
1506kgの衣料品を循環へ。横浜の脱炭素ライフスタイルの最前線【イベントレポート】
- On 2025年6月9日
2024年11月1日~2025年1月31日、横浜市とあいおいニッセイ同和損害保険株式会社が実施した「循環経済等に資する魅力的な脱炭素ライフスタイル創出・浸透事業」の一環として、衣料品回収ボックス「PASSTO(パスト)」 が横浜市内21カ所に設置されました。
3か月にわたる同取り組みにて集まった衣料品の総量は、1506.8キログラム。
不用品のリユース・リサイクルサービス「PASSTO」を提供する株式会社ECOMMITによると、もしこれらの衣類を単純焼却した場合、1244.7キログラムのCO₂が排出されると試算されています。一方、PASSTOのリユース・リサイクルサービスを通じた資源循環による実際のCO₂排出量は236.3kgと算出されており、単純焼却と比べて約81%の炭素排出削減を達成しました。
この成果を支えたのは、市民の一人ひとりのアクションです。Circular Yokohamaも本プロジェクトに賛同し、旧拠点である保土ケ谷区「qlaytion gallery」にて衣料品回収を実施。qlaytion galleryでは、3か月間で171キログラムの衣料品を回収し、地域の皆さまとともに脱炭素排出量削減に貢献しました。

qlaytion galleryでのPASSTO利用の様子
開催期間中は、地域の皆さまに脱炭素ライフスタイルを楽しんでいただけるよう「洋服交換会 〜手放す、めぐる、よみがえる〜」や、リペアをテーマとしたトークショー「脱炭素ダイアログ Vol.2」を開催しました。本記事ではイベントの様子とご参加の皆さまの声をレポートします。
1日で約50キログラムの洋服を循環!「洋服交換会 〜手放す、めぐる、よみがえる〜」
2024年12月21日、衣料品の回収を促すイベント「洋服交換会 〜手放す、めぐる、よみがえる〜」を開催しました。
年末年始の大掃除の時期というタイミングも相まって、当日は学生からシニアまでおよそ35名の地域住民が洋服を持参し、自由に交換しました。

洋服交換会の様子
まるで宝探しをするように、机の上に並んだたくさんの洋服から自分の好みや体形に合う洋服を選ぶ来場者の皆さん。
参加の前後には、次のような感想が聞こえました。
「いつもは捨ててしまう服が、もしかしたら他の誰かが良い服に出会う機会をもたらすかも、と思って参加しました」
「直接手渡せるのが良いと思いました」
「子ども服をおさがりでいただける機会がなかったので、今日は沢山持ち帰ることができてよかったです」
本イベントを通じて寄付された衣料品は、約50キログラムにのぼります。イベントで交換されなかったアイテムは、PASSTOの回収スキームを通じてリユース・リサイクルしました。

当日寄付されたたくさんの衣服
不要になった衣服を分別し回収に出すことも、脱炭素につながるアクションの一つです。しかし、その一歩手前で服を服のまま使い続けることや、より狭い地域の中で服が循環するための方法を考えることで、さらに低炭素なライフスタイルを実現することができます。
参加者の皆さんは、新しいファッションアイテムとの出会いを楽しみながら、「あそぶように」脱炭素ライフスタイルを取り入れることができると感じた様子でした。
リペアで愛着を育む。「脱炭素ダイアログ Vol.2」

「脱炭素ダイアログ Vol.2」参加者の皆さま
2025年1月21日には、リペアをテーマとしたトークショー「脱炭素ダイアログ Vol.2」を開催しました。(※「脱炭素ダイアログ vol.1」の様子は循環経済等に資する魅力的な脱炭素ライフスタイル創出・浸透事業の公式サイトにてご覧ください)。
脱炭素につながるアクションは、衣料品のリユースやリサイクルだけではありません。そもそも、身近にある「モノ」をより長く、より大切に使うことができれば、より遅い速度で資源を循環させることができます。
本トークショーでは、モノを大切に使い続ける文化を根付かせることをコンセプトに活動する、合同会社CYKLUS(サイクラス)代表・平田健夫さんをゲストに迎え、参加者とともに脱炭素につながる「リペア」のあり方を模索しました。
CYKLUSは横浜市中区を拠点とする企業です。イベントやコミュニティの形成を通じてリペアやリメイクの技術や文化を普及させています。平田さんはトークの初めに、大量生産大量消費が当たり前となった現代の「消費」の速度に疑問を投げかけながら、「CYKLUSでは、地球のリズムでゆっくりと、自然のサイクルで暮らすようなライフスタイルを提唱しています」と社名の由来に言及しました。

平田健夫さん
そして、長年にわたるアパレル業界での経験で身に着けたリペアの知識を活かした活動として、アウトドアブランドが合同で主催する共同リペアイベント「DO REPAIRS」の事例を紹介しました。
ほかにも、福井県や北海道で学生や地元団体とコラボレーションした事例にも触れ、「このようなリペアの取り組みを、CYKLUSの拠点である横浜に広めていきたい」と語りました。

トークショーの様子
また、トークショー後に行われた質疑応答では、参加者から「リペアをやってみたいと思う人はたくさんいると思う。その技術を身につけるには、なにから始めたらよいのか」「修理の技術だけでなく、経済的な面からも現実的なリペアの方法はあるか?」といった質問があがりました。
平田さんは、「アイテムをそのまま使い続けるというアイデアだけではなく、まずは一部だけ直してみたり、別の用途を検討してみたりしてはどうか」と、リペアの方法を多面的に検討することを提案しました。
イベントの後半は少人数のグループに分かれて、参加型ワークショップを実施しました。
参加者の持ち寄った「直りそうだけれど、自分では直せない」アイテムをテーマに、どうして修理したいのか、どうやって修理できるのか、対話を通じてヒントを導き出します。
ここでは、実際に参加者が持ち寄ったアイテムと、それに寄せられたアイデアをご紹介します。
色落ちした「フード付きのスウェット」

対話の様子
昔、子どもとおそろいで購入したというキャラクターのついたスウェット。背中の部分に小さな穴が開いたうえ、洗濯の際に誤って漂白剤を垂らしてしまい目立つところが色落ちしてしまったといいます。洋服としてはまだ十分に着ることができる状態ですが、見た目が気になるということで着ないままタンスに眠っていたそうです。
色落ちした箇所と状態を見た参加者からは、「色落ちした部分が雲のように見えるので、他の部分にもわざと漂白剤を垂らしてみたら柄としてなじむかもしれない」「穴の空いたところに、同じキャラクターのワッペンを付ければオシャレなリメイクができそう」とのアドバイスがありました。アイテムの持ち主は、「さっそくやってみたい!」と自身でのリペアを決意していました。
自立しない「リングライト」
リングライトとは、動画の撮影や自撮りに使われる照明器具。円形の照明部分と三脚をつなぐ部品が壊れてしまい、自立しなくなってしまったといいます。「実は手放そうと考えていたのですが、分別の方法がよくわからないし、30cm近くある三脚は粗大ごみのようにも見えるので、結局捨てられずに長らく放置していました」と話す持ち主。
壊れたライトを見たほかの参加者は、「無理に元通りに修理しなくても、三脚とライトを別々に使ってみてはどうか」「本来取り外せないはずのものが取り外せるようになった。用途が広がったと考えることもできるのでは?」とコメント。他人の視点を通すことで、前向きな発想の転換が生まれました。
使い込まれた「エコバッグ」
「特別思い入れのあるバッグというわけではないんです。ただ、とにかく使い心地が良くてこればかり使っていたら、四隅が汚れて擦り切れたうえ、持ち手が切れてしまいました」と言いながら、愛用のエコバッグを取り出す参加者のひとり。
周りからは、「底の汚れて擦り切れた部分に、あて布をしてみてはどうか」「持ち手の部分も、裁縫をすれば直りそう」など具体的なリペアのアイデアが上がりました。持ち主は、「修理の方法があることは分かったので、あとは実際にやるだけです。こうして人前で話すことが、行動を起こすきっかけになりますね。」と語っていました。
一人ひとりが持ち寄った様々な「宝物」を通じて、リペアが単なる修理行為ではないということを体感することができた本イベント。「モノ」との向き合い方を新たにすることで、自分の持ち物や誰かにとっての宝物がこれまでとは大きく違って見えるはずです。参加者それぞれが自分なりのリペアの定義を考える、クリエイティブで新鮮な時間となりました。
開催後記
「2099.7kg」という数字は、ひとつの都市で市民がつないだ循環の証です。この結果が可視化されたことで、衣類のリユース・リサイクルが脱炭素ライフスタイルに与える影響が、またひとつ明らかになりました。
日ごろから、不要になった衣料品を資源回収に出したりリユース市場に売りに出したり、単純な処分以外の方法で手放しているという人はいるはずです。しかしながら、そのようなアクションによってどのくらいの環境負荷削減になったのか、どのような人が次の使い手になったのかを追跡することは難しいでしょう。
「たかが一着」と思うかもしれませんが、それが集まれば、市内の、そして社会全体の大きな変化につながるということを、地域の皆さまと一緒に体現することができました。
目には見えにくいけれど、確かに未来を変える脱炭素アクション。Circular Yokohamaでは、今後も市民とともに「より良い暮らしのあり方」を探求し、実践してまいります。
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室井梨那(Rina Muroi)

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