地域を巻き込み、食の循環を作る。「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」の取り組み
- On 2022年2月4日
横浜駅西口直結の「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ(以下、横浜ベイシェラトン)」。1998年のオープン以来、その一流のサービスで世界中からの宿泊客を迎え入れてきました。また、ホテル内には、鉄板焼きや日本料理、フレンチ、バーなどの9つのレストランがあり、食事での利用客も非常に多いのが特徴です。
そんな横浜ベイシェラトンでは、「ヤサイクル」の取り組みを2008年から実施して食品廃棄物のリサイクル率を高めると同時に、神奈川の生産者とのつながりを地道に構築し、食の循環を作り上げてきました。
また、2021年4月からは、ホテル2階のオールデイブッフェ「コンパス」にて、神奈川県の食材をふんだんに用いた朝食ブッフェ「神奈川朝食」の提供を開始。地産地消の推進にも力を入れています。
今回は、横浜ベイシェラトンが長年かけて作り上げてきた食分野の取り組みに着目し、セールス&マーケティング部の三瓶なつみさん、オールデイブッフェ「コンパス」の髙木浩平シェフにお話をうかがいました。
レストランの食品廃棄物を有効活用
冒頭でも紹介したように、多様なレストランでの食事を楽しめるのが横浜ベイシェラトンの魅力のひとつです。しかし、それだけに食品廃棄物も大量に出してしまうことが当初の大きな課題でした。
三瓶さん「横浜市が市内のごみを30%減らす目標『G30』を掲げたことをきっかけに、ホテル内でも廃棄物への対応を真剣に考えはじめ、分別リサイクルの強化に取り組み、2008年に分別リサイクルのひとつとして導入したのが『ヤサイクル』でした。
ヤサイクルは、ホテルのレストランで出た生ごみを専用の機械で堆肥化し、その堆肥を神奈川県内の契約農家に提供、その堆肥で育った野菜をまたホテルのレストランで使用するという「自立循環型」食品リサイクルループです。
横浜ベイシェラトンでは各レストランで出る生ごみをしっかりと分別し、それをごみ処理の担当者が生ごみを堆肥化する機械に投入。1台で50キロの廃棄物を処理できる機械を2台導入し、ホテルで1日100キロの生ごみを再資源化しています。
堆肥から作る食の循環
そこから、横浜ベイシェラトンでは堆肥を三浦市、横須賀市、横浜市などの農家に提供し、その堆肥で育った野菜をまたホテルのレストランで使用するという“食の循環”を、長い時間をかけて構築してきました。
三瓶さん「ヤサイクルの契約農家さんが作っている野菜は、サニーレタスやトマト、大根、ブロッコリー、カリフラワー、グリーンカールなど、さまざまです。10年以上にわたるヤサイクルの取り組みを経て契約農家は徐々に増え、現在は30近くの農家さんと契約しています。今は三浦半島や横須賀エリアが比較的多いですが、今後は横浜の農家さんとのつながりも増やしていきたいですね」
横浜ベイシェラトンは、このヤサイクルの取り組みやヨコハマ・ウッドストロー・プロジェクトへの参加などが評価され、2021年に横浜市のY-SDGs上位認証を取得。SDGsや環境への取り組みが盛んになってきた今でこそ取り組みが注目されるようになってきましたが、始めた当時は困難もあったといいます。
三瓶さん「ヤサイクルを導入した当時はまだSDGsの概念が存在せず、社内で協力を得るのにも苦労しました。また、生ごみ以外のごみが入っているときちんと堆肥にならなかったり、野菜とお肉の分量によっても堆肥の質が変わってしまったりと、運用が難しかったです。
今ではスタッフもヤサイクルの取り組みを知っていますし、そういった取り組みをしているホテルのスタッフとして環境への意識も高まってきていると思いますね」
神奈川県の食材を発掘する、「神奈川朝食」
2021年4月からは、オールデイブッフェ「コンパス」で「神奈川朝食」の提供をスタートし、地産地消をさらに推進しています。
2020年の緊急事態宣言下、ブッフェスタイルのレストランである「コンパス」は休業を余儀なくされました。その際、レストラン再開後にどんなメニューを提供していくかを話し合って生まれたのが、この神奈川朝食です。
髙木シェフ「ホテル内では以前から地産地消を推進していこうという方針がありましたし、「コンパス」は横浜市の『よこはま地産地消サポート店』でもあるので、ホテルから地元の農家さんへの応援の気持ちを込めて、地元の食材の発信をしていくことになりました。
神奈川朝食を通して、遠方からお越しになるお客様に、神奈川県産の食材を食べてもらい、神奈川の魅力をもっと知ってもらいたいという想いがあります。また、コロナ禍では神奈川近隣からいらっしゃるお客様も増えましたので、レストランに来る地元のお客様には神奈川朝食を食べることを通して地元の農家さんを応援してもらいたいと思っています」
探してみて出会えた、たくさんの地元食材
神奈川朝食にはヤサイクルの契約農家の食材も含まれていますが、そのほかの県内の食材は、髙木シェフが地道なリサーチを通して集めていったといいます。
髙木シェフ「まずは僕が神奈川県内の農家さんを一から探して、それから購買部の担当者と2人で実際に農家さんに足を運んで試食していきました。1つの食材につき5件ほど回りましたね。そして、美味しいと思ったものやホテルへの供給に適している農家さんの食材を採用しました」
髙木シェフ「神奈川県内で生産されている食材を集めるのは結構大変でしたが、いざ探してみると神奈川県には美味しい食材を作っている方たちが実はたくさんいることがわかったんです。このホテル近隣の港北区や自分の実家のある緑区でも農家さんを見つけましたし、神奈川で作られている納豆やお味噌なども、今回のリサーチをきっかけに知りました。
神奈川には特産品と言えるものがあまりないだけに苦戦もしましたが、だからこそ神奈川朝食は意外性があって面白いのかもしれません。新しい野菜作りに挑戦している農家さんもいますし、まだまだ使っていない食材も多いので、神奈川朝食を通してそれらを発信していきたいですね」
髙木シェフが話すように、神奈川朝食では、ランチョンマットでのメニューの紹介やお料理の横に設置された生産者の写真入りのPOPなどを通して、食材や生産者のことを食べ手にきちんと伝える姿勢がうかがえました。
自身も横浜市出身の髙木シェフは、地産地消の良さについて、最後にこう話してくださいました。
髙木シェフ「生産者が近所だと、市場を通さずに食材を仕入れられるため、プロセスや時間の短縮になるところがホテルとしてのメリットと言えます。ただ、地産地消の一番の良さは、食を通して地元への愛着を持てるところではないでしょうか。
僕たちは、農家さんとはできるだけ密に連絡をとったり、直接足を運んだりするようにしています。みなさんそれぞれのこだわりや想いがあって食材を生産していますから、これからもそれを大事にしていきたいと思っていますね」
地域に密着して、横浜の人に愛されるホテルに
ヤサイクルでの食品廃棄物活用や、食材の地産地消。横浜ベイシェラトンは今後も“地元密着型のホテル”として、多面的にサステナビリティへの取り組みを推進していく予定だといいます。
三瓶さん「廃棄物はもっと削減していきたいですし、地産地消の強化やお子さんへの食育もしていきたいと考えています。
また、今後はホテルからの発信にも力を入れていきたいと思っています。SDGsの取り組みを、もっと多くのお客様に知っていただき、ホテルのスタッフだけではなく、お客様とともに環境に優しいホテルになっていきたいと思います」
編集後記
横浜ベイシェラトンが行うヤサイクルを通した取り組みは、食に関する地域の循環経済を作るモデルとして、多くの宿泊施設や飲食店、さらには学校などのお手本となるものではないでしょうか。また、神奈川朝食は、地元の食材を美味しく食べることで、環境にも地域経済にも貢献でき、地域の魅力に改めて目を向けるきっかけにもなる取り組みだと感じました。
取材前は高級ホテルとしてのイメージが強かった横浜ベイシェラトンでしたが、お2人のお話の内容や和気藹々とした雰囲気から、人のつながりやあたたかさを大切にするホテルの空気感が伝わってきて、良い意味で印象が変わりました。
今後も、そんな横浜ベイシェラトンが中心となって作る「食の循環」に、多くの人が加わっていくことを期待したいです。
【参照サイト】横浜ベイシェラトン(公式)
【参照サイト】株式会社ヤサイクル
【参照サイト】【上位】Superior認証取得者取組紹介シート