環境に配慮しながらも地域活性化を目指す。傘のシェアリングサービス「アイカサ」
- On 2020年9月25日
道端に置き去りにされた、骨組みがむき出しになり二度と使うことはできないビニール傘。特に雨の多い梅雨や台風の時期はよく道端で見かける方も多いのではないでしょうか。ビニール傘の国内消費量は年間約8000万本と推定されており、そのほとんどが使い捨て利用されていると考えると、相当の量が廃棄されています。
実は、ビニール袋やプラスチックストロー以上にビニール傘は深刻な課題を抱えていることはご存知でしょうか?その理由として、使い捨てされるビニール傘は分別がしにくく、ビニールの材質が一定でないため、リサイクルに適していないことが挙げられます。さらに、骨組みとビニールは強力な接着剤を使用して固定されており、分解するのに手間とコストがかかってしまっています。このように、安易に入手でき、気軽に利用できるビニール傘は、その便利さとは裏腹に、想像以上に多くの資源や人手を要するのです。使い捨てされるビニール傘の製品寿命よりもはるかに長い間、地面に埋め立てられ、完全になくなるまでに長い年月がかかっているのが現状です。
このようなビニール傘の課題解決の糸口ともなるサービスが、傘のシェアリングサービス「アイカサ」です。2020年6月22日にアイカサはJR東日本、みなとみらい線、京急電鉄と提携し、横浜都心エリア3路線14駅にアイカサの傘レンタルスポ ットを新たに設置しました。今回はアイカサを展開する、株式会社Nature Innovation Groupの創業者である丸川 照司(まるかわ しょうじ)さんにお話を伺いました。
サーキュラーエコノミーを実現したビジネスモデル「アイカサ」とは
アイカサとは、スマートフォンの専用アプリケーションを使い、駅や商業施設、オフィスビルなどに設置されたレンタル傘スポットから傘を安価で借りることができるサービスです。返却する際は、同じく街中の傘スポットへ好きな時に返却することができます。2018年12月から東京都内で展開を始め、現在は九州や関西方面など全国に約700箇所に展開し、2020年現在はすでに10万人近いユーザーがサービスを利用しています。
アイカサの特徴は、傘のシェアリングサービスだけではありません。株式会社サエラと協業し、傘には丈夫なグラスファイバーという素材を使用し、暴風にも耐えられる強度を持った「捨てない傘を」実現したのです。簡単には壊れない丈夫な傘を作ることで繰り返し使用可能で、大量に生産する必要がないため、資源の削減につながるのです。
「アイカサの傘は丈夫に作られていますが、万が一傘の骨が1本折れてしまっても、その一本だけを取り替えられる仕様になっています。何度もリペア(修復)できれば、新しい傘を製造する必要がなくなるのです。実際に、サービスを開始してから修理が必要した傘は月に10本にも及びません。それほど耐久性があり、我々の傘は多くの人が利用しながらも、約2, 3年は持つのではないかと考えています。」
従来のリニア型経済では、企業が製品を製造して消費者に売ったのち、消費者はその製品が壊れ、使用できなくなったら廃棄する仕組みでした。良質なものを長く使ってもらえるよう努力しいる企業さんもありますが、大量生産大量消費することで経済価値を生み出す製品もまだまだ多くあります。
「一方で、アイカサの提供するシェアリングサービスというビジネスモデルでは、アイカサが傘の所有権を有しているため傘の耐久性が重要になります。製品寿命の長い傘を製造しメンテナンスをすると、傘を必要以上に大量生産する必要がなくなり、より少ない資源でより多くのユーザーに傘が提供できるという、経済合理性が高い仕組みになっています。」
横浜含め、様々な場所での実証実験で見えてきた、アイカサ普及への鍵
アイカサは、横浜市の関内・馬車道・日本大通エリアの企業・団体等とも連携し、雨の日の移動体験の向上と、関内地区の活性化を目指す「傘シェアリング実証実験」を、2019年9月から1年間実施していました。
駅だと利用できる人も多くなるなどの理由が考えられますが、まず駅から設置することがなぜ重要なのか伺うと、丸川さんはこう答えました。
「おっしゃる通り複数の要因がありますが、一番大きな要因は、駅に置いてあることでアイカサに対する信頼感が増すことだと考えています。駅で実際に使用している人を見かけると、自分も使ってみようか、と次々に利用してくださる人が増えるので、認知を広げるという意味では、アイカサスポットが分散しているよりも、一括でより多くの方が目にする駅に設置したほうが良いのです。」
横浜市内の3路線との連携
このように駅から設置を増やすことの重要性に気が付いた丸川さんは、JR東日本横浜支社、みなとみらい線、京急電鉄の3社とみなとみらいを中心とした横浜都心エリアに位置する3路線14駅にアイカサの傘レンタルスポットを新たに設置し、2020年6月22日からサービスを開始しています。
「鉄道会社は運休があった時は相互で補助しあうことがあるように、一緒に移動を便利にしていこうという思いがあります。特に京急線とJR線では乗り換えの際に距離が離れている駅があり、そこを濡れずに移動できるように繋げる役割ができると話題になりました。鉄道会社側も賛同してくださり、それだったらみなとみらい全体で取り組んだ方が良いとのでは、と各社が呼びかけ合い、この連携が始まりました。」
職住近接でコンパクトな街だからこそ見える、横浜のポテンシャル
横浜でも展開を始めている中で、何かしら横浜ならではの特徴はあるのでしょうか。
「まだデータとしては不十分ですが、横浜の特徴の一つは、働く、買い物する、そして住むエリアが融合していることだと思っています。東京はオフィスと居住エリアが極端に離れているケースが多いので、コロナの影響で人が戻ってきていないエリアもありますが、横浜は移動の戻り具合が早い方だと感じました。今後の可能性という意味でも、職住近接でコンパクトな横浜は伸びると思っています。」
そう話す丸川さんは、再び旅行ができるようになった時に旅行者が手ぶらで楽しめるようなサービスになれば、街の活性化に繋がるのではないかと語りました。
「今後は駅を中心にその先の商業施設との導線を繋げるのが良いと思っています。街全体にアイカサを導入できれば利便性が増えると考えています。また、雨が降ってもお店への来客が減らない仕組みを作ることで経済活性化を促せるので、今後は地域のまちづくりにも力を入れたいです。」
取材後記
アイカサは、単なるシェアリング傘スポットの普及に留まらず、使い終わったZiplocを回収し、それをアップサイクルした傘を作る取り組みが話題になりました。丸川さんは、新しい挑戦を含め、精力的に活動されている理由としては、できるところから最大限の力を発揮し、精一杯取り組んでいるのだと話されていました。事業を拡大する上でも、自分たちがやりたいことを明確にした上で、それだけに専念しているのだと言います。アップサイクルして作る傘もその一貫です。「自然の流れに逆らうとあまりできないと思うので、流れに逆らわずに頑張りたい。」そう話す丸川さん率いるアイカサの、今後の取り組みにも期待が高まります。
アイカサは、横浜市内の下記の駅でご利用いただけます。
JR東日本:東神奈川駅、横浜駅、桜木町駅、関内駅、石川町駅
みなとみらい線:新高島駅、みなとみらい駅、馬車道駅、日本大通り駅、元町・中華街駅
京急電鉄:京急東神奈川駅、戸部駅、日ノ出町駅、黄金町駅
※アイカサアプリの登録は、App Storeより。
【参照記事】鉄道事業者3社が連携し、みなとみらいを中心とした横浜都心エリアにて傘シェアリングサービス「アイカサ」を展開、雨の日のおもてなしを届けます
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瀧田桃子
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