Circular Economy Plus School Vol.11 ドーナツ経済学で考えるサーキュラーエコノミーplusの価値~アムステルダムのドーナツ都市戦略に学ぶ〜【イベントレポート】
- On 2021年5月28日
2020年1月〜3月にわたって開講された全12回のサーキュラーエコノミー学習プログラム「Circular Economy Plus School」。
本記事では、3月17日に行われた第11回「ドーナツ経済学で考えるサーキュラーエコノミーplusの価値」座学セッションの様子をダイジェストにてご紹介します。
「Circular Economy Plus School」とは
Circular Economy Plus School(サーキュラーエコノミープラススクール)は、横浜市が掲げるビジョン「サーキュラーエコノミーplus」の実現に向けた、地域発のサーキュラーエコノミー(循環経済)学習プログラムです。環境にも人にも優しく、持続可能な循環型のまちづくりに関わりたい人々が産官学民の立場を超えて集い、学び、つながることで、地域の課題を解決し、横浜の未来をつくりだしていきます。
学習プログラムの詳細は、Circular Economy Plus School 公式ページより。
登壇者紹介
▽西崎梢(にしざき・こずえ):Circular Economy Hub Amsterdam
サーキュラーエコノミー・スペシャリスト。オーストラリアで高校・大学卒業後、現地でマーケティング分野で働いた後帰国。東京を拠点にPR・CSRコンサルタントとして国内外のブランドを支援。2020年1月よりオランダ・アムステルダムに拠点を移しサーキュラーエコノミーを専門に活動。
▽関口昌幸(せきぐち・よしゆき):横浜市政策局共創推進課担当係長
2012年から横浜市政策局政策支援センターにて「市民参加型の課題解決の実現」「地域経済の活性化」のためにオープンデータ活用による地域課題解決イノベーションの仕組みづくりに従事。現在は同市政策局共創推進室にて、産官学民の共創による地域課題解決拠点、リビングラボを市内各地で展開。2019年、循環型まちづくりによる公民連携イノベーションモデルとして「サーキュラーエコノミーplus」ビジョンを策定。
▽加藤佑(かとう・ゆう):Circular Yokohama / IDEAS FOR GOOD編集長 / ハーチ株式会社代表)
1985年生まれ。東京大学卒業後、リクルートエージェントを経て、サステナビリティ専門メディアの立上に従事。2015年12月に Harch Inc. を創業。翌年12月、世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を創刊。現在はサーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市で「Circular Yokohama」など複数の事業を展開。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格保持者。
第1部:ゲストトーク
ドーナツ経済学とは?
セッションの初めに、Circular Yokohama編集部の加藤佑より、ドーナツ経済学概論の解説がありました。
ドーナツ経済学の始まりは、英国の経済学者ケイト・ラワース氏が2011年にOxfamレポートのなかで提唱した概念です。2017年に出版されたドーナツ経済学の専門書「Doughnut Economics: seven ways to think like a 21st century economist」は、これまでに日本語を含む20ヶ国語に翻訳されています。
加藤「社会ではこれまで、経済成長を絶対的な指標としてきました。しかし、ケイト氏の著書に示されているように、これからの私たちが求める経済は、成長ではなく地球全体に繁栄をもたらすシステムです。それは、地球の限られた資源の範囲内ですべての人々の社会的公正を実現する、という経済の本質的な役割に立ち返る全く新しい経済の形です。」
加藤「ドーナツ経済が目指すのは、『エコロジカルシーリング(ecological ceiling)』と呼ばれる、ドーナツの内側の縁と外側の縁の間に人類全員の暮らしを収めることです。」
ドーナツ経済学が示す上記の図では、ドーナツの内側の縁が社会的公正、外側の縁が地球資源の上限を表しています。2021年現在、すでに気候変動・生物多様性喪失・土地絵転換・窒素とリンの投与の4つの項目では、地球資源の上限を超え、ドーナツの外側にはみ出しています。一方、健康や政治的な発言力、ジェンダーといった基本的な社会基盤の確保ができていない分野は、ドーナツの内側の穴に落ちています。これが、地球全体を見たときの現状です。
少しダウンスケールしてみると、具体的にどのような分野でドーナツの内側の穴に落ちていたり外側に飛び出たりしているのかは、国や地域の状況によって様々であることに気がつきます。例えば日本では、最低限どの暮らしを確保する社会的基盤の達成度合いは高い一方、生物や環境への負荷が非常に高い経済活動を行っています。
加藤「ドーナツ経済のモデルは、地球レベルから国レベル、州・都道府県レベル、街レベル、家庭レベルとダウンスケールして考えることができる点が特徴です。それぞれのコミュニティの状況に合わせて必要な繁栄を考えることで、地球全体がドーナツの範囲内に収まっていく、というのがドーナツ経済的発想です。」
日本の現状が示すように、従来の経済システムでは、豊かな暮らしをしようとすると必然的に環境負荷が高くなっていました。しかし、これからのサーキュラーエコノミー型の社会では、暮らしが豊かになればなるほど環境負荷が低くなるような経済システムへの移行が求められています。
一方ドーナツ経済学でも同じく、この従来の経済システムからの転換が重要視されているといいます。ドーナツ経済とサーキュラーエコノミーとの違いはどこにあるのでしょうか。
加藤「サーキュラーエコノミーとドーナツ経済の結びつきを語る上で知っておきたいのが、『トリプルボトムライン』の概念です。」
トリプルボトムラインとは、「組織の活動パフォーマンスを評価するとき、経済的側面・環境的側面・社会的側面の3つの軸で評価をすること」(IDEAS FOR GOOD 「トリプルボトムラインとは・意味」より引用)です。
加藤「トリプルボトムラインには、サーキュラーエコノミーが示す3つの原則では示されていない重要なキーワードが含まれています。それが、このサーキュラーエコノミーPlusスクールでも大切にしている『People(人)』の視点です。サーキュラーエコノミーへの移行においては、環境経済だけでなく社会、すなわち人へのアプローチが欠かせません。そこで、サーキュラーエコノミーの考え方のなかでどのようにして社会的側面にアプローチできるか、その方法の一つとしてドーナツ経済学が注目されるようになったのです。」
昨今のコロナ禍で世界の経済状況に大きな変化が生まれています。そんななか、「Build Back Better(より良い戻る・より良い復興)」の概念がその重要性を増しているといいます。
加藤「新型コロナウイルスの蔓延によって、世界各国が様々な経済的ダメージを受けています。そこからどのようにして復興するのか、よりよく立て直していくのか。そのヒントがドーナツ経済学には隠されています。」
コロナ禍で、これまで確保されていた社会的公正の一部が失われている国が多くあります。今後コロナ禍からの復興を目指すなかで、それぞれの国や地域がドーナツの中に収まることができる方法が模索されています。
加藤「日本を例にあげると、コロナ以前は環境負荷のとても高い暮らしをしていて、ドーナツの外側にオーバーシュートしていました。しかしコロナ禍で経済活動が一時的にストップすると、CO2の排出が減るなど環境負荷が低くなった一方で、多くの人が雇用を喪失するなど、これまで確保されてきた社会面が不安定になり、ドーナツの内側に落ちる領域も出てきました。これから、アフターコロナの世界に向けて日本はどんな社会を目指していけば良いでしょうか。我々が目指すべきは、元々いたドーナツの外側ではなく、ドーナツの内側です。」
この考え方こそが、「Build Back Better(より良く戻る・より良い復興)」なのです。
加藤「経済成長の尺度をGDPで測ってきたこれまでとは違い、これからは我々の社会の繁栄を幸福度で測っていくようになるのではないでしょうか。我々の経済は、みんなが幸せになるために存在しています。環境が破壊され社会に分断が生まれる経済ではなく、環境と社会コミュニティを再生できるような経済をデザインしていくことが求められていると思います。」
アムステルダムのドーナツ経済最前線
続いて、Circular Economy Hub編集部の西崎こずえさんから、オランダ・アムステルダムにおけるドーナツ経済の取り組みについてご紹介いただきました。
西崎さん「オランダはGDP世界17位の欧州の一国です。オランダ人は合理的で倹約家な国民性で知られています。『2050年までにサーキュラーエコノミーへの移行を達成する』とオランダ政府が宣言している通り、国を挙げてサーキュラーエコノミー化に取り組んでいます。」
特にオランダの首都アムステルダム市では、具体的な数値として、2025年までに家庭から出るゴミの分別率を65%まで上昇させること、そして一次エネルギーの使用を2030年までに50%削減することを宣言しています。
西崎さん「アムステルダム市が掲げる『サーキュラーエコノミー戦略 』では、ドーナツ経済の視点を取り入れた政策を打ち出しています。コロナ禍で厳しいロックダウンが行われるなか、コロナの影響を受け苦しんでいる人々、職を失った人々をどのようにサポートし、そして国として回復していくのかを市民みんなで考え、動いています。」
そんなアムステルダム市では、都市の抱える課題の現状を理解するために「シティーポートレート」活用し、4つのレンズを通して社会の現状を可視化しているといいます。
西崎さんは、このシティーポートレートの活用例について、チョコレートを例に説明を続けます。
西崎さん「オランダはチョコレートの世界最大輸入港です。ここに集められるチョコレートの多くが児童労働問題を抱えている南アフリカ諸国からの輸入である点は課題の一つです。しかし、児童労働への加担を避けようとフェアトレードの製品のみを輸入した場合、これまで低価格のチョコレートの生産に関わっていた人々の暮らしや、それらを購入していたオランダの低所得層の暮らしを切り捨てることになりかねません。」
他にも、立場が変わればまた違った影響を受けることになるかもしれません。そのような中で、どんな選択肢が最良なのか。シティーポートレートは、このような社会課題の複雑性を可視化するためのツールなのです。
西崎さん「チョコレートを取り巻く問題だけではなく、全ての社会課題がこのような複雑性を孕んでいます。シティーポートレートの活用において重要なことは、これは正解を導き出すためのものではなく、それぞれの課題に結びつく因果関係の全てを一つの場に集めることで最もふさわしいの意思決定を行うためのツールであるということです。これは、ドーナツ経済学の提唱者であるケイト氏の指摘でもあります。」
先に触れたチョコレートの例にも当てはまるように、例え自分たちがドーナツの円に収まることができるような解決策でも、他の国や地域を犠牲にしていては世界全体のドーナツ経済、サーキュラーエコノミーの達成からは遠のくことになってしまいます。関係する全ての要素が最もドーナツの円に近くなるような解決策の検討を行うことがこのシティポートレポートの役割です。
西崎さんはトークの最後に、オランダ・アムステルダムで実際に行われているドーナツ経済の視点を取り入れたまちづくりの例をご紹介くださいました。
西崎さん「深刻化する土壌汚染の改善に向け、約10年前にアムステルダム市が開発に乗り出した土地があります。アムステルダム中心街からほど近いNoord(ノールト)地区に位置する、De Ceuvel(デ・クーヴェル)です。まちでは、土壌の毒素を吸い上げる植物を栽培しています。」
また、同じNoord地区にあるSchoonschip(スホーンスヒップ)では、水上住宅のコミュニティも生まれているといいます。
西崎さん「アムステルダム市では住宅不足が問題となっているため、陸上以外で人が住める場所を模索する価値が高まっています。」
世界的に見ても、温暖化による海面上昇で住む場所が沈んでしまう人の数は、2050年までに8億人にものぼると言われています。そのため、Schoonschipが取り入れている水上住宅のアイデアは、世界各地から注目を集めています。
西崎さん「この水上住宅のある集落には、現在およそ100人が暮らしています。ヨーロッパで最もサステナブルな水上住宅コミュニティと呼ばれており、再生可能エネルギーの使用、ITを活用した電力供給の制御、そして車のシェアリングなど環境負荷を抑える様々な工夫がなされています。」
このように、アムステルダムではドーナツ経済やサーキュラーエコノミーに関わる様々な先進的な取り組みが行われています。より環境にも社会にも優しい地域づくりを横浜でも実現するための多くのヒントを得ることができました。
横浜におけるドーナツ経済の可能性
最後のゲストは、横浜市政策局共創推進課にて係長を務める関口昌幸さんです。関口さんは、横浜市が掲げるビジョン「サーキュラーエコノミーPlus」の策定にも携わり、本イベント全12回のパネルディスカッションにもご参加いただいています。
関口さん「日常生活のあらゆる場面で循環を意識しながら楽しい暮らしを実現できる、21世紀型の社会がいま求められています。横浜市では、横浜を訪れたり横浜で暮らしたりする人々にとっての本物の幸せとは何かを追求し、人々に寄り添うような政策を作っていこうと動いています。」
関口さんは、20世紀までの暮らしと21世紀の暮らしを比較して、次のように述べました。
関口さん「『人の暮らしはこうあるべきだ』というようなあるべき論にしたがって人々のの生活や行動、欲望をコントロールし、物事が計画通りに進むよう管理していくトップダウン型の社会は20世期後半型だと思っています。21世紀に入って働き方や暮らし方が大きく変わるとともに市民の意識や実感はどう変化しているのかを把握し、市民の要望を取りこぼさないようボトムアップで社会を作っていくのが、これからの社会のあり方ではないでしょうか。」
地域の持続可能性・サステナビリティを実現するためには、市民の声に耳を傾けると同時にデータも参照することで、社会構造や産業構造の急速な変化を正確に捉える必要がある、と関口さんは言います。
それでは、21世紀に入り、横浜市民の価値観や暮らしのあり方はどのように変化してきたのでしょうか?
関口さん「横浜市では、昭和40年代後半から毎年『市民意識調査』というアンケートを行なっています。質問項目の一つにある『心配ごとや困っていることはない』への回答を経年変化で見てみると、興味深いデータが得られます。」
関口さん「80〜90年代には市民のうち2人に1人は全く心配はない、将来への不安はないと回答していました。しかし2000年を過ぎると、不安や心配事はないと回答した人数は10人のうちたった1人にまで減少しています。つまり、20世紀後半には約半分の市民が心配事なく暮らしていたにもかかわらず、この数十年の間に90%の市民が心配事を抱えながら暮らすようになったということです。」
「その理由は、様々な側面で社会状況が変化しているためではないか」と関口さんは続けます。
関口さん「これら7つの社会変化を前提に政策を打たなければ、市民の生活満足度を高めることはできず、市民全員が安心して暮らせる地域の実現はないと思っています。」
また市民の不安や心配事が急増している状況に加え、中長期的な自治体経営という視点で抱える課題は大きいそうです。
関口さん「人口減少による市税収入の減少と、高齢化による支出の増大が同時に進んでいます。さらに、経済成長期の開発で作られたあちこちの道路や施設で修繕が必要になっています。支出額と収入額の乖離が進んでいけば、横浜の自治体経営の破綻が現実のものとなるかもしれません。」
さらに、そこに現れたのが昨今のコロナ危機です。
関口さん「横浜市内では新型コロナ以前から高齢単身者世帯が増えていました。それでも、これまでは地域内でボランティアに参加し集うなど社会活動の場が確保できていましたが、コロナ禍で高齢者の多くが自宅に引きこもるようになり社会的な孤立が重大化しています。その結果、心身の体調を崩す人や深刻な経済的打撃を受けている人が大勢いるのです。」
そこで改めて、サーキュラーエコノミーPlusが示すような、人や社会の側面に寄り添った経済循環の仕組みが求められています。
関口さん「横浜市が推進するサーキュラーエコノミーPlusの特徴は、人や社会の持続可能性にもフォーカスしている点です。ローカル・フォー・ローカル、サステナブルデベロップメントでは地産地消や資源循環、再エネ推進など環境の側面にフォーカスし、パラレルキャリアでは会社や学校に囚われないフレキシブルな学び・働き方など21世期型社会の新たな概念にも触れています。そしてそれらの新しい暮らし方を実現するために欠かせない人の健康面への配慮を、ヘルスプロモーションとして取り入れています。」
歳を重ねても生き生きと働き、地域の中で活躍し続けられるよう、人生100年時代を支える地域社会の実現を目指すのが、横浜のサーキュラーエコノミーPlus。まさにドーナツ経済学の定義する社会的な側面の確保に結びついています。
関口さん「そしてこれから横浜流のドーナツ経済を実現させるために欠かせないのが、官民連携によって生み出されるイノベーションです。組織ではなく個人をエンパワメントする、横浜の新しい地域の姿がその先にあると考えています。」
第2部パネルディスカッション:ドーナツ経済学で考えるサーキュラーエコノミーplusの価値
第2部では、第1部の内容を踏まえ、「ドーナツ経済学で考えるサーキュラーエコノミーplusの価値」をテーマに講師の皆さんがパネルディスカッションを行いました。
加藤「西崎さんと関口さんのお話から横浜とアムステルダムそれぞれの現状と比較すると、どのようなことがわかるでしょうか。」
西崎さん「印象的なのは、横浜もアムステルダムも、地域課題を解決するためのアプローチに『人』の視点を盛り込んでいることです。一つの課題を前にしたとき、ただお金を投資して経済的に解決しようということではなく、人と人のつながりを紡ぐなかで地域の持つ資源の価値を最大化して乗り越えようとしているところは、横浜とアムステルダムの共通点ではないでしょうか。」
加藤「地域内資源の価値の最大化という点で私が興味深いと感じたのは、世界規模で進んでいる女性の活躍です。家事代行サービスに従事する女性を取材した際に伺ったことで、とても印象的だったことがあります。これまで家庭のなかでは家事労働をこなしても感謝されることはなかったけれど、仕事として家事を提供すると、お客様から感謝の言葉をいただくことができる上、お金をもらうことができる。同じ家事をこなすにしても、モチベーションが全く違うのだそうです。これを聞いた時、これまで社会の中で女性は十分活躍してきたにもかかわらず、その存在が社会的に無視されてきたのだということに気がつきました。これこそ、今まで見えていなかった地域内資源を可視化する最たる例だと感じます。」
関口さん「私自身は、20世紀後半の暮らしに心配事の少ない時代に青春を過ごし、それから横浜市の職員として地域と関わり続けてきました。女性の活躍が見えづらく、それが家族を支えるシャドーワークとされていた時代の状況も理解しています。そのような立場から横浜での女性の活躍について考察してみると、21世紀に入ってからは、これまでボランティアで女性がやってきた地域活動をビジネス化していこうという動きが見られるようになったと感じます。例えば、女性が中心となって運営するコミュニティカフェに、単身の高齢者が集うような場面が見られます。コミュニティカフェという運営形態を築くことで、女性たちは『主婦』ではなく『プロ』として地域経済の循環の中で活躍でき、高齢者も社会の中で他社とのつながりを見出し居場所を確保することができます。さらに、女性だけではなく障害者の方々にも加わっていただき、地域にとってより付加価値の高いシステムへ転換する流れが生まれていると思います。」
加藤「企業が豊かになるためにまちを作るこれまでの時代が終わり、これからはまちを市民に開放する時代に移り変わっていくのだと感じています。アムステルダムでもこのような流れが見られるのでしょうか。」
西崎さん「アムステルダムでも、地域コミュニティのなかで資源や富を分配する仕組みの構築が少しづつ模索されているように思います。例えば、アムステルダム市内の大手スーパーマーケットでは、売れ残りや食品廃棄を減らすため、アルゴリズムを使ってダイナミックプライシング*による価格管理を行なっています。そのおかげもあり食品廃棄物の量は減っているのですが、それによって負の影響を受けている人もいます。例えば、これまでスーパーから売れ残りの食品を受け取って活用していた飲食店や、破棄されてしまう食品をフードバンク経由で受け取っていた生活困窮者などです。複雑に絡み合う因果関係を紐解きながら、課題をどのように解決できるのか、シティポートレートなどを活用しながらみんなで考え、実践しているところです。」
*ダイナミックプライシング:「商品・サービスの価格を需要と供給に応じて変動させ適正価格を付与すること」(Livhub 「ダイナミックプライシングとは・意味」より引用)
関口さん「サーキュラーエコノミーPlusこそ、まさに横浜版ドーナツ経済の姿だと考えています。今回、アムステルダムと横浜の事例検討を通して、『市民全員の安心・安全な暮らしを確保しながら循環型の経済を作る』というサーキュラーエコノミーPlusのビジョンが目指す姿がより明確になりました」
西崎さん「横浜とアムステルダムの比較で得た気づきは、ドーナツ経済やサーキュラーエコノミーの実現において何よりも大切なことは、地域への愛だということです。市民一人ひとりが自身の地域が抱える課題をジブンゴト化しなければ、その解決に向けて進むことはできません。市民が地域への愛を持つことで、その地域に暮らす人々の顔が見え課題をジブンゴト化することができます。そしてその先に、より良い社会づくりに向けて『みんなで』行動できる未来があるのではないでしょうか。」
編集後記
本記事でご紹介したイベントの完全版は、アーカイブ動画としてもご覧いただけます。ご興味のある方は、ぜひチケットをお求めの上ご視聴ください。
そして、最終回となる次回のテーマは「産官学民の連携による横浜発のサーキュラーイノベーション 」です。
11回までの学びを振り返りつつ、サーキュラーエコノミーplusの中軸となる「産官学民の連携とイノベーション」に焦点を当てます。リビングラボを拠点としつつ、産官学民がどのように連携しながら横浜でサーキュラー・イノベーションを起こしていくかを参加者の皆さんと共に議論し、横浜の循環する未来に向けたネクストステップを描きます。
次回のイベントレポートもお楽しみに!
【第1回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.1「横浜とサーキュラーエコノミー」~海外先進事例とともに考える、循環する都市・横浜の未来~
【第2回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.2「食のサーキュラーエコノミー」~都市で食の地産地消・循環型農業をどう実現する?~
【第3回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.3「再エネとサーキュラーエコノミー ~エネルギーの地産地消から始まる循環型のまちづくり~」
【第4回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.4「サーキュラーエコノミーとまちづくり ~地域に循環をもたらすコミュニティと空間をどうデザインする?~ 」
【第5回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.5 「ウェルビーイングとサーキュラーエコノミー ~ヘルスケアの視点から考える、地域を幸せにする循環経済とは~」
【第6回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.6 「サーキュラーエコノミー時代の新しい働き方~循環を支えるインクルーシブな雇用とパラレルキャリア~」
【第7回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.7 「プラスチックのサーキュラーエコノミー~プラは悪者?循環型社会におけるプラスチックとの付き合い方~」
【第8回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.8 「ファッションとサーキュラエコノミー~横浜で循環型のファッションをどう実現する?~」
【第9回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.9 「サーキュラーエコノミーとスタートアップ~横浜発の循環型イノベーションをどう起こす?~」
【第10回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.10 「サーキュラーエコノミーとデジタル・トランスフォーメーション~循環を加速させるテクノロジーの未来~」
【第11回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.11 「ドーナツ経済学で考えるサーキュラーエコノミーplusの価値~アムステルダムのドーナツ都市戦略に学ぶ〜」
【第12回イベントレポート】Circular Economy Plus School Vol.12 「公民連携による横浜発のサーキュラーイノベーション ~オープンデータとリビングラボによる共創型の課題解決~」
【関連サイト】Circular Economy Hub
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