横浜の循環はどこへ向かうのか。「サーキュラーシティ・ヨコハマ」の今【横浜市とサーキュラーエコノミーのあゆみ Vol.2】
- On 2026年2月27日
※本記事は、横浜市国際局が運営する「Green Hub in Asia」に2026年1月に掲載された記事の翻訳・一部編集版です。横浜市職員への取材をもとに、Circular Yokohamaを運営するハーチ株式会社が制作しています。
横浜ではいま、「循環型都市」実現への取り組みが次の段階へと進み始めています。
その原動力となっているのは、最新技術や大きな目標だけではありません。行政、市民、そして事業者による対話を通じて育まれてきた信頼こそが、まちを動かす力となっています。
本シリーズ前編では、循環の出発点となった歴史的・文化的背景と、「G30プラン」を出発点とする資源循環の取り組みをご紹介しました。
G30の経験は、どのように分野を越えた連携や創造的な取り組みへと広がっているのでしょうか。本稿では、各事業を担う横浜市職員の皆さまへのインタビューも交えながら、「サーキュラーシティ」を目指す横浜市の最前線をご紹介します。
都市の記憶を未来の価値へ。歴史的建造物の文化的活用
都市のサーキュラーエコノミーを捉える際、循環の対象となるのは物質的な資源だけではありません。「記憶」や「時間」も、未来へ引き継ぐことができるのではないでしょうか。
横浜市では「歴史を生かしたまちづくり」の考え方のもと、たとえば「ベーリックホール」や「旧大岡家長屋門」といった歴史的価値のある建築物を公園の一部として、外観を概ね保存しながら活用しています。また、かつての港町の風景を今に伝える「赤レンガ倉庫」や「汽車道(橋梁を含む鉄道跡地)」はその歴史性に敬意を払いつつ再整備を行うことでって、文化を伝える商業施設やプロムナードとして活用し、年間1,000万人以上が訪れる観光地となっています。(出典:YMM21)

ベーリックホール (C) Yokohama City Visitors Bureau

赤レンガ倉庫 (C) Yokohama City Visitors Bureau
こうした「歴史を生かしたまちづくり」に加えて、その思想を施策に落とし込んだのが「文化芸術創造都市・横浜」です。これは、歴史的建造物や遊休不動産といった都市に眠る資産を文化芸術の力で活用し、新たな魅力とにぎわいを創出する横浜市の施策です。
この施策には、次のような背景がありました。
市内でも港として発展してきたウォーターフロントエリアは、1981年に開発の中心地として「みなとみらい21地区(以下「MM21地区」)」と名づけられ、高速道路の整備や、特徴的な商業施設の建設でにぎわいを見せるようになりました。
一方、MM21地区に隣接し、開港以来横浜の中心地として栄えてきた関内地区では、歴史を伝えるべく数多く存在した西洋建築や近代建築が少しずつ姿を消し、オフィスビルの空室も目立つなど、経済・文化の両面において活力を失いつつありました。
こうした背景から、横浜市では「The Creative City」という1990年代以降提唱されてきた都市ビジョンに着目し、歴史的建造物や遊休空間を活かした多様な取り組みが進められています。
これまで、特にアートの分野で盛んに利活用が行われてきた各拠点ですが、2025年に入ってからは、サーキュラーエコノミーの視点を加えた新たな循環の拠点が生まれています。その最新かつ象徴的な事例が、「旧第一銀行横浜支店」です。

BankPark YOKOHAMA(旧第一銀行横浜支店)(Photo by Akira Nakamura)
2025年秋には、民間事業者との連携により建物を「BankPark YOKOHAMA」と名付けて新たな施設としてグランドオープンしました。館内はサーキュラーエコノミーの共創拠点としても活用されており、専門家を招いたトークセッションや、廃材を活用したワークショップなど、循環をテーマとしたイベントが開催されています。歴史的建造物が、公民連携によって、未来の循環型社会を創造する拠点へと生まれ変わったのです。


2025年9月に開催の「竹中工務店 サーキュラー支店」展の様子
そして、この動きは、これまで開発の中心地だったMM21地区を含む都心臨海部から、宅地の広がる内陸部にも広がっています。2026年には、市内初となる郊外エリアの創造界隈拠点「Creative Circular Culture Center」が、市域中央部の保土ケ谷区にオープン予定です。この施設は、地域で不要となった資源を展示・提供する「マテリアルライブラリー」や、循環と芸術をテーマにした市民参加型のアートプロジェクトなどを展開し、地域に根差した循環を生み出す拠点としての役割が見込まれています。

Creative Circular Culture Centerで開催した「星天めぐる芸術祭 2025」の様子<
本事業を担当するにぎわいスポーツ文化局の園田さんは、この取り組みの背景をこう捉えています。
園田さん「クリエイティブシティの取り組みの原点は、失われつつある歴史的建造物や開発の狭間に眠る遊休空間に、文化芸術の力で新たな価値を吹き込み、まちに活力をもたらすことでした。振り返れば、これは資源を再活用するという意味で、サーキュラーエコノミーの思想にも通じているのかもしれません。
今後は、都心臨海部で展開してきた取り組みを、星川のような郊外の地域にも広げ、まだ活かしきれていない空間に民間事業者の皆様の創造的なアイデアを結びつけることで、地域の可能性を拓く拠点へと生まれ変わらせたいと考えています。そのプロセスを通じて、新しい循環を生み出し、地域コミュニティのつながりを育み、まち全体に活力をもたらしていきたいと考えています。」

にぎわいスポーツ文化局 創造都市推進課 園田大介さん
学校の床材が思い出を未来へつなぐ 「REYOプロジェクト」
そんな「記憶や時間を資源と捉える」哲学は、より市民の暮らしに近い場所でも実践されています。その一つが、建築局が推進する「REYO(リヨー) 横浜市再利用材プロジェクト」です。
これは、横浜市にある公共建築物の古材を新たな価値へとアップサイクルする取り組みです。コンセプトは、「おもいでの材を、これからも。」。市内外の民間事業者と連携しながら、公共建築物から生じる廃材の循環を促し、サーキュラーエコノミーの推進へとつなげています。
現在は、特に市内の公立学校の建て替えなどで発生する体育館の床材のアップサイクルに力を入れています。市による学校工事での再利用や、連携する市内の民間事業者の手によって商業施設の什器や子どもたちの遊び道具へと変身し、市内の様々な場所で市民の愛着や物語を未来へつなぐ循環アイテムとして活躍しています。

ディスプレイテーブル

鉢スタンド

メダル
建築局の城向さんは、この取り組みに込めた想いを次のように説明します。
城向さん「学校体育館の床材は、誰もが知る「共通言語」です。子どもの頃に駆け回った記憶や、ボールの弾む音――そんな思い出がこの素材に刻まれています。「懐かしい」「落ち着く」という声をいただくたび、その素材の力を実感します。REYOは、こうした目に見えない価値を可視化し、未来へつなぐ試みです。この挑戦を支えてくれているのは、民間事業者の創意と技術。その力があったからこそ、JAPAN WOOD DESIGN AWARD 2025にて奨励賞を受賞できたと感じています。今後は、体育館の床材にとどまらず、他の公共建築物の素材にも挑戦し、循環の輪をさらに広げていきたいと思っています。」

建築局 学校整備課 城向咲さん
都市型循環の実験場 みなとみらいの官民共創モデル
「循環」の哲学を、現代都市の複雑な経済システムの中でどう具現化するか。横浜のみなとみらい21地区は、この問いに対して、多様な主体が試行錯誤を重ねてきた場でもあります。
MM21地区には、2024年時点で約2,010社の企業が事業所や研究開発拠点を構えています。また、国際展示場などのMICE施設、多様な商業施設も集積しており、年間8,260万人が来街します。多様な企業活動が集積するこのエリアでは、官民連携によって環境性と経済合理性を両立する循環システムの可能性が広がっています。

みなとみらい21地区
MM21地区は、2022年4月に環境省から「脱炭素先行地域」に選定され、脱炭素化に関する様々な取り組みを進めてきました。このエリアでは、官民が連携し、環境性と経済合理性を両立させる循環システムがいくつも稼働しています。
例えば、家庭の廃食油を回収しSustainable Aviation Fule(以下、SAF)として利活用する「FRY to FLY PROJECT」。廃食油由来の航空燃料は、従来の燃料に比べてライフサイクルのCO2排出量を約80%削減することができると言われています。(出典:日揮ホールディングス株式会社「Fry to Fly Project」公式サイト)日本では、横浜・みなとみらいに本社を構える日揮ホールディングス株式会社がプロジェクトを立ち上げ、同活動の趣旨に賛同する企業、自治体、団体はだれでも参画できる仕組みを整えています。
横浜市は2023年4月に同取り組みに参画。2024年6月からは日本航空株式会社と連携し、市内スーパーマーケットを拠点に各家庭から廃食油の回収が進んでいます。2025年10月末時点で回収拠点は23店舗、累計計約7900リットルの廃食油が集まりました。

廃食油回収の専用ボトル

廃食油の回収ボックス
日々、市内事業者や回収拠点の方々との連携強化に取り組む佐々木さんと山形さんは、こう述べています。
「市民の皆さんが廃食油の回収に参加しやすい環境を整えるためには、回収拠点を増やす必要があります。そこで我々は、自ら市内スーパーマーケットの担当部署を訪問し、取組への参画を呼び掛けています。また、回収量を増やすために、地域のスポーツチームや、学校・地域と連携を深め、普及啓発を進めています。新しく回収を始める店舗では、日本航空株式会社のスタッフとともに、専用回収ボトルのプレゼントを行いながらプロモーションを行っています。来店者と対話した際には、SAFの認知度が向上してきていることや、市民の皆さんにとって『資源循環』に身近に取り組めるきっかけになっていることを実感します。」

脱炭素・GREEN×EXPO推進局 循環型社会推進課 佐々木結花さんと、山形和輝さん
都市循環を進化させる「共通言語」としてのデータ
近年では、地区全体の循環をさらに高める取り組みとして、日本初の「地区単位でのマテリアルフローの可視化」が始まっています。どのような資源がどれだけMM21地区に流入し、消費され、流出しているのかをデータで描き出すため、地区内の商業施設やオフィスビルと連携し、廃棄物データの収集と分析を進めています。
この可視化とデータの精度向上が進めば、これまで個別に最適化されていた資源管理を、地区全体で俯瞰しながら改善できるようになります。そして、共通データに基づく議論が進むことで、都市レベルでの循環システムの改善にも取り組みやすくなるはずです。

2024年には13の施設との連携が実現し、さらなるデータの精度向上に向け、引き続き地区内の事業者との連携を強化しています。
脱炭素・GREEN×EXPO推進局の村尾さんに、MM21地区における循環の取り組みの背景を伺いました。
村尾「横浜を象徴するウォーターフロントであるMM21地区には、横浜の顔となるホテルや商業施設、グローバル企業の本社や研究開発施設など環境意識の高い企業が集積しており、横浜市やエリアマネジメント団体と連携して、都市における資源循環の推進に取り組んできました。
これまで、都市は物の「消費地」でした。しかし、これからの循環型社会においては新たなループの出発点として、都市は資源の「生産地」に転換していくことが求められています。
サステナブルな調達、資源化につながる分別、効率的な資源の収集、再びループに戻すための再利用・アップサイクルの検討──マテリアルフロー図の策定はこれら資源循環率の向上に取り組むための第一歩です。行政やエリアマネジメント団体が、データという「共通言語」を使って、都市活動に関わる企業や市民などさまざまなプレイヤーの対話を促すことで、「みらい」の都市の在り方を考えていきます。」

脱炭素・GREEN×EXPO推進局 循環型社会推進課 村尾雄太さん
さらに、同局では脱炭素・循環の実践を後押しする「Style100」の取り組みにも力を入れています。これは、市内企業や団体が、日々の業務の中で行う“脱炭素に向けた100のスタイル”を集めて紹介していくもので、今後多様な主体が循環型の行動を共有し合うプラットフォームとしての発展が期待されています。
市内では、こうした小さな実践が積み重なり、各地で新たな循環の芽が育ちつつあります。
横浜からアジアへ 開かれた港が描く次なる航路
市民との対話や事業者との共創を通じて積み重ねてきた知見やアイデアは、横浜だけに留まるものではありません。開港以来、世界の文化を受け入れ共に発展してきた歴史を持つ横浜市は、その経験を活かし、世界のサーキュラーエコノミーへの移行に貢献する役割を担うとともに、世界の都市の実践事例からも学びを深めています。
横浜が海外都市とつながる重要なプラットフォームのひとつが、2012年から横浜市が主催する「アジア・スマートシティ会議(以下「ASCC」)」です。経済発展と良好な都市環境が両立する持続可能な都市づくりの実現を目指して立ち上げた同会議では、アジア都市のリーダー・実務者、国際機関・政府機関・学術機関・民間企業の代表者が集い、気候変動など地球規模の課題に対処するための優良事例や直面する課題を議論・共有してきました。

ASCC2025 アジアの諸都市によるオープンセッションの様子
循環型の都市づくりと都市間連携について、欧州ではすでに「欧州循環型都市宣言」という枠組みのもと、多くの都市がサーキュラーエコノミーの目標を掲げ、ネットワークを形成しながら地域全体で循環型都市への移行に取り組んでいます。一方、アジアでもサーキュラーエコノミーへの関心は急速に高まっていますが、これまで地域全体を巻き込む欧州のような枠組みはありませんでした。
そこで、横浜市はアジアの都市と共に新たな一歩を踏み出しました。2025年11月に開催されたASCC2025で、国際機関や多様なステークホルダーに向けて、アジア版「循環型都市宣言」の枠組みの創設を公開で呼びかけたのです。
その結果、イクレイ(※)日本がアジア版「循環型都市宣言」の枠組み設立を発表し、横浜市は第1号都市として署名しました。
※世界2,500以上の自治体による都市ネットワーク。国連に対して実体を代表した発言を行うなど、持続可能な都市と地域の実現を目指す。欧州の循環型都市宣言はイクレイ欧州が中心的な役割を担っている。

アジア版「循環型都市宣言」設立の様子
この宣言が目指すのは、単なる声明ではありません。アジアの多くの都市が、ダイナミックな経済成長を遂げる中で、資源消費の増大という共通の経験をしています。それは、横浜自身が歩んでいる道でもあります。この宣言は、それぞれの都市が持つ独自の文化や発展状況を尊重しながら、互いの政策や成功事例、時には直面する課題からも学び合う「ピアラーニング」の好循環を生み出すことを目指しています。
国際局グローバルネットワーク推進課で本取り組みに関わる谷澤さんは、その意図をこう説明します。
谷澤「今回のASCCでの私たちの試みは大きな挑戦でした。循環型都市への移行を、アジア地域全体で後押しする枠組みを新たに創ろうというものです。環境と経済が両立する持続可能な社会に向けて、市民生活や企業活動に近い都市ならではの役割があるはずです。そこで、同じ志を持つ都市同士が、ネットワークを形成し、取組の輪を広げていくことが必要であると考えました。そして、この枠組みに集まる都市が、アジアの都市が持つ独自の視点や「ローカルボイス」を世界に届けることは、国際的な議論に建設的に貢献することにもつながります。そしてこのような国際的な連携は、ひいては市民としての誇りを高め、企業行動や地域経済にも好影響をもたらす、大きな可能性を秘めていると考えています。」

国際局 グローバルネットワーク推進課 谷澤寿和さん
そしてASCCは、2026年から「アジア太平洋循環型都市フォーラム(APCC-Forum)」に名称が変更されます。循環型都市の知見共有のプラットフォームとすることで、宣言都市がAPCC-Forumに集い、循環型都市の移行に向けた取り組みを共有し、互いに政策力を高めていくための試みです。
この枠組みに集まる都市が、アジアの都市が持つ独自の視点や「ローカルボイス」を世界に届けることは、国際的な議論に建設的に貢献することにもつながります。そしてこのような国際的な連携は、ひいては市民のシビックプライドを高め、企業行動や地域経済にも好影響をもたらす、大きな可能性を秘めているはずです。

会議の再編と今後の開催計画を発表
2027年、GREEN×EXPOへ 横浜とのパートナーシップを、ここから
市民との対話を重ねる中で培われてきた「信頼」は、都市の記憶を価値へと変え、経済を動かす仕組みを生み出してきました。そして今、その信頼を土台とした歩みは、海を越えてアジアの都市との連携へと広がろうとしています。
その大きなマイルストーンとなるのが、2027年に上瀬谷地区で開催される「GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)」です。

画像提供:GREEN×EXPO協会
循環型社会は、一つの都市だけで成し遂げられるものではありません。開港以来、世界中のパートナーとの関係性の中で発展してきた横浜は、この挑戦をアジアや世界の都市とともに歩んでいくことを目指しています。
これから毎年開催する「APCC-Forum」、そして2027年の「GREEN×EXPO 2027」が、実践の共有を通して持続可能な未来を語り合う絶好の機会となることを願います。
写真撮影(一部):Chikako Togo
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【参照記事】循環型社会への加速に向けた 日本初「地区の資源循環の可視化」を開始!|横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局
【参照記事】みなとみらい21地区におけるペットボトルの「ボトル to ボトル」水平リサイクルを開始します!|横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局
【参照記事】廃食油のSAF(持続可能な航空燃料)への利活用の取り組み|横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局
【参照記事】令和5年度 横浜市観光動態消費動向調査報告書|横浜市にぎわいスポーツ文化局
【参照記事】「歴史を生かしたまちづくり」の推進について|横浜市
【参照サイト】みなとみらいエリアマネジメント
【参照記事】サーキュラーエコノミー実現への取り組みを紹介する「竹中工務店 サーキュラー支店」展を開催


