住むことの価値を問い直し、地域内のつながりを再構築。八景市場が生み出す多世代交流の形
- On 2020年12月17日
住まいの可能性を広げるアパートメントとして金沢区の地域共創を推進する「八景市場」。2020年11月7日〜8日にかけて、横浜市金沢区の八景市場にて地域活性化をテーマにしたイベントが行われました。その名も「ENJOY LOCAL!」。当日は、子どもから大人まで地域の多様な人々が交わる活気あふれる場となりました。
本記事では2日間にわたって開催されたイベントの様子を、イベントを企画した平野健太郎さん、酒谷粋将さん、藤原真名美さんへの取材を交えてお届けします。
八景市場について
八景市場は金沢文庫駅から徒歩10分ほどの住宅街に位置するアパートメントです。アパートメントの全7戸のうちオープンスペースに面する4戸は開放的なメゾネット住戸となっており、地域で働く方々のアトリエやスタジオなどとして利用されています。さらに、棲まうことの価値を広げるキッチン付きシェアラウンジ「こずみのほとり」も併設しており、地域に開かれたイノベーションスペースとしてイベントの開催を行うなど、他世代交流の場となっています。
イベント当日の様子
今回のイベント「ENJOY LOCAL!」は、コロナ禍における新たな地域のコミュニケーションの場として、金沢文庫周辺の飲食店や農家の協力のもと、新型コロナウイルス感染対策を徹底しながら八景市場でしか楽しむことのできない様々な催しが企画されました。
食の分野では地元の和菓子屋や精肉店、パン屋などが出店し、フリーマーケットを通しての金沢区の子育てサークルとのコラボレーションも実現しました。
市場近くの空き家「八景市場ANNEX」で進行中の空き家のリノベーションプロジェクトでは、完成後の空き家を地域の交流スペースとしてどのように活用していきたいかについて、イベントの来場者と完成後の空き家に入居予定の若者たちを交えたアイデアの交換も行われました。
「棲まうことの価値」を問い直す
Circular Yokohamaでは、八景市場でフードコミュニケーターを勤め今回のイベントを主宰した平野健太郎(ひらの・けんたろう)さんと、「八景市場ANNEX」のリノベーションに携わる藤原酒谷設計事務所の酒谷粋将(さかたに・すいしょう)さん、藤原真名美(ふじわら・まなみ)さんにお話を伺いました。
平野さん:この八景市場の位置する地区はもともと小泉(こずみ)地区と呼ばれ、戦後の復興住宅の中心地として栄えてきました。八景市場のある場所も、以前は日用品市場として地域の人々が行き交う場でしたが、高度経済成長期の都市部の発展や地域の少子高齢化の煽りを受けて、地域の人々が交流できる場が少しづつ減ってきました。そこで八景市場の建設にあたっては、住むためだけではなく交流のための場にもなりうるアパートメントを作り、「棲まうことの価値」を問い直す機会を創出しようと考えました。
まさにこれまでの住居の目的を根本から覆し、そして再定義しようと尽力する平野さん。
平野さん:横浜市内では空き家の問題も深刻化しています。今までは、空き家問題の解決策といえば、リノベーションをして集合住宅に立て直すことが主流だったと思いますが、地域の活性化と少子高齢化の問題を長期的視点で見据えてみると、従来のやり方では地域が立ち行かなくなるのではないかと感じています。」
そこで、八景市場では新たな空き家のリノベーションプロジェクトを立ち上げました。それが、「八景市場ANNEX」です。「八景市場ANNEX」は、八景市場から徒歩3分ほどのところにある空き家をリノベーションし、2階部分をシェアハウス型の住居に、1階部分は入居者以外の地域の人々も利用できるオープンスペースに生まれ変わらせるプロジェクトです。また、リノベーションに使用する木材も地産地消にこだわるなど、地域循環を意識して取り組みとなっています。
藤原酒谷設計事務所の酒谷さんと藤原さんは八景市場内に事務所を構え、この「八景市場ANNEX」での取り組みを主導しています。
酒谷さん:この空き家のプロジェクトでは、積極的に居住者以外の地域の人々も巻き込みたいと思っています。リノベーションした空き家の2階部分にはすでに入居を希望する建築学生が集まっていますが、従来のシェアハウスと「八景市場ANNEX」の違うところは、キッチンやリビング等のいわゆる共用部を地域の人々ともシェアし、地域拠点として活用することを想定している点です。住居としてただ住まうだけではなく、人々との交流を楽しみながら同時にまちづくりの経験を重ねられる、暮らしと学びが織り交ざった場所を構築したいと考えています。
藤原さん:例えば地域ごとの町内会に代表されるような、これまでに築き上げられてきた地域内交流の良いところを残しながら、地域に住む一人ひとりが個人としての主体性を発揮できる環境づくりが、これからのまちづくりには求められると考えています。そこで、今回の「ENJOY LOCAL!」のイベントや「八景市場ANNEX」のプロジェクトでは、まるで文化祭のような気分で子どもから大人まで気軽に関わり合い、そして意見を出し合うことで「みんなの地域」を形作っていくことができれば良いという想いです。
他にも、出店した協力者のみなさまからは、声を揃えて、両日の盛況ぶりに驚きを隠せないと話していました。
今回の取り組みを通じて、これからは「ローカル」よりも小さな「ドローカル」の時代になるのではないかと今後の可能性について明るく語っていました。徒歩で気軽に立ち寄れるほどの近所に住む家族と顔見知りになる良い機会になります。今後の関係性も続くと考えると、開催する意義があり、今回のような小さな規模で行われるイベントを大切し、積極的に協力したいと意気込んでいました。
そして平野さんは、この「ENJOY LOCAL!」の取り組みを皮切りに、地域内でのつながりを一層強化していきたいと話します。
平野さん:新型コロナウイルス拡大以前、八景市場では多世代交流型の様々なイベントが企画されていましたが、そのほとんどは中止を余儀なくされました。そして、今回の「ENJOY LOCAL!」は八景市場が拠点となって地域の人々が直接交流できる久しぶりの機会です。
特にコロナ禍においては、高齢者や子育て世代、学生などそれぞれの世代の孤立化が切実な問題と化しています。感染対策や健康管理を徹底することはもちろん、その上で人々の引きこもり傾向に終止符を打つきっかけが必要だと考えています。そこでぜひ、この「ENJOY LOCAL!」のイベントを起爆剤として、地域での多世代交流を一層活発化させていきたいです。
取材後記
2日間にわたって行われたイベント「ENJOY LOCAL!」。1日目・2日目ともに、イベント開始直後には早速大勢の親子が集まって、イベントスペースは大賑わい。この様子には、イベントを主催した平野さんも驚きの表情。
もちろん、イベントには小さな子どもたちだけではなく学生やお年寄りも足を運んでおり、世代を超えたコミュニケーションが生まれる場面も多く見受けられました。新型コロナウイルスの感染拡大以後久しぶりの対面イベントとのことでしたが、大成功のうちに幕を閉じたのではないでしょうか。
そして八景市場では今後も、子どもからお年寄りまで世代や性別に関わらず地域を一緒に盛り上げたい方々の参加を募っています。皆さんもぜひ、八景市場でのイベントの企画や参画を通じて地域づくりに貢献してみてはいかがでしょうか。
【関連サイト】八景市場 公式ホームページ
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今回取材した八景市場へ2021年1月16日(土)にフィールドワークを開催します(オンライン参加募集中)