横浜市長と神奈川県知事が語る「循環経済と横浜の未来」【第28回横浜経済人会議 イベントレポート】
- On 2022年11月16日
2022年8月19日、横浜市庁舎アトリウムにて開催された「第28回横浜経済人会議」。主催をつとめる一般社団法人横浜青年会議所(以下、JCI横浜)は、1983年より始まった本会議において、横浜の将来を想い、過去にMM21 地区の開発やF1 グランプリの横浜誘致、首都圏第三空港の誘致、赤レンガ倉庫の活用等、さまざまな提言を行政へ行っています。
第28回はメインテーマを「循環経済と横浜の未来」とし、横浜ならではの経済発展や官民連携の可能性を探り、また新たな総合産業の創出を通して、横浜の循環経済を活性化するアイデアを生み出す基調講演およびパネルディスカッションを行いました。本記事では、JCI横浜の崔成基(チェ ソンギ)理事長による横浜市におけるサーキュラーエコノミーの実現についての政策提言と、山中竹春横浜市長、黒岩祐治神奈川県知事が登壇したパネルディスカッション「循環経済で切り拓く未来~知事・市長と語る~」の様子をレポートします。
政策提言及びパネルディスカッション「循環経済で切り拓く未来~知事・市長と語る~」
▽ファシリテーター:
崔成基氏(JCI横浜 第71代理事長)
▽パネリスト:
黒岩祐治氏(神奈川県知事)
山中竹春氏(横浜市長)
横浜市で循環経済を推進するための三つの政策提言
2022年度は「循環経済の推進」を政策の最優先に掲げ、活動してきたというJCI横浜。第71代理事長の崔成基氏より、横浜市に三つの政策提言が行われました。
崔成基氏(以下、崔理事長)「私たち横浜青年会議所は本年度、循環経済の推進を一丁目一番地の政策として推進してきました。何をしてきたかと言いますと、実際にモデル事業を創出してきました。建築の廃材を用いた家具の製造販売や、廃材を用いた芸術作品、すなわちサーキュラーエコノミーとアートを掛け合わせたサーキュラーアートを創出してまいりました。
なぜ私たちが循環経済を推進するのか。その理由は二つあります。一つは、横浜の人口減少による税収の減少です。もう一つは、世界の潮流はSDGsから循環経済にシフトしていくと考えたためです。
循環経済を推進している都市であれば、世界から人が集まってきます。日本においては、SDGsと循環経済のトレンドを調べるとSDGsが明らかに上位です。しかし、地域をイギリスやフランス等のヨーロッパ諸国やアメリカにしてみると、平均値では循環経済のほうが注目度が高いことがわかっています。そのため、私たちは循環経済に先にシフトしていく必要があります。
一つ目の提言は、横浜市による循環経済先進都市宣言の実施です。横浜が循環経済の潮流に乗るのは早ければ1年後、遅ければ3年後になります。そのときに(横浜が)世界で一番循環経済を推進する都市になっていれば、世界、アジア、国内から横浜に人が集まります。私たちは自社のサービスをさらに宣伝するだけではなく、外から横浜に来る方々に視察ツアーを組み、ツアーによる収益を得て、さらに視察に来た企業に対するコンサルティングを行っていくことができます。まさに技術、そしてビジネスモデルの仕組みの輸出になります。
私たちは横浜を市場として経済を発展させるだけではなく、海外の発展にも寄与しながら自社のサービスを洗練させていく再投資をしていくことができるようになります。そのため、私たちは循環経済の先進都市として、横浜市に宣言をしていただきたいと考えています」
崔理事長「二つ目は、総合産業の創出です。総合産業とは何か、二点定義をさせていただきますと、一つは人類の叡智をすべて結集してできる産業であること。もう一つはその協力会社が、200社、500社、1,000社とあることです。
愛知県の発展がTOYOTA(トヨタ自動車)によってもたらされたことは、皆様ご存知かもしれません。当時の時代背景を見てみると、TOYOTAが自動車を開発した時代、彼らは人類の叡智を使って、やっとのことで車を開発しました。今、私たちが人類の叡智を結集してできる産業とは何か。それが宇宙ではないかと考え、本日第二部(のパネルディスカッション)でも、宇宙産業の可能性についてお話をさせていただきました。
総合産業を創出することは、協力会社が増えていくことにつながります。横浜の税収構造を見てみると、4割が市民税となっています。大阪の2割以下と比較すると非常に高いことが伺えます。法人税の割合を増やすことで、その税収構造を変化することができます。すなわち、人口が減少しても税収は減らない、もしくは増やすことが可能です。宇宙産業にこだわることはないのですが、総合産業を横浜市で創出する必要があると考えています」
崔理事長「スケールの大きい話になりますが、TOYOTAとテスラを比較すると、財務状況には大きな乖離があります。テスラは2年ほど前、TOYOTAの時価総額に並び、今は時価総額を超えています。TOYOTAは非常に優秀な財務状況であるのに比べ、テスラは2年前に赤字を脱出したばかりの企業でした。それにも関わらず、なぜそんなに会社にお金が集まるのでしょうか。
テスラが目指している未来に、人が共感しているからです。お金が先に集まる、それはテスラの未来を金融が強烈に後押ししているからです。おそらくテスラも非常に苦しい時代があったと思います。そして横浜で循環経済を推進しようとすると、その企業たちは非常に苦しい状況に陥る可能性があります。
そのため三つ目の提言として、循環経済を推進する企業を金融が後押しするために、官民連携ファンドを組成する必要があると考えています。横浜で循環経済を推進する過程では、多くの企業が賛同し、共感し、推進してくれると思います。ただ、その企業を後押しする制度がなければ、企業は未来を作る前に描くだけで倒れていってしまいます。その企業を横浜市民、私たち全員で支えるファンドの組成が必要であると考えています」
リニアからサーキュラーへ、時代の転換期に横浜市がすべきこととは
山中竹春氏(以下、山中市長)「三つの提言について、いずれも重要な提言かと存じます。
まず一つ目の循環経済先進都市宣言について、温暖化をはじめ、生活環境を脅かすリスクがどんどん増えてきていますので、我々としても次世代に引き継いでいくためのアクションが喫緊の課題です。これまで、自然から資源やエネルギーを取り出して(商品やサービスを)作り、消費して廃棄する、いわゆるリニアエコノミーをやってきましたが、そこから脱却して循環しなければいけないと言われて久しいです。
3R(Reduce、Reuse、Recycle)が長らく資源循環の代表格のように言われてきましたが、SDGsの普及により、もっと広い視野から見た資源循環を考えるため、サーキュラーエコノミーの概念が急速に普及していると思います。
3Rが『発生した廃棄物をどう使うか』という観点なのに対して、サーキュラーエコノミーの場合は『物やサービスを作る段階から廃棄物を出さないように製品設計し、高い価値のまま循環させる。そして自然を再生させる』という視点を持っています。これには公民連携によるイノベーションが欠かせません。また、(サーキュラーエコノミーの実現には)市民のライフスタイルの変革も欠かせませんので、さまざまなステークホルダーと連携していかなければいけないと考えています」
山中市長「二つ目の提言としていただいたのは、新たな総合産業の創出による税収確保です。今、会場にいる皆様もまさに時代の転換期を迎えていると感じていると思うのですが、未来の横浜の経済を担う新たな総合産業を創出していく必要があるという意見に関して、全く同意です。
我々行政としては、それに向けた民間の方々の新たな挑戦を支えるスキームを作ることを目指しています。横浜市は『横浜未来機構』を作り、既に100を超える企業や大学、NPO等に入っていただいています。まさに産官学民の連携基盤が出来てきて、その中には横浜発の宇宙食づくりや、メタバースによる取り組みなど、ユニークな挑戦も含まれています。既成概念に捉われず、人、企業、投資等を取り込んで横浜経済を活性化していく取り組みが求められていると思います」
山中市長「三つ目は、官民ファンドの創設についてご提言をいただきました。横浜市では複数の金融機関と組んで一緒にSDGs金融タスクフォースをローンチし、SDGsを原動力とする地方創生を通じたよい循環の形成に向けて、事業者の皆様を支えていく会議体を立ち上げたところです。
今回いただいた官民ファンドの創設のご意見も踏まえて、皆様を支え、循環経済を推進していく上でどういったことができるのか、しっかりと議論してまいりたいと思います。
また、最近ではインデックスファンドやテーマ型の投資ファンドなど、色々なファンドが出来てきています。横浜をはじめ、我が国では、経営理念やビジネスモデルに循環経済を既に盛り込み、アクションにつなげている優れた取り組みもたくさんあると承知しています。しかしながら、そういった活動がグローバルに評価されないとESG投資を呼び込めません。事業者が自ら循環経済の取り組みを投資家に対して適切に情報発信する、そして中長期的な投資を獲得するといった視点は必要と思います。また、行政としてもそういった取り組みを支援していくための仕掛けづくりをしていきたいと考えています」
脱炭素化の取り組みにおける、神奈川県と横浜市の現状
崔理事長「循環経済を推進するにあたり、一番のテーマは『脱炭素』になってくると思います。脱炭素に関しては、アメリカでは約200兆、ヨーロッパでは約100兆の予算を組んで、今後10年やっていくと何千兆ものお金がかかることがわかっています。その時点で既に行政、国だけでは達成できないことがわかっているのですが、脱炭素に向けての取り組みや連携において、神奈川県は世界や日本においてどういう位置にあるのか、黒岩県知事にお答えいただけますでしょうか」
黒岩祐治氏(以下、黒岩知事)「11年前、私が立候補したときは東日本大震災の直後で、計画停電をしていました。このままでいくとどうなるのか。今一番大事なのはエネルギーだろうと。原子力に依存し過ぎたエネルギー体系は無理だろうと思い、太陽光発電のパネルを持って選挙戦を戦ったことをよく覚えています」
黒岩知事「太陽光発電だけではなく、再生可能エネルギーは風力発電など、色々なものがありますよね。自然のものを使ってエネルギーに変えていくのが大事、というところから、集中型電源から分散型電源を目指す『かながわスマートエネルギー計画』を作りました。(集中型電源は)原子力発電所や火力発電所など大きな発電所で電気をいっぱい作って、長い送電線で一軒一軒に送っていくというものです。『ロスは出るけれども、もっといっぱい作ればいいじゃないか』というのがこれまでのエネルギー体系でした。そうではなくて分散型、エネルギーの地産地消を目指していくべきだろうと。
エネルギー問題の定義も、だんだん言葉が変わってきました。前は『地球温暖化対策』と言われていました。地球温暖化対策というと、環境問題と思いますよね。県の役所の中でも、環境の問題を扱っている部署が担当します。しかし、同じ流れなのに、エネルギーの話になるとエネルギー担当になります。環境問題とエネルギーの問題を分けること自体がおかしいとずっと言ってきたら、『SDGs』が出てきました。持続可能な地球を作っていくという流れの中で、今度は『脱炭素』という言葉が出てきました。全部、つながっている言葉だと思います。今までやってきたことはさまざまな形でリンクしながら先の時代を作っていくというのは、とても大事なことです。
神奈川県では2050年脱炭素社会の実現に向けて、温室効果ガスの中期削減目標を2030年度までに2013年度比で46%削減を目指すという高い目標を掲げています。その中で今日、循環経済についての提言をされたということは、非常に時宜にかなっていると思う次第です」
大都市ならではの脱炭素化モデルをみなとみらいから作っていく
崔理事長「私も年初に目指していたのは、再生可能エネルギーを横浜や神奈川に普及することでした。今私たちは、横浜や神奈川の外部からエネルギーを買っている状態です。自らが作って、それを使っていく。そうすれば、外に出ていた資本が中にプールされる状態になるはずです。ただ、壮大な計画なので1年では達成するのが難しかったのですが、ぜひ次年度に引き継いで、横浜市さん、神奈川県さんと一緒に進めていければと思います。
脱炭素について、先日6月2日に開催された横浜開港祭でも、花火で出る二酸化炭素はJ-クレジット(※1)を使ってオフセットをしました。初めての取り組みだったのですが、目指すところはゼロカーボンの横浜開港祭です。この横浜市庁舎も再生可能エネルギーで稼働しているとお聞きしますが、脱炭素における横浜市さんの取り組みについて、山中市長、お答えいただけますでしょうか」
※1 省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を売買可能な「クレジット」として国が認証する制度
山中市長「2030年までに温室効果ガス50%削減、2050年までの100%削減を目標に掲げています。やはりステークホルダーとのさまざまな連携が欠かせないと思っています。横浜市内の企業の99%は中小企業ですので、家庭部門でのCO2削減も重要ですが、中小企業のCO2削減が非常に重要だと思います。
昨年度、1万の事業者さんにアンケートを取りました。その中で6割の事業者さんから『温室効果ガス削減の必要性はわかっている、ただしやり方がわからない』という意見がありました。そういった経緯を踏まえ、市内中小企業向けの脱炭素化ガイドラインを策定し、これから支援を深めていこうと考えています。
この4月に、環境省からみなとみらいを脱炭素化先行地域に指定していただきました。みなとみらいでは、12万人以上が働いています。すごいですよね。コロナ禍で来訪者は減っていますが、それでも年間6千万人以上が訪れている大都市です。我々は地域をまるごと脱炭素化するというスキームで、脱炭素化先行地域の申請を国に評価していただきました。エリア外からの再エネ電力の供給はもちろんですし、地域一体となったエネルギー管理による電力需給の調整、ペットボトルや食品廃棄物の資源循環のさらなる推進等を含めて、大都市ならではの脱炭素化モデルをみなとみらいから作っていきたいと思います。
脱炭素を今後進めていく上で重要だと思っているのが、市民の皆様への『脱炭素の見える化』です。ごみの削減だと、ごみ(の量)がどれだけ減ったかというのがわかりやすい、見えやすいですよね。それに比べると、脱炭素の見える化を工夫していかないと市民の行動変容や意識に結びつきづらいので、力を入れてやっていきたいと考えています」
ゼロカーボンを目指すにはサーキュラーエコノミーへの移行が必要不可欠
崔理事長「今年度、横浜市において循環経済に関わる予算計上がされたと伺っています。その点、どんな事業に使われるのか伺えますでしょうか」
山中市長「今年度初めて、時代を見据えてサーキュラーエコノミーを盛り込みました。温室効果ガスゼロに向けて、日本全体が動き出していますが、再エネの利用、そしてエネルギー利用の効率化だけでは、温室効果ガス排出ゼロ、ゼロカーボンは目指せないと皆思っているのではないでしょうか。製品製造や利用の循環化をはかっていかなければいけないですよね。
海外では、実は再エネの利用やエネルギー利用の効率化でゼロカーボンに寄与できるのは6割位で、4割はサーキュラーエコノミーの推進がないと無理だというデータもあります。この横浜で、どれぐらいサーキュラーエコノミーがゼロカーボンの達成に寄与するのか、必要なのかというのはまだ推計がないのでわかりませんが、感覚的にも数十パーセントはサーキュラーエコノミーへの移行が必要不可欠だろうと思っています。
既にJCIさんでもサーキュラーエコノミー推進の実証実験に取り掛かっているとお伺いしていますので、そうした経験を参考にさせていただきながら事業を進めていきたいと思います。我々の事業は、サーキュラーエコノミーの構築にかかる公民連携事業です。これは市民のライフスタイルの変革に向けた取り組みが必要ですので、ぜひ事業者や団体の皆様のアイデアをいただきながら、市民の皆様がサーキュラーエコノミーに資する行動を起こしたくなるような取り組みをしていきたいと思います」
超高齢社会を乗り越えるためには「連携」が鍵を握る
崔理事長「脱炭素だけでも莫大な予算が必要になってくる、そして行政、国という単位だけではその課題を解決することは難しいと思っています。先ほど第一部のディスカッションでも、企業連携を進めているとのお話を伺っています。社会課題への取り組みと、それに伴った企業連携という点について、神奈川県の取り組みを教えていただけますでしょうか」
黒岩知事「社会的なさまざまな課題がありますよね。その課題を解決するプロセスを通じて、経済のエンジンを回していきたい。これが私の基本的な考え方です。たとえば、地球温暖化は大きな課題です。その課題を解決するために色々な企業が知恵や技術で新しい地平を作っていく。そういう努力を積み重ねて、それを集約することによって突破していくことです。
最大の課題は何かというと、圧倒的な勢いで進む超高齢社会です。全国47都道府県でいうと、神奈川県の平均年齢はまだ若いほうです。ところが、高齢化の進み方が早いのです。そうすると、持続可能ではなくなります。高齢になったら病気になりやすくなり、皆病院に行く、介護が必要になる、皆介護の現場に行く。あっという間に資源が枯渇してしまいます。
『未病』という言葉が出てきたのはそのためです。『健康か、病気か』の二項で考えるのではなく、健康から病気はグラデーションのように連続的に変化する、それが未病です。病気になってから治すのではなく、未病の状態のところで健康のほうに持ってこようとする努力が必要で、そのためには食、運動、社会参加が大事だという『未病コンセプト』を立ち上げて、世界に向けてもアピールしてきました。このアプローチと、再生細胞医療、医療のビッグデータ、ICT、ロボット技術といった最先端のテクノロジーを融合させることによって、健康寿命を伸ばしていこうという『ヘルスケア・ニューフロンティア』を掲げています。そこに必ず企業が参加してくるだろうと思いました。
未病産業研究会を立ち上げ、今1,000社近くそこに参加しています。つまり、超高齢社会をなんとか乗り越えなければいけないという共通の想いがあるわけです。その中で自分たちのテクノロジーや技術、知恵、そういったものをどこでどんなふうに寄り添えるか、皆が出てきて、ヘルスケア産業はすごく大きな力になっていると思います。コロナ禍において、我々はコロナ禍を乗り越えるための『神奈川モデル(※2)』を作りました。神奈川から出て、国が採用したものが40以上あるのです。それは今まで、蓄積をしてきたからです。連携しながら、そのパワーをもって社会的課題を乗り越えていく。そういう流れを作っていきたいと思っています」
※2 新型コロナウイルス感染症対策において神奈川県が構築した、医療崩壊を防ぐための新たな医療提供体制
崔理事長「SDGsの推進にも、SDGsパートナー制度を構築され、企業連携に対して取り組まれているのがすごいなと思っています。横浜市では、2027年に国際園芸博覧会が開催されると伺っています。ここの場ではSDGsや循環経済が実現された世界が垣間見えるのではと思っているのですけれども、園芸博覧会におけるサステナブルな社会への関わりについても、市長にお伺いしたいと思います」
山中市長「今、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの時代の転換期にいると思います。2027年に開催する予定の花博では、自然と環境とが共生するサステナブルなライフスタイルを世界に向けて発信する、そして市民と共有する機会にしたいと思っています。
SDGsを実現する社会、そして自然環境を尊重する社会、これを共有することによってサーキュラーエコノミーの推進にもつながっていくと思います。リニアからサーキュラーへの転換期にある現在において、花博という契機を活かして、新しい産業の創出も視野に入れつつ、市民の皆様と一緒に盛り上げていきたいと思います」
想いをつなぎ、パートナーシップで社会課題を解決する
後半は、SDGsが提唱されてからの変化やパートナーシップ、社会課題に取り組む企業向けの金融支援について話が及びました。
黒岩知事「SDGsの17の目標を見たときに、私がずっと言ってきた『いのち輝く』ためにはどうしたらいいかと考えたんです。医療が充実することは大事だけれど、医療がいくら充実しても輝かないんですね。たとえば農業でいうと、安全で量も作れなければ駄目だし、産業や街づくり、教育もそうです。ありとあらゆるものが連携しないと、いのちは輝かないですね、と言ってきました。
SDGsを見ると、同じようなことが書いてあります。今まで言ってきた『いのち輝く』をSDGsの17の目標に置き換えて、政策の棚卸しをし、政策展開をしました。これにより、第一期のSDGsの最先端自治体として、神奈川県、横浜市、鎌倉市が全国10の中の3つに入りました。ただ、そのときに直面した課題が『SDGsはなんとなくわかるのだけれど、わからない』ということです。SDGsを広めていくためのシンポジウムに参加したとき、最後会場からの質問で『ところで、SDGsって何なのですか?』と聞いた方がいたのです。それくらい、わかるようでわからないんですね。なぜかというと、自分ごと化がしにくいのです。地球を宇宙から見て、これとこれがつながっているというのはわかる。でも、私は何をしたらいいの?というところが難しいですよね。
そんなとき、鎌倉の海岸に大きな鯨の赤ちゃんが打ち上げられました。お腹を開けてみたら、プラスチックのごみが出てきたのです。たとえばペットボトルを不用意に海に流してしまうと、それが鯨の赤ちゃんの命にも関わる。これがSDGsだ、皆に知ってもらおうと思って即座に『かながわプラごみゼロ宣言』を出しました。かなり認知度が上がりましたね。特に子どもたちはよくわかっています」
黒岩知事が県民との対話の場でSDGsについて話した際、高校生が多く参加しており、SDGsの認知は若い世代から広がってきていると感じたといいます。
黒岩知事「今までは周知することに全力を注いできましたが、今はSDGsを道具にして社会課題を解決するというステージに入ってきています。今、生活の貧困、子どもの貧困の問題は深刻な状態です。昔は『子ども食堂』という言葉もなかったです。(中略)こういったものをどうやってサポートしていくのか考えたときに、SDGsを道具にして使うのです。
SDGsの目標の中に『パートナーシップ』があります。私たちには、SDGsのパートナーがたくさんいます。SDGsをキーワードにして、パートナーが子ども食堂を支える流れを作る。たとえば食品メーカーだったら食材を提供するなど、さまざまな形の支援をつなげる。県が税金を使って解決するモデルだけではなく、SDGsによって想いを持った人をつないで社会課題を解決していく流れもできてきているのです。これに金融界も反応してくださって、SDGsという道具を使って必要なところにお金が流れていく仕組みを作っていく、そういうステージに来ていると思います」
時代の転換期をビジネスチャンスと捉え、総合産業を創出していく
崔理事長「提言に組み込ませていただいた総合産業の創出について、山中市長のお考えをいただけますでしょうか」
山中市長「先ほど宇宙産業がひとつの例と仰られていたのですが、やはり面白いなと思っています。市内にもロケット製品を作る優れた企業や、宇宙で生活した場合の口腔ケア製品を作る企業等があります。成長分野でユニークなビジネス、あるいは新しいビジネスに挑戦していく企業を行政としても支えていかなければいけないと思っています。
横浜経済のさらなる発展のために、市内経済を牽引する新たな産業が必要だと思います。横浜市としては、IoTビジネスをサポートするI・Top横浜や、ライフイノベーションをサポートするLIP.横浜といったプラットフォームを既に立ち上げています。これらの2つのプラットフォームが連携して、デジタルヘルスに関する新たな中小企業支援も行なっています。
今後、どんどん成功事例が出てくると思います。スタートアップの支援も重要ですよね。スタートアップ支援の拠点としてYOXO BOXを作りました。投資家とのマッチングなど、創業から上場まで行政として寄り添っていきたいと思っています。
脱炭素やサーキュラーエコノミー、まさに時代の転換期にいますが、転換期についていくのは容易ではないですし、ピンチをチャンスに変えて新たなビジネスを生み出せる環境を行政としても作っていきたいと思います」
崔理事長「協力会社が500社、1,000社集まりながら、その会社すべてが循環経済に叶う、デザインされている、そんな横浜ができたら必ず海外や国内から人が集まると思います。ぜひ一緒に構築を進められたらと思います。黒岩知事は、総合産業についてはいかがでしょうか」
黒岩知事「さっき言ったヘルスケアの分野では、社会的に大きな課題である超高齢社会をどうするのか、いのちを輝かせるためにそれぞれの企業が色々な形で参画してくる、これがおそらく総合産業だと思います。その中で私たちは『未病』というコンセプトを打ち出しました。コンセプトを打ち出すことは大事だと今改めて思っています。これによって産業界がぐっと動きました。
デジタルヘルスでいうと、私たちはWHOと東京大学で研究し『未病指標』を一緒に作りました。(健康から病気の)0から100のグラデーションのうち、自分の未病状態をスマートフォンですぐ数値化できるものです。さらに、今の生活パターンを続けているとその未病指標はどうなるかが見えてきます。見える化はすごく大事ですよね。今の生活習慣を続けているとこんなふうに状態が悪くなっていきますよ、とわかれば、数字を見ながら自分を改善していくことができるのです。コロナ禍で、新しいヘルスケアの世界が広がっていくと思っています。(中略)神奈川モデルでは、パルスオキシメーターを配り、LINEで連絡を取り合って、AIコールで在宅にいながら健康観察をするという仕組みを作りました。これからウィズコロナからポストコロナになっていくときに、自分の健康状態をデータ化してうまく集約し、家にいながら健康管理をしていく。これこそが課題を解決する総合産業だと思います」
山中市長「2050年までのゼロカーボン、さまざまな地域課題の解決に資するような地域循環経済の推進、こういった目標に向けて事業者の皆様、市民の皆様と一緒に歩みを共にしたいと思います。私たち一人ひとりの行動が未来を変えていく大きな力になる。多様な皆様とのパートナーシップによって明るい横浜、未来の横浜を作っていきたいと考えています」
編集後記
実は山中市長と黒岩知事が一緒に登壇する場は、今回が初めてだったとのこと。今年度初めて循環経済が横浜市の予算に組み込まれ、横浜市長、そして神奈川県知事自らの口から「リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの時代の転換期である」「(循環経済に関する提言は)時宜に叶っている」という発言があったことは、環境や社会状況の変化から、持続可能な経済・産業への転換が強く求められていることを表していると考えられます。
今回のパネルディスカッションでは、横浜市や神奈川県の今後の計画や目標、ビジネスやライフスタイルをサポートするプラットフォームも具体例が多く挙げられました。今後はサーキュラーエコノミーの推進や横浜経済の活性化を目的として、産官学民の連携や、パートナーシップも強化されていくことが期待されます。Circular Yokohamaでは今後も、横浜市のサーキュラーエコノミー推進のための動きを追っていきます。
「第28回横浜経済人会議」開催概要
▽開催日時:2022年8月19日(金)15~19時
▽開催場所:横浜市庁舎アトリウムおよび北プラザ
神奈川県横浜市中区本町6-5-10
▽参加料:無料
主催:一般社団法人横浜青年会議所
後援:神奈川県、横浜市、横浜商工会議所、一般社団法人神奈川経済同友会、一般社団法人神奈川県経営者協会、公益社団法人横浜貿易協会、一般社団法人横浜銀行協会
【参照サイト】第28回横浜経済人会議を開催。「ヨコハマの未来(あす)を本気で考える」日に。
【参照サイト】第28回横浜経済人会議 アーカイブ配信
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金田 悠
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