福祉のまち寿町に学ぶ、ウェルビーイングの形とは【体験レポート】
- On 2021年6月3日
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、改めて「命」と向き合い、何のために生きるのか、どのような暮らしや働き方が理想なのか考え直す機会が増えています。世界では、コロナ禍からの経済復興において「グリーンリカバリー」「Build Back Better」がキーワードになっています。これらはいずれも、環境が破壊され格差が拡大するようなコロナ以前の経済モデルではなく、経済活動を通じて環境が再生され、社会的な公正も実現するような新しい経済を実現することを意味します。このような世界全体の流れの中で、いま注目を集めているのが「ウェルビーイング(幸福)」という概念です。
「ウェルビーイング」とは一般に、肉体的にも精神的にも社会的にも全てが満たされた状態にあることを指します。日本語では「幸福」や「幸せ」と訳されていますが、短期的・瞬間的な幸せではなく人生における長期的な幸せの実現にフォーカスしている点がウェルビーイングの特徴です。
また、サーキュラーエコノミーの究極の目的は、環境やコミュニティの再生を通じて個人、地域、そして社会全体における循環を生み出し、「ウェルビーイング」を実現することにあります。そこで今回Circular Yokohamaでは、ウェルビーイングの実現に向けた横浜の地域のありかたについて考えるフィールドワークを企画・実施しました。
横浜市中区寿町を舞台に、まちの歴史や文化を紐解きながら、これからのウェルビーイングを探ります。
※本イベントは、Circular Yokohamaが、一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボと共同で企画運営するCircular Economy Plus School(サーキュラーエコノミープラススクール)のプログラムです。
急速な変化を遂げてきたまち、寿町
2021年2月6日、横浜市中区にあることぶき協働スペースにて開催された本イベント。
ことぶき協働スペースは、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボが横浜市との協働事業として運営する、横浜市寿町健康福祉交流センター内に開設した寿地区の地域包括支援・調査研究などの事業拠点です。スペースの利用やボランティアの希望といった相談・コーディネートのほか、自治会・町内会などの地域コミュニティやNPO、企業、大学、研究機関などの様々な主体による対話型の共創活動を推進し、課題解決のためのサービスやプロジェクトの創出を支援しています。
講師にお迎えしたのは、同団体より小林野渉(こばやし・のあ)さんです。
小林さんは、まちづくりプランナーや環境デザイナーとしても活動しており、公共の福祉や人権への関心からことぶき協働スペースのスタッフとしての活動を開始されたそう。今回は、実際に寿町のまちを歩きながら、寿町の歴史や成り立ちについて解説をいただきました。
「ウェルビーイング」とは何か
まちあるきを終えた後は、ことぶき協働スペースに戻りグループワークを実施しました。テーマは「ウェルビーイングとは何か?」。
小林さんの講義や寿町のまちあるきを通して学んだことや感じたことを共有しあい、それぞれが思うウェルビーイングの形やその定義について、複数のチームに分かれて議論を行いました。
発表に向けて、グループの中で話し合った内容や意見を紙にまとめていきます。その後、フィールドワークを通して考えたことや議論した内容について、各グループごとにプレゼンテーションを行いました。
プレゼンテーションでは、次のような意見が発表されました。
「まちづくりを行う人と、そのまちに住む人は必ずしも同じではありません。まちづくりを通して叶える幸せは誰のモノであるべきなのか、考えさせられます。」
「歴史あるまちの文化構造は単純ではないのだとわかりました。様々な人が行き交い、様々な人の利害関係が複雑に絡み合って地域経済が構成されています。「より良いまち」を目指すと言っても、誰かにとっての『幸せ』は誰かにとっての『不幸せ』であるかもしれないことを認識する必要があると感じました。」
「自分の本音を語ることへ恐怖を抱きました。その地域の『外の人』という立場でまちを俯瞰してみると、抱えている地域課題に対して当事者ではない自分が、そのまちを語ることは許されるのでしょうか。どこまで広い視野を持って当事者の目線も組み込んで考えることができるのか、新しい問いに出会いました。」
参加者の多くが自分なりのウェルビーイングや幸せについての考察を通して、それぞれの立場で考えるべき新たな課題を発見しました。
プログラムの最後に、サーキュラーエコノミーとウェルビーイングの本質や関連について考察し、本イベントは幕を閉じました。
果たして何が幸せなのか、ウェルビーイングなのか。そこに普遍的な答えはありません。人の数、地域の数だけ、それぞれのウェルビーイングが存在します。
サーキュラーエコノミーは、ウェルビーイングを追求・実現するための手段の一つです。今回のフィールドワークを通して、参加者の皆様が寿町で感じたことを実生活に持ち帰り、自分なりのウェルビーイングに出会うためのヒントとして役立ててくださっていることを願います。参加者の皆様、寿町に住み暮らし、働く皆様、ことぶき協働スペースの皆様、ありがとうございました。
編集後記
JR石川町駅から徒歩10分ほどの場所に位置する寿町。駅の反対側には、高級住宅街とも評される元町・山手エリアが存在し、横浜ランドマークタワーや大観覧車「コスモクロック21」のあるみなとみらいエリアも目と鼻の先です。
そのような多くの人々が「横浜」と聞いてイメージする都会的な風景と、労働者から福祉へと産業構造の変化に合わせて宿泊形態も変わった簡易宿泊所が建ち並ぶ寿町の風景は、横浜東部エリアの特徴であり、魅力の一つともいえるのではないでしょうか。(横浜の4つの都市圏域については、「横浜の「サーキュラーエコノミーplus」が描く、持続可能な都市の未来」の対談記事にて解説しています。)
様子の全く異なるまちが共存できる、この地域特有の循環や社会構造は、きっと他の地域や自治体にとっても興味深いテーマであるはずです。サーキュラーエコノミーやウェルビーイングを追求していくなかで、未来の経済やまちのあり方を探りながらこれまで築き上げてきた歴史や文化を守っていくその術が、寿町のまちに眠っているかもしれません。
【関連記事】Circular Economy Plus School VOL.5 「ウェルビーイングとサーキュラーエコノミー ~ヘルスケアの視点から考える、地域を幸せにする循環経済とは~」【イベントレポート】
【関連記事】【特別対談・前編】横浜の「サーキュラーエコノミーPLUS」が描く、持続可能な都市の未来
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【参照記事】IDEAS FOR GOOD|ウェルビーイング特集、はじまります。【ウェルビーイング特集 #0】
Circular Yokohama Editorial Team
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