SDGs金澤リビングラボで「食の循環」とコミュニティの作り方を学ぶ【体験レポート】
- On 2021年5月25日
2021年1月16日(土)、廃棄予定の海藻アマモを活用した循環型農業に取り組んでいるSDGs金澤リビングラボの活動拠点となる八景市場と永島農園を訪問し、横浜における食の循環と地産地消、食を通じた地域活性とまちづくりについて学ぶフィールドワークを開催しました。
テーマは「食のサーキュラーエコノミー」。当日は、八景市場の平野健太郎さん、アマンダリーナの奥井奈都美さん、永島農園の永島太一郎さんを講師に迎え、八景市場と永島農園の視察、シイタケ狩り体験を通して、食を通じた循環型コミュニティの作り方を学びました。
※本イベントは、Circular Yokohamaが、一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフィス、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボと共同で企画運営するCircular Economy Plus School(サーキュラーエコノミープラススクール)のプログラムです。
「食」を通じた地域活性化をはかる、SDGs横浜金澤リビングラボ
横浜というと桜木町・みなとみらいエリアの近代的な街並みを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、実は横浜市内には市域の総面積の約7%を占める3,000ヘクタール以上の農地があり、さまざまな野菜や果物などが栽培されています。
地域のなかで食の循環を実現させ、地産地消を推進することは、フードマイレージ(食品の輸送距離)の削減に伴うCO2排出量の低下、健康で新鮮な食品の摂取による市民の健康増進、地域経済の活性化など様々なメリットが生まれます。
今回のフィールドワークのスタート地点となったのは、横浜市金沢区の地元事業者や市民、教師らが集まって活動している「SDGs横浜金澤リビングラボ」の拠点である八景市場。SDGs横浜金澤リビングラボでは、横浜市で唯一の海水浴場を持ち、内陸には農地もあるという地域の強みを活かし、食に関わるプロジェクトとコミュニティ醸成を行っています。まずはじめに、八景市場の代表兼フードコーディネーターをつとめる平野健太郎さんにお話を伺いました。
八景市場
八景市場は金沢文庫駅から徒歩10分ほどの場所にある、住まいの可能性を広げるコンセプトアパートメントです。入居者だけでなく、利用者を広く迎える地域との新たな接点ができるように併設されたキッチン付きオープンスペース「こずみのほとり」にて、本イベントが行われました。
平野さんからは「食を通した『コミュニケーション』の場 」というテーマで、八景市場にて行っている新しい生活の提案についてお話しいただきました。
生まれも育ちも金沢区で、学生時代からボランティア活動を通じ日本全国のさまざまなまちづくりに関わってきたという平野さん。「横浜市のなかで唯一、金沢区は人口が減少している」「(経営している)単身者向けのアパートの空室率が高くなってきている」という課題から、“住まう”ことを面白くする必要性を感じたといいます。
実際のスペースやスライドでの写真を見ながら、リビングラボと連携した活動や、2020年11月に開催した初の主催イベント「ENJOY LOCAL!」についてご説明いただきました。最近では、築50年の空き家を解体の段階から関わり、リノベーションしていく学生シェアハウス兼地域のコモンラウンジ「八景市場ANNEX!」プロジェクトが始動したそうです。
続いてお話しいただいたのは、アマンダリーナ代表の奥井さん。奥井さんからは「“もったいない”から”おいしい!”へ」というコンセプトで手がけているという、金沢区のみかん畑で摘果(間引き)した青みかんを活用した商品の誕生ストーリーをご紹介いただきました。
会場では、みかんの皮から作った陳皮を使った「金澤八味」の素材を実際に手に取りながら、プロジェクトについてお話しいただきました。
金澤八味は、廃棄予定のアマモ(海中に根をはり育つ海草)を肥料として活用し、地元農園や小学校で唐辛子などの野菜を栽培し、地域発の名産品をつくる循環型プロジェクトです。「金澤八味」に含まれる唐辛子+8種類の素材(陳皮、しそ、しいたけ、昆布、山椒、生姜、黒ゴマ、あおさ)のうち、唐辛子を含む5種類は金沢区内で生産されたもので、地産地消モデルとなっています。
「地元の素材がたくさん入った、唯一無二の商品です。できた商品以上に、地域のみなさんが関わってくださっているので、つくる過程そのものに価値があると思っています。ここ(金沢区)で育てられた材料で出来上がったものが地域で消費されるという循環が、まさに食のサーキュラーエコノミーですよね」という奥井さん。地域の人を巻き込んだ、食のプロジェクトの醍醐味を語ってくださいました。
永島農園
次いで訪れたのは、八景市場から歩いて10分ほどの場所にある永島農園です。
ここでは、永島さんがシイタケ栽培を始められた理由や、規格外のシイタケを使った農福連携のプロジェクトなどについてお話を伺いました。「きのこ」は循環に役立つ作物だそうで、永島農園ではきのこを栽培する菌床におがくずや米糠、ふすま、とうもろこしの芯などを使っており、栽培に使ったあとは畑の堆肥として活用しているといいます。
昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、飲食店向けの売り上げが激減するなど苦戦を強いられた時期もあったのだそう。自宅で過ごさなければならない人が増える中、体験学習として子どもから大人まで楽しめるものを…と思い、以前から販売していたシイタケの栽培キットをSNSに投稿。そこからメディア掲載につながるなど、コロナ禍ならではの変化もあったといいます。
2020年秋には、太陽光発電設備を導入するためクラウドファンディングをしていた永島さん。周囲が住宅地という都市農業の特徴をふまえ、普段は太陽光パネルでハウスの換気や乾燥機に入れる前の一次乾燥用の扇風機の電力をまかない、災害時には非常用バッテリーとして使える蓄電池を導入し、地域の防災拠点としての役割を兼ね備える形に進化させたそうです。これもつながりのある農家さんをはじめ、地域のみなさんの協力や連携ありきで実現できたことだといいます。
シイタケの栽培キットという「作り手」の体験からエネルギーの循環、地域における防災拠点としての役割まで、永島農園のシイタケ栽培を通して幅広い循環の仕組みを学びました。
永島農園でのキノコ狩り体験
お話を聞いたあとは、実際にシイタケを栽培しているハウスに移動し、きのこ狩り体験へ。永島さんにきのこをとるコツやおいしい調理法を聞きながら、思い思いにシイタケをとっていきます。
各自袋いっぱいのシイタケをお土産に、フィールドワークは終了となりました。「地域で育てられたものを実際に味わう」ことも、食の循環の上では欠かせない体験。フィールドワークにご参加いただいた皆様も、ご自宅に持ち帰ったシイタケで、おいしく学びを深めてくださったことと思います。
誰もが身近だからこそ親しみやすく奥が深い、食のサーキュラーエコノミー。Circular Yokohamaでは、今後もプロジェクトへの参加や情報発信を通じて、食を通じた地域課題の解決に努めてまいります。
編集後記
サーキュラーエコノミーの観点から見ると、雇用も含め地域の中に「作り手」を増やすことがポイントになってきます。SDGs金澤リビングラボのように、誰もが「作り手」になれる機会をつくり、人と人とがつながれる場所をつくることは、イベントやプロジェクトの発信のみならず「まちづくりに参加する」「地域の課題に気づく・共有する」きっかけづくりのデザインなのだと感じました。
建物の解体や食料品の生産など、以前は専門家のみが手がけていたプロセスに街の人が参加することで「この街に住む理由」や街への愛着がより明確になるという意味では、まだまだ秘められている資産も多いように思います。コロナ禍で大人数でのイベント開催などは難しい状況が続きますが、そんなときだからこそゆるやかに地域で集える「場」やきっかけを必要としている人も多く、地域のコミュニティでのつながりがその街で暮らす安心感、さらには地域の資産の見直しにつながるのではないかと思うことができたフィールドワークでした。
最近では地元産の野菜の直売所や、地産地消をサポートする飲食店など、地域の食の循環を感じられる取り組みも増えてきています。みなさんもお住まいの地域でどのような作物が栽培され、どのように消費されているか、改めて見直してみてはいかがでしょうか。身近な「食」を通じて、新たなつながりが発見できるかもしれません。
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【関連サイト】八景市場 公式サイト
【関連サイト】アマンダリーナ 公式サイト
【関連サイト】永島農園 公式サイト
Circular Yokohama Editorial Team
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