サステナブルなワイン文化をお客様とともに紡ぐワイナリー
- On 2022年3月1日
横浜・山下ふ頭のたもとに、日本で一番小さくて、一番海に近いワイナリーがあることをご存じでしょうか。
横濱ワイナリーは環境保護団体WWFジャパン元職員の町田佳子さんが2017年に創業、今年で5シーズン目を迎えます。町田さんがつくる「ハマワイン」には、WWFジャパン時代から町田さんが抱いてきた持続可能な地球環境への思いが凝縮されています。
横浜で「ワインを」つくりたい
地元産の小麦やホップなどを使って小規模な醸造所でつくられる「クラフトビール」は、日本でもすっかりおなじみになりました。でも、クラフトワインとなると、しかも横浜に…。
「ないですよね。なぜだろうとひらめいて、思いつきで始めたんですよ。私は東京出身ですが、長年住んでいる横浜でクラフトワインづくりを始めたいと思って、近所で物件を探していたところ、海の近くで今の場所を見つけて始めました」(町田さん)
町田さんは、最初はかつて飲食店だった醸造スペースの部分だけを借りてワインづくりを始め、2年目からは醸造スペースの隣も借りてワインのテイスティングができる飲食スペースやギャラリーなどに使えるレンタルスペースも運営するようになりました。
つくっているワインは赤、白、ロゼ。ワインぶどうは、山梨県や長野県、東北各県からの産地から、シードルのりんごは福島県から、友人などを通じて農園を紹介してもらって調達しています。ワインづくりは、ぶどう産地のワイナリーで手伝いながら独学で学んだそうです。
「実は、ワイン生産量日本一って神奈川県なのです*。でも、原材料は海外からの輸入です。神奈川県のワインぶどうの生産量を調べてみましたが、ほぼ皆無でした…」(町田さん)
*日本のワイン製造量第一位のメルシャン藤沢工場(藤沢市)があることによるもの
横浜産ワインぶどうの栽培にも挑戦中!
そこで、2020 年春からはぶどうの苗オーナー制度*を始めました。よこはま動物園ズーラシア近くの横浜市旭区内の耕作放棄地を紹介してもらって約0.3ヘクタールのワイン用ぶどう園を開設、無農薬によるぶどう栽培にチャレンジしています。
町田さんは、ぶどう栽培も独学をベースに、ご縁のできた生産者から学びながら進めています。
「お隣の川崎市内で2~3年前から無農薬ぶどう栽培を始めた農業生産法人CarnaEstさんには『横浜は近くだから栽培できるだろう』とやりとりしながら教えていただいています。長野県の生産者からも教えてもらっていますが、その方はたまたまですが横浜から長野へ移住したと分かってビックリしました。ご縁とつながりで続けてこられています」(町田さん)
ぶどう園にはまだ空きスペースが残っており、2022年3月末まで苗オーナーを募集しています。オーナーになると、ぶどう園での農作業体験やワインのプレゼント、長野県内の産地への収穫ツアーにも参加できます。今年は3シーズン目なので、少量ながら収穫できることが期待できそうです。
*横濱ワイナリーの「ぶどうの苗オーナー制度」についてはこちら。2022年度か23年度以降は毎年収穫できるようになる見通しのため、1年ごとの契約形態に切り替わる可能性があります。
健康にも環境にも負荷の少ないワインを
町田さんが目指しているのは、健康にも地球環境にも負荷の少ない持続可能なワインづくり。それぞれに対して具体的に取り組んでいます。
「健康」に関わる取り組みとしては、2020年からいわゆる酸化防止剤フリーのワインを発売しました。ワインは保管環境によって品質に差が出ないように酸化防止剤を添加することが多かったものの、最近では大手小売店でも管理方法に留意して酸化防止剤フリーのワインを取り扱うようになり、選ぶ人も増えてきています。
「ワインは添加物の表示義務が緩く、賞味期限もありません。食味を保つためと、あらゆる温度帯に耐えるためとしてさまざまな添加物が使われているのが現状です。このほかに表示義務があるのは食紅やビタミンCぐらいですので、ワインに何が入っているか分からず、人によっては頭痛などの原因になってしまっています」(町田さん)
もう一つ、「環境」への取り組みとしてご紹介するのがローカルデリバリーとワインボトルの回収です。横濱ワイナリーでは、近隣の中区と西区のお客様には電動バイクで配達しています。横濱ワイナリーは、ぶどう園も含めた消費電力を地元の「ヨコハマのでんき」を通じて再生可能エネルギーで賄っており、配達時のCO2排出量をガソリン車よりも約半分に削減しています。
配達の際には、ワインボトルの回収も受けています。回収時には、フルボトルとハーフボトルは1本当たり30円、ミニボトルは同20円を返金。店頭に持ち込んでくれたお客様にも同じように返金しています。リターナブルびんは、1回だけ使われるワンウェイびんに比べて、CO2排出量に換算した環境負荷は約半分といいます。サブスクリプションモデルの「ハマワインクラブ」のお客様には、着払いでボトルを送り返してもらうことまでしています。
「リターナブルびん回収は昨年から始めましたが、回収率が上がってきています。びんを捨てることに罪悪感を覚える人は多いみたいですね。リターナブルびん回収は当初から取り組みたかったので始めてみましたが、どのような仕組みがベストなのか、しっかりと整えていきたいです。もっとも、ワインボトルを日本全国で統一する動きになればいいんですけれどもね…」(町田さん)
横濱ワイナリーのパンフレットやウェブサイトには「みんなで紡ぐ、ワイナリーです」と書かれています。ワインづくりから飲み終えるまで、文字通り生産から消費までお客様に関わってもらいながら作り上げているのです。それは時として手間もコストもかかることですが、そこからしか生まれない変化も町田さんは感じています。
「WWF時代から感じていたこととして、ワインだけではないかもしれませんが、食べ物の作られ方を知らない人が多いなと思ってきました。食に対する意識が薄く、出来上がったものを食べて飲むだけ。だから、自給率も下がる一方です。しかも、食べ物に限りませんが安いのが当たり前で、コストがかかっているにもかかわらず反映されていないことも多い。そこをもっと知って欲しいなと思ってやっています。ただ、コロナ禍を経て食に対して少しずつ意識が向いてきて、お客様の間でも値段が高い意味を少しずつ理解してくれていると感じています。分かって選んでくれるようになってきました」
気軽に飲める「ハマワイン」で食文化を育む
そんな折に見舞われた新型コロナウイルスの流行。はや2年が経過して飲食業界は依然として厳しい経営を迫られていますが、オンラインショップやサブスクのハマワインクラブを通じた家飲みのお客様からの応援によって売り上げを維持しているそうです。
横濱ワイナリーでは、予約制で横浜産の食材を中心としたメニューを提供しています*。横濱ワイナリーのワインは意外にもおでんや漬物と合わせると美味しいそうで、これからも普段の家庭料理に合うハウスワインを求めるお客様層に向けて美味しいワインを提供していきたい、と町田さんは話します。
*現在は休止中
「ワインは高級イメージがあって、ハードルが高いと思っている人が多いです。そうではなく、普段の食事に合わせて、食文化の一部として、コミュニケーションツールとしてのワインを、特に若い人たちに伝えていきたいですね」
横濱ワイナリーの挑戦の物語は、まだまだ続きます。
【参照サイト】横濱ワイナリー
【参照サイト】農業生産法人CarnaEst
【参照サイト】ヨコハマのでんき
Maki Kimura
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