どもからお年寄り、国籍の異なる人たちまで、横浜に住む様々なバックグラウンドを持つ人たちが安心して楽しく住める街であること。そして、住んでいることを世界に誇れる都市になっていったらいいなと思っています」

(左から)池尻音波さん、池尻愛理さん

▶️STYLE100の記事はこちら 地域に自然のあそび場をつくろう
ローカルな熱量を世界へ。STYLE 100が描くEXPOへの道
ビールや寺家の里山、そして未来を担う子どもたちの教育。分野は違えど、横浜のあちこちで市民の皆さんの活力を感じることができます。横浜市は「STYLE100」という取り組みを通じ、この「市民の力」をより強固なものにし、未来へつなげていこうとしています。
──改めて、今感じているSTYLE100事業の意義を教えてください。
岩下さん「この事業を通して、何よりも私たち自身が環境や社会について深く学ぶ機会になっています。また、取材を通して深く話を聞く・聞かれるという形で私たちと市民の皆さまとの間に新たな関係も構築でき、そこから良い広がりが生まれていると感じています」
故長井さん「ある時、STYLE100で取材させていただいた方から、『こういった形でスポットライトを当ててもらったことで、自身の事業を伝える際の“名刺”のような存在になった。』といった声をいただいたことがあり、この事業の意義を感じられました」
岩下さん「STYLE100で紹介している実践者の方々は、次のステップへの悩みも抱えているということを取材を通して知りました。そこで2025年の夏には、実践者の皆様同士をつなげ、新たな可能性をつくる場としてSTYLE100で取り上げた方たちが一堂に会する「オープンセッション」を開催しました。そこで出会った団体同士が新しいアクションを始めたという報告をいただいたときは、とても嬉しかったですね」

出典:横浜市「地球1個分で暮らそう STYLE100」

STYLE100による初めてのリアルイベント『STYLE100オープンセッション』の様子。2025年7月11日、横浜市中区の「YOXO BOX」で開催された / 出典:横浜市「地球1個分で暮らそう STYLE100」
──まさに、STYLE100をきっかけに市民の取り組みが発展しているのですね。最後に、今後の展望や意気込みを聞かせてください。
岩下さん「まずは、市内にこれだけ素晴らしい活動をしている人たちがいるのだということをSTYLE100というプラットフォームを通じて知っていただけるよう、引き続き努めていきたいと思います。さらに、これまで取材した方々だけでなく、その周りにいる方や地域活動に取り組む方々など、より広くこの枠組みに関わっていただけるように巻き込んでいこうと考えています。
また、横浜の市民力を世界にも発信していきたいと考えています。最近では英語字幕を付けた動画を制作するなど国際発信にも取り組み始めています。2027年に横浜で開催される『GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)』までに100の実践を取り上げ、そこで国内外へ、『未来をつくる横浜のSTYLE』をお披露目することでさらにムーブメントを広げていきたいと考えています」
故長井さん「STYLE100の発信に触れた方の心が少しでも動き、何か行動や想いを変えるきっかけやヒントを感じていただければ、それがグリーン社会に向けた第一歩になると思います。今後もそうした市民の方々の第一歩を後押しするような存在であり続け、地球にやさしい暮らしが当たり前になる社会を目指していきたいと思います」
編集後記
今回の取材を通じて改めて確信したのは、横浜という都市における最大の資産はやはり「市民の力」であり、それを支えているのは「街への強い愛着」であるということでした。
取材に応じてくださった市民の方々からは、「良いことに取り組まなければならない」といった義務感は全くと言ってよいほど感じられませんでした。むしろ印象的だったのは、自分の暮らす街をもっと良くしたいというシンプルな想いを原動力に、課題を楽しく解決しようとクリエイティブに思考する姿です。
循環型都市への移行と聞くと、行政によるトップダウンの規制やインフラ整備を想像されるかもしれません。もちろん、国や地域によってはそうした手法が不可欠であり、横浜においても行政が果たすべき責任は重大です。
しかし、街を愛する市民が多く暮らすこの横浜においては、別のアプローチも可能です。かつて開港の地として多様な文化を受け入れ、独自のスタイルを築いてきたように、市民の日々の「暮らし」や「意識」の変容を通じて、循環という概念を一つの「文化」として育んでいく。それこそが、着実で不可逆的な循環型都市への移行を実現する鍵になるのではないかと考えています。
また、そんな横浜で行政が果たすべき役割は、一歩先を行く市民の実践に光を当て、その背中を後押しすること。そして、循環経済を単なる課題対応ではなく、前向きでクリエイティブな「豊かさ」として社会に提示し続けることにあると自負しています。
都市の規模や文化が異なれど、市民をエンパワーメントし、共創のパートナーとして巻き込む横浜の手法は、世界中の都市にとっても多くの示唆を与えるはずです。この熱量が横浜独自の新たなスタイルとして定着し、やがて国境を越えて、新たなつながりやイノベーションの源になることを願っています。
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Select photography: Chikako Togo

